155.悪ガキ二人で報復を ***SIDEマインラート
ライフアイゼン家の夜会が終われば、忙しくなる。国内貴族の処断は、こちらに任せてもらう算段をした。妻ガブリエラが婚約式の準備を取り仕切ると意気込んでいる。任せて構わないだろう。
異母弟ウルリヒも神殿の仕事が忙しい。皇族の婚約式や結婚式があれば、神殿は大騒ぎだった。一大事業となる婚約式が、一度に四人……いや、相手もいるから八人か。四組と数えるべきだった。四組のすべてが皇族で、兄妹達なのだ。神殿の混乱具合も当然の状況だな。
「貴族どもの処断は、わしとフリッツで取り仕切るとしよう」
ライフアイゼン公爵フリッツは、悪友だった。親戚でもあるが、それ以上に幼馴染みで一緒に悪いことを楽しんだ仲だ。王宮内を混乱に陥れた悪戯は、一つや二つではない。懐かしく思いながら、一回り年上のフリッツを呼びつける手紙を出した。
手元に届いた報告書は、ローヴァイン侯爵とエッケハルトから。加えて、フリッツが提案書を寄こした。皇族やその妻になる女性に手を出そうとしたクズのリストに、口角が持ち上がる。どう料理してやろうか。爵位を取り上げる程度では気が済まない。
大陸で一番厳しい罰を課したのは、先祖であるリヒテンシュタット帝国だろう。その厳しさを引き継いだのが、イエンチュ王国だった。彼らは部族の決め事の中に、リヒテンシュタット帝国の処罰がそのまま活用されている。だが、彼らは逆の意味で利用していた。
家畜を一頭奪われたら、罰として相手の家畜を一頭貰う。それ以上の対価を求めない。強さを貴ぶ彼らにとって、侮辱や出し抜かれた怒りは大きかった。家畜一頭と引き換えに、相手の一族を皆殺しにしないためのルールだ。
我が国ではそこまで苛烈ではないため、ほぼ同じ法であっても適用しても穏やかに受け止められてきた。もちろん、処罰には甘いほうから厳しいほうまで、ある程度の幅がある。そこを厳格に先祖のやり方を適用したら……立派な粛清の形が整った。法に反していないので、誰も反対できない。
こういう策を練るのが、わしの取り得だった。ガブリエラがわしを評価するのも、この部分だ。腕っぷしだけなら、勝てる要素はなかった。
わしらが可愛がるトリアを、出戻ったと蔑んだ連中の名に印をつける。襲おうとした連中の名の下へ線を引いた。より厳しく罰してやろう。なに、処罰などさじ加減一つだ。ご先祖様に比べたら、手緩いくらいだからな。暗記した法律書を手慰みに広げ、より厳しい罰を適用する方法がないか調べる。
「失礼いたします、先帝陛下にお客様がお見えです」
ノックと扉の外からの案内に、仰々しく頷きかけ……見えないことに気づいた。
「わかった。ライフアイゼン公爵なら通せ」
命じて、ベッドに飛び込む。客間として用意された部屋は、現在、療養のための病室になっていた。
「右手と左足……だったか?」
ウルリヒと決めたケガを思い出す。利き腕と、同じ側だと不便だから左足にしたはず。包帯をくるくると巻いて、ベッドに飛び込んだ。ケガ人とは思えない元気な動きで、上掛けを被った。包帯の位置をもう一度確かめたところへ、ノックが聞こえる。
「入れ」
「おお! 久しぶりですなぁ。おケガをなさったと耳にして、心配しておりました」
フリッツが大袈裟に声を上げ、周囲に聞かせてから扉を閉める。少し耳を澄ませてから、こちらへ近づいた。大股に歩み寄り、ぽんと右手を叩く。
「何をするか!」
「ふむ、痛くなさそうですな」
言われて、慌てて痛い振りをする。もちろん遅い。
「知っておりますので、隠さずとも結構。さて、マインラート。悪さをした奴らへの報復に混ぜてもらおうか。私の大切な孫娘二人の仇だからのぉ」
「一人はわしの娘だ。それと……やたら早いな」
「こちらへ向かう途中で使者から手紙を奪ったからだろ」
いつもの好々爺とした口調を崩す、かつての悪戯仲間に……自然とわしも笑顔になった。やるからには、徹底的にやるぞ! 拳を触れ合わせ、にやりと口角を引き上げた。




