185.結婚式の準備は着々と
神殿へ叔父様を訪ねた。事前に予定を確認したので、今日は神殿にいるはず。お父様の二周目に付き合っていると聞いた。ご自分で回らなくてもいいのに、叔父様もお父様に甘いのよね。お父様が溺愛する理由もわかるわ。
誰だって自分に懐く者は可愛いでしょう? エック兄様から相談を受けた税制改革に意見を出し、フォルト兄様の訓練にクラウスを差し出した。クラウスは将軍になるティムを連れていくと言ったから、問題ないと思うわ。
ルヴィ兄様は他国からの使者と面会しているため、ガブリエラ様が同行する。国内の不穏分子はすべて潰したと思うけれど、過保護なのよね。でも心配されるのは気分がいいわ。大切にされている証拠だもの。ガブリエラ様と馬車に乗るのは久しぶりで、結婚式の話題で盛り上がった。
ドレスの好みが見事にバラバラだから、手配をするガブリエラ様も楽しいみたい。
「トリアとアデリナは体にぴたりと沿うものを……マルグリットやコルネリアはふんわりしたほうが似合いそうだ」
「そうね。アデリナは動きやすさ重視でしょうけれど……プリンセスラインも着せてみたい気がするの。似合うんじゃないかしら?」
「……ふむ。背丈があるから縦に長いものと思い込んでいたが、そう言われれば……袖を膨らませても似合うか」
「ええ。自分では似合わないと思っているみたいですわ。でも、二の腕の筋肉をパフスリーブで隠したら、目立たなくなると思います」
筋肉が目立つと気にしていたから、膨らんだ袖で隠すのも一つの手法よ。袖なしで見せるより目立たないはず。本人は人形が好きなのだから、そういった格好を忌避する可能性も低いし。
「お嬢様、意見をよろしいでしょうか?」
同席していたエリーゼが、珍しく口を開いた。促せば、思わぬ提案があった。
「袖のみを作成し、ドレスに隠しボタンで繋げる工夫をなさってはいかがかと。それでしたら外すことも可能です」
当日の気分や状況に応じ、取り外しが出来るよう袖を作る。飾りリボンや隠しボタンでドレスと固定したら、落ちてしまう心配もなかった。確かに素晴らしいわ。
「素敵ね、そのアイディアを借りるわ」
「盲点だったな。さすがはトリアの侍女だ」
恐れ入りますと一礼するエリーゼの誇らしげな顔に、私も嬉しくなる。ドレスや装飾品を扱う侍女ならではの視点だわ。針子とも意見交換することが多い仕事だから、自然と詳しくなるでしょうし。助かったわ。改めてお礼を伝えたところで、馬車が神殿に到着した。
下りて叔父様の姿が見えないことに首を傾げる。奥から走って来るのは、まさか……叔父様?
「ウルリヒめ、私の時には平気で遅れるであろうに」
事前にそんなことがあったのかも。ふふっと笑い、叔父様の到着を待って挨拶を受ける。通された部屋で、ローヴァイン侯爵家の弟君の話をした。クラウスには事前に許可を取ったけれど、家族内で秘密ごとはなしよ。共有して何かあれば助け合うのが、私達のルールだもの。
「なるほど……では知らずに届け出た戸籍に、誤りがあったと。ままあることです。こちらで内々に処理しましょう」
神様に対しては「間違っていました」と戸籍を修正する。けれど、外部には出さず発表もしない。叔父様の提案に、ガブリエラ様も満足げに頷いた。私も異論はないわ。
「お願いしますね」
これで結婚式にクラウスの親族として弟が参加できるわ。堂々と正面から神殿に入り、式を見ることが可能よ。そういえば……弟の名前を聞いていなかったかも。ティムの妹と婚約したのは確かだけれど、あら? 会話の中で名前が出ていなかったわ。
報告書の文字を思い浮かべた。確か……オスカーだったかしら?




