192.足元の傑物を見落としたなんて
「トリアは、これを着るのか?」
きらきらと目を輝かせるアデリナは、私の婚礼衣装に興味津々だった。彼女の結婚は一番最後になるから、まだ時間がある。もちろん衣装はもう仕上がっているし、装飾品もガブリエラ様と選んでいた。色もデザインも個々に違うから、一人ずつ回っているみたい。
「そうよ。マルグリット達の衣装も見てきた?」
「ああ、全部綺麗だ。あたしに姉妹が増えるなんて、不思議だな」
兄弟はいても、姉妹はいないと話すアデリナは嬉しそう。貴族令嬢だったマルグリットやコルネリアも、それぞれに美しい外見を持つ。アデリナにしたら、新しいお人形が増えた感覚かしら? 自分もお人形になる自覚はなさそうだけれど。
今後は義姉になるアデリナを、ガブリエラ様と着飾る予定なのよ。マルグリットも興味津々だった。あの後、すぐにコルネリアを呼び出して、義姉妹の関係について提案を始めたわ。あの行動力は凄いわね。私もすぐ動くほうだけれど、決めたらすぐだもの。
マルグリットの話では、前の婚約者の呪縛から解かれたとか……今度詳しく聞いてみましょう。たぶん、束縛されたか。またはマルグリットのほうが評価されて、嫉妬したような気がするの。それで猫を被って大人しくしていたけれど、ようやく自由になった。
解き放たれたマルグリットの能力や行動力は、皇妃として得難い素質だわ。でも決めるまでは慎重に検討するみたい。コルネリアはライフアイゼン公爵令嬢らしく、大人しく振る舞ってきた。彼女もある意味、貴族令嬢の枠に押し込まれた傑物ね。
エック兄様を上手に転がしてくれそう。考え込んで煮詰まるエック兄様から、不満や苛立ちを抜いてくれそうな人だった。こんな貴重な人材が国内にいたのに、見落としてきたなんて。私の人を見る目は本当に当てにならないわ。
こういうのはルヴィ兄様が得意だった。でも貴族令嬢は外で能力を発揮することが少ないから、目立たなくて拾い損ねてしまう。今後を考えるなら、貴族学院を作って人材育成のついでに引き抜くのもありね。
「この裾はどうなっているんだ?」
「歩くと中に履いた別のスカートが見えるのよ。これね」
膝下から広がるフィッシュテールを見ていたアデリナの質問に、隣のトルソーが履くスカートを示す。水の流れに似た刺繍に、小さなビーズ細工が光る。白いスカートの刺繍は銀糸を使ったの。そっと触れて微笑むアデリナの指先は、以前より滑らかになった。
こまめにクリームを塗りこみ、手入れをした結果ね。結婚後はまた元に戻らないよう、しっかり指導しましょう。鍛錬もいいけれど、アデリナの日焼けした肌は私達の想像より綺麗なの。もっと荒れていると思ったから、驚いたわ。手入れなしでこんなに綺麗なら、丹念に手入れをしたくなる。
「この飾りをつけるのか……早く見たい」
にこにこと機嫌のいい彼女を誘って、一緒にお茶を飲む。アデリナの普段着は、スカートではない。騎士のようなパンツ姿で、ノースリーブの長いベストを着用した感じ。いえ、コートのほうが近いかしら? 足元まで裾が届きそうだった。
長身だから縦に強調するラインが映えるわ。お茶をしながら雑談を楽しんだ結果、アデリナの部族の晴れ着だと判明した。宮殿に合わせて、彼女なりに着飾っていたのね。素敵だし動きやすそう。私も取り入れたいと口にしたら、大喜びした。
プレゼントしてくれるそうなので、代わりに私からも可愛いひらひらの部屋着を贈るわね。外では着にくいでしょうけれど、部屋の中なら平気なはず。慣れたら、外でも可愛い服を着せましょう。アデリナが思うより、ずっと素敵に仕上がるわ。いまから楽しみよ。




