第100話「予感」
前回までのあらすじ
ユアはゲームのキャラクターのディンフル、フィトラグス、ティミレッジ、オプダットと出会い、五人でフィーヴェを目指す旅をして来た。
そんな最中、ユアは突然現れた大穴に吸い込まれ、故郷・リアリティアに帰って来た。
数日後ディンフルと再会し異世界へ帰ろうとするが、あちらとリアリティアを繋ぐ扉が番人のミカネによって閉ざされていた。
彼女が扉を閉ざした理由は「近いうちに異世界で巨大な龍が目を覚ます」という予知夢を見たため。ミカネの特殊能力で呼び出されたティミレッジも、大昔フィーヴェに封印された超龍が復活すると教えてくれた。
ユアの問題を解決した後、ディンフルは超龍を倒すため、フィーヴェへ戻って行った。
作中用語
〇イマスト:大人気RPGゲーム「イマジネーション・ストーリー」の略。ディンフルたちの代で五作目となる。
〇ディファート:イマストに出て来る種族。見た目は人間と一緒だが、生まれつき不思議な力を持っている。能力は人によって違い、ディンフルは戦闘力に特化している。昔から老若男女関係なく、人間から差別を受けて来た。
あれから数日。フィーヴェの様子は日増しに悪くなるばかりだった。
インベクル王国には、仲間たちが泊まり込みで会議に参加していた。
「報告いたします。火山の噴火や地震などで、多数の避難者が出ております。ケガ人は今のところありません。豪雨で洪水が発生し、北方では豪雪に見舞われている地域もあります」
ソールネムが魔法で探ったフィーヴェの様子をまとめ、インベクル国王・ダトリンドに報告した。
季節関係なく各地域でそれぞれの災害が同時に起きており、フィトラグスたちは呆然とするしかなかった。
「冬なのに豪雨とか台風って、ありえねーよ……」
「普通にありえないことが、超龍復活の兆しって言われてるんだよ」
ティミレッジが解説したところで城内が軽く揺れた。
インベクルでは今年に入って、数え切れないほどの小さな地震が起こっていた。
「今度は地震かよ~」
オプダットが不満を漏らす。
普段元気な彼も災害の前では陽気ではいられなかった。
「国王様。ここも避難をした方が良いのではないでしょうか?」
チェリテットが王族を案じて尋ねた。
「案ずるな、備えはしてある。我々より、君たちの町や村は大丈夫かね?」
「はい。チャロナグタウンではいざという時の避難場所を確保し、超龍と戦うため武闘家たちを鍛え直しております」
「ビラーレル村も全魔導士の魔法レベルを上げる修行を行っております。やはり皆、世界が滅ぶのを怖れております」
武闘家を育てる町・チャロナグタウンと魔導士を育てる村・ビラーレル村の現在の様子を、チェリテットとソールネムが報告した。
戦う意志を見せているのはフィトラグス一行だけでは無かった。
「”ディンフルの時は王子一行に任せっきりにしたから”と、今回は役に立ちたいそうです」
チェリテットがそう付け加えた。
フィーヴェの戦士たちはフィトラグス一行の力になりたかったのだ。
「ディンフルで思い出したけど……」
ソールネムが暗い面持ちで口を開いた。
「彼って、色んな魔法を使えたわね?」
「は、はい。ただ、使えない期間の方が長かったので、使っているところを見たのは少ないですが……」
「じゃあ、封印を解く魔法は使えるのかしら?」
ソールネムの質問に一同は目を見開いた。
「何でそんなこと聞くんだよ……? “ディンフルが封印を解いた”って言いたいのか?」
フィトラグスが聞き返した。
いくら人間を恨んでいたディンフルでも、そこまではしないだろうと信じたかった。
「ビラーレル村でそう噂されているのよ。戦闘力に長けたディファートだし、“そういう考えを持ってそうだ”って……」
「想像で物を言うなよ……!」
「そうだよ!!」
フィトラグスが怒鳴りかけたその時、オプダットが食い入るように声を荒げた。
「ディンフルがそんなことするわけねぇだろ! 人間を恨んではいたが、誰一人殺さなかったんだぞ!」
憤るオプダットに驚きながらも、皆は彼の意見に賛同した。
ラスボス戦の時なら、その噂を信じたかもしれない。
だが彼の事情を知った今は、ディンフルを責める者は誰一人いなかった。
しかし事情をまだ知らないダトリンドは、息子たちがディンフルを庇う様子に首をかしげるばかりだった。
父の様子をフィトラグスはすぐに察した。
「すべてが終わったらお話します」
「うむ……。今はディファートに構っている場合ではないからな」
オプダットとチェリテットは顔を見合わせた。
二人は、数日前からディファートの孤児をかくまっていた。
