163.お茶会後の見送りで揉める
民族衣装と同じ絹を肩から掛けたアデリナは、腰に短剣を差していた。革ベルトで固定された武器を指摘すると、手放す気はないと返る。婚約式の対策として、足にベルトで固定するよう説得しないと。皇族の婚約式に武器を携えて……あ、フォルト兄様もだわ。
絶対に剣を持っていくと言うに決まっている。対策を考えましょう。宝剣のような形で誤魔化すとか……。考えながらもアデリナの姿を褒める。
「ドレスの色を合わせてくれたのね、嬉しいわ」
「あたしは日焼けしてっから、こういう色は似合わないだろ」
少し恥ずかしそうに目を逸らす。そんなことないわ、否定する言葉は私以外から出た。
「いいえ、とても似合っているわ。肌の色が濃いと薄い色のドレスが似合うのよ」
驚いて凝視したのは、マルグリット。微笑んで、嫌みでもなくさらりと褒めた。それも私とアデリナを同時に……。
「ええ、本当に似合っているわ。皇太后様もそう思われるでしょう?」
コルネリアも穏やかに参加する。それとなくガブリエラ様を巻き込んだ。
「堅苦しい肩書きは不要だ。ガブリエラと呼ぶがよい」
マルグリットとコルネリアに許可を与え、女傑は満足げに笑った。これで安心したのか、アデリナの表情が明るくなる。口数も増え、嬉しそうに私の隣に座った。向かいにマルグリットとコルネリア。こちら側は私を中心にガブリエラ様とアデリナが脇を固める。
偶然だけど、戦える者と守られる者に分かれたわね。やや物騒なアデリナの話も、間にガブリエラ様が入って和らげる。貴族令嬢らしい煌びやかな話題は、私が受けてアデリナに説明した。互いの距離感が詰まってきて、自然な会話と笑顔が増える。
途中で乳母のアンナがジルヴィアを寝かせると伝え、騎士の付き添いで戻った。お昼の軽食を挟み、午後も様々な話題で盛り上がる。アデリナはフォルト兄様の話に興味を持ち、親族で付き合いの長いコルネリアに質問を始めた。
マルグリットと私は国政について意見を交わす。途中でガブリエラ様が参戦し、皇妃経験者としての心構えや対応を教わった。とても有意義な時間だったわ。
夕暮れが近づくとさすがに冷えてきて、それぞれの婚約者が迎えに来る。
「まだ話すなら、夕食を用意させるけど?」
ルヴィ兄様の提案に迷って、今回は断った。また別の機会を作ればいいし、マルグリット達は帰宅する予定もある。あまり遅くなれば、安全のために宿泊になるだろう。宮殿内は人の目があり外聞もよくないので、見送りに立つ。
「あたしが送っていこうか?」
「アデリナ、気持ちは嬉しいけれど……今後はあなたも護衛がつく立場になるのよ」
女戦士として馬を駆るアデリナは、ぴんと来ていない。元帥で大公閣下の肩書きを持つフォルト兄様が、あーとかうーとか言いながら不器用な説明を始めた。くすくす笑って、エック兄様の背中を押す。
「エック兄様はコルネリアを送って行って」
言わなくてもルヴィ兄様は準備を始めていた。皇帝なのに一番最初に出かける用意を整えるなんて、困った人ね。ガブリエラ様の提案で、まとめて移動が決まった。ライフアイゼン公爵家経由で、ザックス侯爵家へ。フォルト兄様が護衛として同行するため、ルヴィ兄様は見送りとなった。
「非常に残念だ」
「また会いに来ますわ」
マルグリットとの仲も良好なようで安心したけれど、近場でも皇帝がひょいひょい出かけると困るのよ。それは宰相であるエック兄様も同じ。ガブリエラ様に叱られて、乗り込んだ馬車から降りた。結局、フォルト兄様一人で二人のご令嬢を送っていく。
「自分の立場をよく考えてほしいわ」
「トリア様も同様です」
今まで黙っていたクラウスにぴしゃりと言われ、反芻してみる。私、そんなに危険なことはしていない、わよね?




