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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!


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103.表立って言えない理由があるのよ

 表宮にある宰相の執務室を訪ねた。もちろんクラウスのエスコート付きよ。家族になると決定した人だから、エック兄様は何も言わなかった。ルヴィ兄様には余計な発言をしないよう、釘を刺して置いてきた。


 あとは、ザックス侯爵家にも口止めが必要ね。うっかり人前で、ルヴィ兄様の手伝いで泊まり込んだなんて言われたら、事件だもの。根回しはクラウスに頼むことにした。


「トリア、ローヴァイン卿、何かありましたか?」


 相変わらず丁寧な口調のエック兄様に、先ほど提案された”祝い事”を話す。


 戦いが始まれば、どうしたって国民に被害が出るわ。帝国が強くても、兵士の実力が高くても、全員が無傷で戻れる保証はないの。当然、フォルト兄様も含めてね。だから戦わないで勝つ方法があれば、それを使わない理由はない。たとえ卑怯な手だとしても。


「だから、クレーベ公爵を支持しましょう」


「……トリアの案なら、構いませんが」


 ほかに理由があるのでは? 探るようなエック兄様に笑顔で畳みかける。


「戦わず、デーンズ王国を落とすために打った手ですもの。使わないのは惜しいわ。それにクレーベ公爵も動いているそうよ」


「では以前決めた通り、クレーベ公爵に自治権を与える策を遂行しましょう」


「ええ、それでお願い。戦いを回避したら、すぐに婚約式に入れるわ」


 無言でエック兄様が私の顔を見つめる。穴が開くほど、と表現できるほど。じっと見つめてから、言葉を選んで口を開いた。


「婚約式のため、ですか?」


「私とクラウス、ルヴィ兄様とマルグリット、エック兄様も……でしょう?」


 ライフアイゼン公爵令嬢は、正確には現当主の孫に当たる。まだ隠居していないけれど、事実上、次の公爵の娘として令嬢と称されてきた。政略ではなく恋愛で繋がるエック兄様達も、はやく婚約したいはずだわ。


 鉄壁の防御で笑顔を貼り付け、穏やかな声で返す。探る視線にも揺るがない私へ、エック兄様は両手を上げた。肩の高さで手のひらを見せ、降参だと呟く。


「負けを認めますから、教えてください。トリアは何を焦っているのか」


「ルヴィ兄様よ」


 クラウスが意味ありげに唇へ指で触れる。察しのいいエック兄様は、それで理解したみたい。やれやれと首を横に振った。


「わかりました。急がせましょうか」


 私の我が儘の形をとって、押し通して頂戴。ルヴィ兄様達が疑われるのは困るの。そう訴えたら、わかっていますと頷くエック兄様は、ため息を吐いた。


「弟妹が我慢できているのに、兄上がやらかすなんて」


「エック兄様?」


 唇に人差し指を立てて、秘密よと示す。意味ありげな言葉が誰かに聞かれたらどうするの? 私の仕草に、エック兄様の表情が引き締まった。


 情報を扱って世論を操るのは、どこの王侯貴族も当たり前に学んでいる。敵味方関係なく間諜を送り込むのも、日常の一つだった。把握して泳がせる獲物もいるけれど、互いに暗号や隠語を使って悟らせないよう振る舞う。うっかり、が足を引っ張る世界だもの。


「失礼、書類処理に関しては一任してくれて構いません。日程調整は任せます」


「承知したわ」


 立て直したエック兄様に了承を伝え、クラウスへ腕を差し出す。恭しく絡めた彼と歩き出し、扉のところで足を止めた。


「フォルト兄様のお相手、見つからないかしら? せっかくだから四人一緒に婚約式をしたいわ」


「……検討しておきます」


 フォルト兄様を上手に転がせる女性は、なかなか見つからないようね。難航している様子のエック兄様へ会釈し、私達は廊下に出た。


「クラウスに心当たりはない? 家柄や財産は不要よ」


「出身を一切不問にするとお約束いただけるのであれば、二人ほど」


 心当たりがあるの!? すごいわ、紹介して頂戴ね。

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― 新着の感想 ―
ローヴァイン侯爵家が情報に通じしている家だと『95.最高の幸運を得た ***SIDEクラウス』にありましたが、単なる設定ではなくしっかり回収されていてよかったです♪ 誠実で一途なところのあるクラウス=…
クラウスはん、有能どすなぁ……(笑) 情報収集の鬼か
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