第107話「再集結」
ディンフルにはもう、飛行出来るマントや移動するだけの魔力が無かった。
これではフィトラグスを呼び出したり、迎えに行くことも出来ない。
彼が途方に暮れると、突然ユアが手を繋ぎ始めた。
「何だ?」
ユアは返事をせず、目をつぶり念じていた。
「ユア……?」
ディンフルが呼んだところで、超龍との間に壁となっていた斜面が大きな音を立てて爆発した。超龍の光線が当たったのだ。
爆音と衝撃でユアが目を開け、手も離した。
「やっぱりダメだ……」
「な、何が?」
「今、インベクルへ飛ぶよう念じてたの。私、リアリティアと異世界間の移動が出来るから、フィーヴェの中の移動も出来るかなって思って……」
やはり、ユアの力は世界同士の移動しか出来なかった。
しかし、話している場合では無い。超龍との間の壁が無くなってしまい、相手はこちらを睨みつけていた。
「こ、こうなったら、一旦リアリティアへ戻って、そっからインベクルに飛ぼう! そうすれば確実だよ!」
「扉は? ミカネが開けっぱなしにしているとは思えぬ」
「“閉めて”って頼んだんだった……」
リアリティアへ繋がる扉はもう閉まっているため、ユアは異世界間の移動も出来なくなっていた。
その時、超龍が大きい口から光線を吐き出した。
ディンフルがすかさず前に出て、体を大の字に広げた。
「ディン様?!」
光線を一人で受けるつもりだ。
彼は振り返り、優しい表情でユアへ感謝の意を述べた。
「役立とうとしてくれたこと、感謝する」
敵の攻撃を前に体を広げる人物……その光景をユアは以前も見たことがあった。
「イマジネーション・ストーリーⅣ」のエンヴィムだ。
彼はゲームの世界に遊びに来ていたユアを庇い、亡くなった。
今のディンフルがエンヴィムと重なって見え、ユアの脳裏に大切な人を失う恐怖が蘇った。
(私のせいで、また……)
ディンフルは眩しさで目がくらむと同時に死を覚悟し、目を瞑った。
次の瞬間、光線は大量の光の粒となって弾け飛んだ。
眩い光が無くなり、目を開けるディンフル。
「な、何だ?!」
光線は消え、自分の前には同じく体を広げて立つユアの姿があった。
「ユア?! 後ろにいただろう?!」
「ディン様まで失いたくなかったから……」
すぐにエンヴィムのことだと察したディンフル。
だが彼はユアの無謀さが許せず、怒号を上げた。
「バカ者!! 光線を受けたらどうなっていた?! 俺は辛うじて生き残れるが、お前は即死だぞ!!」
怒鳴り声にユアが思わず体を震わせる。
怒りから一転、ディンフルは安堵の表情も浮かべながら声を絞り出すように言った。
「良かった、無事で……!」
そして、すぐに目を丸くして疑問をぶつけた。
「しかし、何故無事なのだ? お前は魔法を使えぬだろう?」
「たぶん、おじいさんのお陰かな?」
「おじいさん?」
ユアは、ここへ来る途中に出会った老師について説明した。
言い回しはユニークだが精霊のサラマンデルを治療する力を持っていたり、魔封玉の存在に気付けるなど、普通の人間では無いと。
そして、ユアの体に金色のバリアを張ってくれたのも彼だ。
そのバリアのお陰で超龍の光線は粉砕され、二人を守ったのだ。
しかし効果は一度きりで、ユアの体から金色のオーラが消えて無くなってしまった。
「すごいね! 白魔法とは違う防御魔法だよ! やっぱり、あのおじいさんはただの人間じゃないんだよ!」
「まぁ、老師と名乗るぐらいだからな。自他共に、普通ではないのだろう……」
老師に対して意見するディンフルは、何故か苦虫を嚙み潰したような顔になっていた。
「だが、次は無い。そのバリアも、消えてしまった」
「そうだね……。祈りの力で倒せないかな?」
「祈り?」
「リアリティアではそういう作品があるの。主人公や仲間が散々やられても意志だけはずっと固いままで、“絶対に負けるもんか!”って大声を出した瞬間に新しい力が生まれて、それで敵を倒せるようになるんだ」
「ずいぶんと都合のいい話だな……。実際は何も起きぬパターンが多い。発声するだけで倒せるなら、武器や魔法はいらぬ」
超龍は引き続き二人を睨みつけ、再び口を開けた。
また光線を撃つつもりだ。
「同じものが来られては、まずい!」
そこへ二人の前に、二メートルほどの大きさの球体が現れた。
割れると中からフィトラグス、ティミレッジ、オプダット、ソールネム、チェリテットが姿を現した。全員、完全に回復した状態だった。
「みんな?!」
「お困りのようだな」とフィトラグス。
「おいおい! ディンフル、大丈夫か?!」傷だらけのディンフルを見て慌てるオプダット。
「さすがの魔王もお手上げのようね」冷静に言うソールネム。
「今、回復しますね!」
ティミレッジが杖を掲げて魔法を唱えるとディンフルの傷は治り、破れていた服もマントも元に戻った。
「さすが、ティミー君!」と喜ぶチェリテット。
「よかったね、ディン様!」
ユアが歓喜の声を上げると、フィトラグスとオプダットは彼女がいることに驚いた。
疑問をぶつけようとするフィトラグスをディンフルが遮った。
「お前たち、何故ここに?」
ディンフルも不思議に思うのは無理はなかった。
魔法でインベクルへ送った一行が戻って来たのだ。それも、「都合のいい展開はない」という話をしていた最中に。
「俺たち、老師さんに送ってもらったんだ!」
オプダットが意気揚々と答えた。
