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ソルジャー・ブルー  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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22/29

悪夢

 キークとティータニアはその日も、街の視察に出ていた。

 だが、二人でガン地区を歩いていた時、キークは強烈な違和感を覚えた。

 明らかに、いつもと様子が違う。今までと違う活気、そして妙にピリピリした雰囲気が漂っているのだ。

 もともと、ガン地区は人が少ない。うま味が少ない地域であり、オトワ屋のような「その他大勢」のパッとしないギャングと金の無い連中そして浮浪者が巣くっている場所、なはずだった。

 しかし、今見た感じは違うのだ。

 まず、人通りが多くなっている。

 しかも、その大半がギャングだ。さらに言うと、タイガーやゴメスの所から流れてきた者ではない。間違いなく街の外から、最近になって入り込んだ者たちであろう。

 そしてギャング以外の人間は、ギャングよりも遥かにたちの悪い者である。

 例えば、そこで屋台を出している男は異能力者のバンディだ。大陸のメルキア国とクメン国の両方で、計二十人近く殺した殺人鬼である。

 この状況は、他の地区の変化とは訳が違う。

 何者かが意図的に、危険人物を送りこんでいるようにしか見えない。


 そんな場所を、キークとティータニアの二人は視察しているのだ。

 さすがのティータニアの顔にも、わずかではあるが緊張がうかがえる。

 一方、キークはめんどくさそうな顔で、ボケーッと歩いている。

 だが、厄介な男を発見してしまった。

 数メートル先……周囲に敵意を振り撒いている集団がいる。

 その中心にいたのは、トレホだった。

 そのトレホと、目が合った。

 瞬間、トレホはニヤリと笑い、こちらに真っ直ぐ歩いて来る。

「めんどくせえ……」

 キークは誰にともなく呟いた。


「キークの旦那……奇遇だな、こんな所で会うとは。しかも女連れとは、珍しいじゃねえか。ん……どうしたんだい、そのツラ。アザだらけじゃねえか」

 トレホは周囲に威嚇するような視線を投げつけながら、キークにやたら親しげに話しかけてくる。

「ああ、色々あってな……トレホ、こちらは鬼より怖い監査官様だ。ただいま視察中だよ。邪魔しないでくれ」

「何ですって――」

 何か言いかけたティータニアの口を、キークの手が塞ぐ。

「そうか……ところで旦那、こいつらをどう思う?」

 トレホは威嚇するような視線を周囲に振り撒きながら尋ねる。

「どう思う……って、何がだ?」

「わかんだろうが。こいつら全員よそ者――」

「キャラダイン! あなたは何をしているのですか! こんな連中――」

 ティータニアがまたしても、わめき始めるが、キークも再度口を塞ぐ。

 そして、強引に連れ出して行った。




 その頃。

 ガロードは汗だくで目覚めた。

 またしても、悪夢……

 このところ、見る夢は全て地獄絵図だ。

「殺しだ。今のオレには、それくらいしかできそうにない。特に、稼げる仕事はな」

 そう言って、自分の方からキークに売り込んだ。

 殺し屋は、いい金になった。

 しかし、想像以上に嫌な仕事でもあった。

 ルルシーとの生活を守るためとは言え……

 もう、こんなことはしたくない。

 ギリヤークを殺したら……

 復讐が終わったら……

 もう、殺しとは縁を切ろう。

 ……

 そうだ。

 ジュドーに頼み込んで、店で働かせてもらおう。


「ねぼすけガロード、何をぼんやりしているのです。さっさと起きて、外に出て可愛い巨乳女でもナンパするのです」

 声と同時に、ルルシーが寝室に入ってきた。

「なあルルシー、オレ……ジュドーの店で働かせてもらおうと思うんだが……どうだろう?」

「え……」

「もう人殺しは嫌だ。ギリヤークを始末したら、それを機に……殺し屋を止めるよ。そして食堂で働かせてもらう。掃除でも、皿洗いでも、何でもやる」

「それは……良いことなのです。私も賛成なのです。頑張って働くのです、ガロード」

「ああ!」

 力強くうなずいたガロード。

 だが、ルルシーの瞳が憂いを帯びているのには気づかなかった。


 ガロードは、陽の当たる世界に出ていく。

 色々な人と出会い、そしていつかは……ふさわしい相手と……

 その時、自分はどうするのだろう。

 ちゃんと祝福できるだろうか……

 笑って送り出せるだろうか……

 いや、出ていくのは自分の方だ。

 吸血鬼の……怪物の、自分が出ていかなくてはならない。

 ……。


「ルルシー! 聞いてるのか!」

 ガロードのいら立った声により、ルルシーは我に返った。

「あ……ごめんなさいです……ちょっと考え事をしてたのです」

「ルルシー、大丈夫か? 変だぞ?」

「何でもないのです。さあガロード、朝ごはんを食べるのです。あ、でもその前に顔を洗って、歯を磨くのです。食べ終わった後も、ちゃんと磨く――」

「子供扱いすんな!」




 クリスタル・ボーイは愚兄弟を連れ、ジュドーの店にいた。

 愚兄弟は上機嫌で、出された料理を平らげている。

「兄弟は最近、妙に楽しそうだな」

 店にいたジュドーが、タバコを吸っているボーイに言う。

「ああ、これからガキの所に行くからな。アイザックやマリアは、最近忙しいだろ。だから遊び相手がいなくて困ってたが、あのガキは良い遊び相手だ。まあ、精神年齢が近いし、ちょうどいいだろ」

