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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!


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118.上司のお守りも慣れてきました ***副官ハイノ

 元帥閣下の副官を拝命し、早十年か。長いのか短いのか、目の前で手合わせをしている上司を眺める。癖のある剣技ながら、隙はなかった。荒々しく上から叩き、防がれても蹴りを入れて守る。元帥閣下の戦いというより、ならず者のようだ。


 いつもの訓練風景の中、嬉々として応じるデーンズ王国の元騎士団長ゼークト卿を目で追う。敵として相対したはずが、いつの間にかこちら側へ引き込んでいる。リヒター帝国の皇族に見られる特徴だった。顕著なのは、皇帝陛下の人たらしだろうか。


 国境近くに陣取ったフォルクハルト様は、部下や敵だった騎士と手合わせに勤しんでいた。というのも、退却命令が出ていない。デーンズ国王の首は、元騎士団長の手で献上された。これ以上留まる理由はないと思うが……何か動きがあったのか。


 偉い人達の考えは、雲の上ですからね。想像もできません。


「おらおらぁ!!」


 どこぞの盗賊かと疑うような声を上げて、フォルクハルト様が斬りかかる。刃のない木剣だが、直撃すれば骨折は覚悟の威力だった。それを木剣で受け流したゼークト卿が「せぃっ!」と気合いを込めて、下から跳ね上げる。普通なら剣を飛ばされる場面だが、筋肉自慢のフォルクハルト様は持ち堪えた。


「おりゃぁ!」


 これ以上は危険か。ゼークト卿が大ケガをする前に止めるべきだろう。夢中になると手加減を忘れるフォルクハルト様は、一時期、複数の部下にケガを負わせた。まあ、挑発した部下も悪いが……元帥や将軍の代替わりには、帝国でよく見られる現象の一つだ。


 今回はまだデーンズ王国への対応が発表されていない。敵なら構わないが、万が一同盟関係になるなら問題だ。部下に右手を差し出すと、木剣が用意された。しっかりと両手で握り、タイミングを計る。距離を詰めて、二人の間に割って入った。


 ゼークト卿の剣を左手で防ぎ、右手の木剣を上司の顔に突き付ける。野生の本能か、直前でぴたりと止まったフォルクハルト様は「ハイノ?」と呟いた。


「ここまでです。ケガをしますよ……ほら、汗を拭いて着替えてください」


 訓練は終わり、と言い聞かせる。まだ足りないとぼやくが、素直にフォルクハルト様は引いた。これがあるから、私はいつまでも副官をやめさせてもらえない。


「……助かりました、そろそろやばいと思っていたので」


 額の汗を拭うゼークト卿は、穏やかな口調で一礼した。敗戦の将として元帥預かりとなっているが、実際は戦ってもいない。仕える主君が違えば、彼の未来はもっと拓けていただろうに。気の毒に思いながら、向き直ったところに伝令が入った。


「予定通りに事が運んだようですね」


 宰相閣下とヴィクトーリア姫様から事前に受け取った指令書には、クレーベ公爵を動かす作戦が記されていた。デーンズ国王の甥が王位を簒奪する。神々と神殿を敵に回したデーンズ国王が生きる道は閉ざされた、と。フォルクハルト様を動かし、国境で圧力をかけろ。それが指示だった。


 あの方々は、預言者なのだろうか。私には見通せない未来を、あっさりと手繰り寄せる。クレーベ公爵は王位を得て、停戦を布告した。先代王の愚かさを喧伝し、民を纏める手法のようだ。元騎士団長による王の殺害が加わり、デーンズ王国がリヒター帝国と敵対する未来は消えた。


 少なくとも……しばらくの間は。静かな時代を過ごせそうだ。もし叶うなら、あと二十年ほど軍属として勤め上げ、部下に「早く引退して席を空けろ」と蹴られながら田舎に引っ越すのが夢だ。大きな欠損や後遺症なく、田舎の小さな家で余生を暮らす。


 もしかしたら、叶うかもしれないな。着替えに向かったフォルクハルト様が戻ったら、停戦となったことを伝え、引き上げる算段をしよう。伝令が運んだ指示は、首都への帰還だ。久しぶりに、お気に入りの店で甘味を楽しめる。浮かれながら、部下に退却の準備を指示した。


 すぐにもう一人伝令が駆け込み、変更を余儀なくされた。甘味はお預けか。

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― 新着の感想 ―
二十年なら、元帥閣下がまだ元気だろうから、勘違い野郎ぐらいしか「席を譲れ」とはいわないのでは? ※元帥閣下の副官が務まる人は早々いないだろうし...
 例の騎士団長くんは秒で弾かれてお仕舞いだったなぁ…  フォルト兄様とゼークト卿に割って入ったハイノ副官にグッときた! カッコよ♪
多分10年ぐらいでどうしてこうなったかも忘れた馬鹿とお花畑の脳みその若者による反乱がおきるで
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