さらに聞くと、その老師は帰されたはずのフィトラグスたちをこの北の大地に留まらせた。ソールネムとチェリテットも合流させ、すでに二人を回復してくれていた。
再会した五人は「やっぱり超龍と戦いたい」と意見が一致し、老師の魔法でここまで飛んで来たのだった。
「老師のお陰とは言え、都合のいい話は存在するのだな……」
ディンフルが呆れながら言うと、今度はフィトラグスたちがユアへ尋ねた。
「それで、何でユアがここにいるんだよ?」
「本当だ! 久しぶりに会えて嬉しいぜ!」
「喜んでる場合じゃないよ! 今は超龍がいて、とても危ないんだよ! リアリティアでも説明したよね?」
オプダットが喜びの声を上げるが、事情を話していたティミレッジは怒り心頭だった。
「秘策を持って、我々へ恩返しに来たのだ」
ユアの代わりにディンフルが三人へ答えた。
さらに「超龍を倒せるかもしれぬぞ」と得意げに言った。
「どんな秘策なんだ?」
「これっ!」
フィトラグスが聞くと、ユアは持っていたイマストVの攻略本を差し出した。
五人は攻略本の表紙をまじまじと見つめた。
「これって、私たち?」表紙を見たチェリテットは興味津々だ。
「前に見せてくれた娯楽の絵よね?」と少しだけ驚いた様子のソールネム。
「何だ? その、オープンが一生掛かっても読破出来なさそうな厚さの本は……?」
フィトラグスが皮肉交じりに尋ねた。本の表紙よりも分厚さに驚いたのだ。
何故なら、イマストVの攻略本は約四センチもの厚さがあるからだ。
「“あつさの本”って、本にも温度があるのか?!」
今度はオプダットが驚愕して聞き返した。「厚さ」と「熱さ」を間違えているようだ。
ディンフルは「一生どころか、来世でも無理だろう……」と呆れかえった。
「これは、イマストVのすべてのデータが詰まった本だよ! 敵だけじゃなくて、キャラクター、アイテム、武器、防具、衣装、アクセサリー、魔法、フィーヴェの地図、あとイマストVでは畑作業や料理、釣り、建築の要素もあるから、そのデータも!」
ユアが自信たっぷりに説明すると、真っ先にティミレッジが興奮し始めた。
「つまり、リアリティアの書物ってこと?! もっとよく見せて!!」
「ゆっくり見ている時間は無いわよ!」
ソールネムがたしなめた。
彼女の視線の先には、こちらを睨む超龍の姿がある。ティミレッジが「確かに……」と我に返った。
「ゲームを進めるための本だよな? それを登場人物の俺らが使うことになろうとは……」と、苦笑いするフィトラグス。
「これ知ってるぜ! たしか、”孫の手”……いや、”猫の手”って言うんだろ?」
「”奥の手”ね!!」
相変わらず言い違えるオプダットへチェリテットがつっこむ。
「もう倒し方はわかっている。お前の力が必要だ、フィトラグス」
「お、俺?!」
「本によると、“光と闇の力をミックスさせた超必殺技を使え”とのことだ」
「超必殺技?」
「それって、”ルークス・ツォルン”と”シャッテン・グリーフ”?」
ディンフルの説明にオプダットとティミレッジが不思議がった。
「“超必殺技”ってぐらいだから、技名も変わるんじゃないかな? そのまま使ったら合体技になるし」
ユアが助言した。
昔から空想作品を見てきたため、技に関しても少し詳しかった。
「ディンフルとフィットの力を合わせるって、どうやるの? 超龍は大きいし、ダメージも与えにくいわよ」とソールネム。
隣で聴いてたチェリテットが突然、驚愕した。
「よ、よく見たら、超龍ってあんな眩しい色してたっけ? 前より強そうじゃない……?」
超龍の進化に今頃気付いた。
ユアは再び攻略本を読みながら説明した。
「超龍はダメージを受け続けると進化するんだ。第二形態はダメージを受けないほど無敵になるけど、首元に核があるの。それが弱点だよ」
「超龍の弱点が知れるなんて、ありがたいな!」
フィトラグスが目を輝かせた。
ユアから攻略法を聞いたソールネムが早速作戦を立てた。
「私とチェリーで超龍の気を引くわ。その間にあなたたちで弱らせて」
立てられた作戦はこうだ。
女性二人が囮になり、超龍の気を彼女たちへ向かわせる。その間にティミレッジの白魔法で能力が上がったオプダットが首元の核を覆っている鱗を破壊する。
入れ違いにフィトラグスとディンフルが超必殺技で弱点の核を斬って、トドメを刺す。
「いい作戦だね!」
「お前は下がっていろ。超龍の近くは危険だ」
ユアが感激すると、ディンフルから優しく諭された。
改めて、自分は戦力を持っていないことを思い知らされた。
「頑張ってね。私、応援しか出来ないけど……」
「そんなことないわ。その応援のお陰で、戦法が見つかったんじゃない」
ソールネムは冷静だが、優しい言葉を掛けた。
「その本が無かったら私たち、倒し方がわからないままだったよ!」続いてチェリテットも励ました。
「二人の言う通りだ! ユアが来てくれたお陰だぞ!」オプダットも明るく言った。
「恩返しに来たらしいが、今ので充分だ」フィトラグスも満足げだ。
「超龍を倒して、フィーヴェが平和になったら案内して欲しいな、リアリティア! その本を見て、ますます興味が湧いたよ!」ティミレッジがわくわくして言った。
ユアは、本を一冊持って行っただけでこんなに感謝されるとは思わなかった。
これまで助けてくれた皆への恩返しに成功し、達成感を味わった。
「そういう感謝は戦いの後だ! 行くぞ!」
ディンフルの言葉で皆は我に返り、一斉に目の前の巨大な龍へ向かい合った。