 ボーイは煙を吐き、そして言葉も吐き出した。

「そっか……ところでボーイ、ハイゼンベルクはどうなんだ?」

「もうそろそろで……ヤバい。まあ、これまで生きてたのが奇跡だけどな。ハイゼンベルクが死んだら、オレも廃業だ。そしたら、大陸に戻るよ」

「そうか……ま、仕方ないわな」

「そこで、問題なのは兄弟をどうするか、だが……お前の方から、ガキに頼んでくれないか。ガキとルルシーになら、兄弟を預けられる」

「自分で頼めよ……」

 ジュドーは呆れた顔で言った。




 キークとティータニアは二人して地下道に降りていった。

 キークがハンドライトを持ち、足元を照らしながら歩いていく。

 前を歩いていたキークが、不意に立ち止まる。

 キークの前には、灰色の皮膚をした大男――のように見える何か――と、その大男に背負われているように見える小男。

 だがキークは、そんな不気味な二人に、ニヤリと笑ってみせた。

「マスター&ブラスター、お前らの出番だぞ。まずはガン地区に行け」

「やっと出番か……オレたちのような者が、陽の当たる場所に出られるのは、この街だけだ。行くぞ、ブラスター」

 背中の小男がそう言うと、大男はのっそりと、暗闇を全く苦にせず歩いて行った。

「キーク……次は?」

 ティータニアが尋ねる。普段のヒステリックな監査官の雰囲気は、微塵も感じられない。

「まずは……ギリヤークと、その兄に死んでもらう。そして、ゴメス引退……というシナリオだ」

「引退?」

「ああ。ただ、そっちはドラゴに任せてある。奴は確実に仕留めるだろう」

「わかった。しかしキーク……お前、ひどく疲れているように見えるが、大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。こんな素敵な仕事させてもらって、オレは幸せだ……畜生! こんな素敵な仕事があるか! 好きで好きでたまらねえぜ!」

 キークはいきなり、壁に凄まじい勢いで蹴りを入れる。

「キーク! お前しばらく――」

「いや……本当に大丈夫。任務は続行する」




 そして夕方になる頃。

「ボーイさん……ウチはいつから、託児所になったのです?」

 ルルシーの冷たい声。

「……いいじゃねえか、ガキも喜んでることだし」

「その、ガキという呼び名は止めてほしいのです」


 またしても、ガロードと愚兄弟が遊んでいる。

 何やら、二人にしかわからないルールの遊びに興じる愚兄弟と、それを見守るガロード。

 さらに、それを見守るボーイとルルシー。

「いいじゃねえか、あだ名みたいなもんだ。気にすんなよ吸血鬼」

 ボーイは不機嫌そうな顔で、そう言った。

「……ボーイさん、私のその呼び名は本当に止めてほしいのです。不快です」

 ルルシーの声に、殺気が混じる。

「あ……ああ、わかったよ……ったく、お前らは本当に……」

 ボーイは目を逸らす。

「いいですか! 私の名はルルシー! あいつの名はガロードなのです! そう呼べないのなら、このウチにはあなたを入れないのです!」

「わかったよ……そんなに怒らなくてもいいだろうが……クソ、お前らホント似た者夫婦だな――」

「ボーイさん! どうなのです!」

 ルルシーの怒鳴り声。

 その声に、愚兄弟がビクッと反応する。

「ルルシー、どうした。なに怒ってる」

「なに怒ってる」

 愚兄弟は遊びの手を止めた。

 そしてルルシーのそばに寄ってきて、心配そうに見つめる。

「……別になんでもないのです。あなたたちは遊びの続きをするのです――」

「なあ兄弟、ルルシーとも遊びたいよな?」

 突然、ボーイが横から口を出す。

「え……ルルシーはちっちゃいから……」

「ちっちゃいから……」

 口ごもり、困った表情を浮かべる愚兄弟。

「小さくて……悪かったですね……」

 ルルシーの怒りの矛先が、今度は愚兄弟に――

 その時、ドアをノックする音。

「ガロ〜、開けてくれ。オレだオレ」


「ふう、やっぱりここが一番落ち着くな」

 リビングでくつろぐキークとボーイ。

 その横で、愚兄弟と遊ぶガロード。

 ルルシーはこめかみをヒクつかせる。

「あなたたち……この家を何だと――」

「あ、そうそう、一つ忘れてた」

 ルルシーの言葉を遮り、キークはガロードを見た。

「ガロ、ギリヤークの居場所がわかったぞ」






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