現在、一緒にかくまった名医・アティントスの家に隠しており、いずれダトリンドに話すつもりでいた。普段は彼が世話をしつつ、勉強も教えていた。
今は超龍の問題で精一杯で、話す余裕が無かった。
ティミレッジも国王に打ち明けたいことがあった。
リアリティアのことだ。
先日、「幻の世界」と言われていた世界・リアリティアに生まれて初めて足を踏み入れた。
あちらの住人・ミカネが異世界の者を召喚する力を持つディファートであり、ティミレッジは彼女に呼ばれたのだった。
リアリティアを行ったことは彼にとっては大きな喜びだった。「幻の世界」についても、早くダトリンドに報告したくてたまらなかった。
同時にユアの話もしたかった。
彼女はディンフルが考えを改めたきっかけになっていたからだ。
ディファートとの和解のためには、ユアの存在も不可欠だった。
「国王様!!」
兵士の一人が慌ただしく、王の間に入って来た。
「海底に動きがありました! とてつもなく大きい物体が動いているそうです!」
超龍はフィーヴェの大陸よりはるかに大きく、海の底に封印されていた。
それが目覚めると、フィーヴェは間違いなく滅ぶ。
「いよいよだな……」
ダトリンドが重々しく言うと、フィトラグスたちにより緊張が走った。
国王はやって来た兵士に、各国の戦士に戦闘準備を始めさせるよう指示を出した。
兵士が出て行くと、フィトラグスたちも戦う心掛けをし始めた。
◇
リアリティア。
三月は暦上では春だが、寒い日はまだ続いている。
それでも日差しに当たるとポカポカして気持ちが良いので、ユアはつい夢見心地になった。
「ユア先生っ!」
「は、はいぃ!」と正気に戻るユア。
今は事務仕事の真っ最中。
デスク作業についたままウトウトとしてしまい、上司である園長に怒られてしまった。
「あなたはもう利用者じゃなくて、ここの職員よ! しっかりしてちょうだい!」
「すみません……」
ユアは今、施設の職員補助として働いている。ディンフルがディーンとして働いていた時の仕事を引き継いでいた。
任されるのは簡単な事務作業と、利用者……主に小さい子供の世話だった。
作業は難しくなく初心者のユアもすぐに覚えられたが、ケアレスミスが目立った。
彼女のドジを園長もよく知っており、他の職員共々入念にチェックしたり、子供の世話には仲良しのリビムを筆頭に他の子供も手伝ってくれた。
どちらが世話をされているかわからなかった……。
ある日、園長から呼び出された。
日々ドジをやらかしているので、「怒られるのか?」と身構えるユアだったが……。
「お兄さんは元気にしてるの?」
ディーンことディンフルのことを尋ねられた。
リアリティアでは、彼とは兄妹という設定で過ごしていた。
本来なら、その兄が彼女を引き取って海外で暮らすという設定になっていたが、フィーヴェに超龍が現れるため、ディンフルは帰らなければならなくなった。
超龍は相当な強さであるため、彼でも倒せるかわからなかった。
そのため、園長に「長期の出張」と言ってユアをこちらへ置き、フィーヴェへ帰って行った。
ユアもしばらく異世界へは行けないので、ディンフルがどうしているかはわからない。
「げ、元気だと思いますよ」
曖昧な返事しか出来なかった。
「お兄さん、そんなに忙しいの? 連絡は取れてる?」
「さ、最近はあまり……」
「聞いてなかったんだけど、お兄さんって何のお仕事してるの?」
ユアは硬直した。
ディーンとは兄妹という設定で話を合わせて来たが、彼の職業までは決めていなかった。
さすがに「龍を倒しに行きました」とは言えない。
ユアが答えられずにいると、園長が再度尋ねて来た。
「もしかして、知らないの? せっかく兄妹で再会したのに、仕事の話をしていないの?」
やや怒り気味の園長から圧を感じたユアは、思わず口に出してしまった。
「し、社長をやってます!」
園長が目を見開いてユアを凝視した。
利用者の実兄が会社の社長となると、驚くのも無理はない。
「社長? お兄さん、会社の取締役なの?!」
驚く園長にユアは一緒になって慌ててしまい、話を合わせるために適当に頷いてしまった。
「何をやってる会社? 名前は? 上手くやれてるの?」など、質問攻めに遭ったのは言うまでもなかった。
最終的には「色々あり過ぎて、仕事の話をする機会が持てなかった」ということになり、話はそこで終わった。
ディンフルは自分の知らない間に、どこかの会社の社長にされてしまった。
こんな具合に世界の終わりが迫るフィーヴェとは違って、リアリティアは今日も平和なのであった。




