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ソルジャー・ブルー  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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21/29

星屑になった奴ら

 その日、キークは出勤するためにダラダラ歩いていた。

「キーク」

 聞き覚えのある声。

 声のした方を向くと、ジュドーが立っていた。

「なんだよジュドー。オレは今から出勤しなきゃならん。どうかしたのか?」

「そうか……あんたに話がある」

 ジュドーはいつものように、ヘラヘラ笑っている。キークも、軽薄そうな笑みを浮かべている。

 だが、お互いに腹の中では、普段と違う何かを感じとり、顔に浮かべている表情とは全く違うことを考えていた。


「はあ……また署長に怒鳴られるな。いっそ、今日は休むか。で、何の用だ」

「キーク……お前――」

 ジュドーが何か言いかけた瞬間――

 ケータイが鳴る。

 ジュドーのケータイだった。

「キーク、悪いが電話に……どうした? ……どういうことだ? ……ああ、わかった。今から行く」

 ジュドーはケータイをしまうと、キークを見る。

「キーク……すまんが野暮用だ。行かなきゃならん。続きは、また今度だ」

 そう言うと、ジュドーは背を向けて去っていった。

 キークは暗い目で、ジュドーの後ろ姿を見送る。

「ジュドー……お前とは殺り合いたくないんだがなあ……」

 誰にともなく呟いた。




 その日の夜。

 ゲバル、ギルモア、ゲイリーの三人は、掘っ立て小屋――街から少し離れた荒れ地に建てられている――に集合していた。

 三人の顔つき、服装、背丈などはバラバラだったが、共通点が一つ。

 全員、心のどこかが壊れているように見えた。

 三人とも、この街で生きるために悪行の限りを尽くしてきた男たちである。

 もともと粗暴な男だったゲイリーはもちろん、本来は政治的な信念に基づき行動を起こしたはずのギルモアの顔つきにも、ある種の不気味さと狂気とが宿り始めていた。

 彼ら二人は、自分たちの行く末に何の希望も抱いていなかった。特にギルモアは、本来望んでいた生き方とは正反対の現状を、何とも言えないねじけた目で見ていた。

 さらに、その二人を匿っているゲバルに至っては――

 三年前に雇い主を殺されてから、ありとあらゆる犯罪に手を染めていた。今では、ひっそり生きている能力者たちからも嫌われる存在となっていたのだ。


 三人はアジトとして使っている掘っ立て小屋に集合し、翌日に行うはずの悪事について話し合うはずだった。

 だが、

「おい、妙な匂いがするな……」

 ゲイリーが鼻をヒクつかせる。

「何だと……」

 ゲバルの表情が、一瞬にして変わった。


 次の瞬間――

 掘っ立て小屋は突然、爆発した……

 小屋を形作っていたはずのものは倒壊し、生活を感じさせる家具などは、無惨な姿をさらしている。

 爆発は小規模なものではあったが、それでも中にいた人間は、無事では済まないであろうことが容易に想像できた。

 そして遠くから、爆発を確認したキーク、ガロード、ルルシー、ボーイ、そしてジュドーの五人が近づいて行く。


 だが、彼らは途中で足を止めた。

 地面に巨大な鉄板が敷かれている。

 不自然だ。

 誰もがそう思った、次の瞬間――

 分厚い鉄板が宙を舞う。

 その下から、伏せていた三人が姿を現した。


 三人とも、瞬時に立ち上がる。

「てめえらか……爆薬なんぞ仕掛けやがったのは! ふざけやがって!」

 ゲイリーが、凄まじい形相でわめいた。

 だが、そのセリフに対する返答は――

 ガロードとボーイの一斉射撃。

 ガロードの大型ライフルと、ボーイの改造拳銃の銃弾が三人を襲う。

 たちこめる硝煙、そして火薬の匂い……

 三人とも蜂の巣状態になるはずだった。

 しかし、ジュドーの声が響き渡る。

「油断するな!」

 銃弾は――

 バラバラと音をたて、地面に落ちる。

「おいおい……お前らもかよ……」

 ボーイがこの状況に似合わない、うんざりした声を出した。

 一方、ゲバルはニヤリとしたかと思うと――

 手のひらを向け、何やら奇怪な言葉を発する。

 次の瞬間、火の玉が手のひらに出現し――

「散らばれ!」

 キークの声。

 瞬時に五人は動く。

 バラバラの方向に走り出す五人。

 一瞬の後、手のひらより放たれた火の玉が、五人のいた場所に着弾する。

 そして、爆発……

 わずかではあるが、逃げ遅れたボーイが爆風に巻き込まれる。

 ボーイは派手に転び、倒れたまま動かない。

「ボーイ! 走れ!」

 ジュドーが叫ぶ。

 だが、ボーイは足首を押さえ、顔をしかめている。どうやら、足首をひねったようだ。

 そんなボーイに、ゆっくりと近づくゲイリー。

 ニメートルを超える巨体が、ボーイに迫る。

 そして、ゲイリーが手を伸ばした瞬間――

 そこに接近する影。

 凄まじいスピードで突っ込んできたガロードの飛び蹴りが、ゲイリーの巨体に炸裂する。

 吹っ飛ばされるゲイリー……

 だが次の瞬間、何のダメージも受けていないかのように立ち上がった。

 そして、ほぼ同時に立ち上がったガロードに、全体重をのせたタックルをくらわせる。

 百三十キロの全体重をのせたタックル……その威力は凄まじかった。

 さすがのガロードも、抵抗できず倒される。

 しかし、この体勢はガロードにとって、むしろ望むところであった。

 倒れながら、ゲイリーの顔を掴み――

 親指を眼球の奥まで、一気にねじ込む。

 一瞬の間。

 そしてゲイリーの、獣の咆哮にも似た悲鳴……

 夜空に響き渡る、ゲイリーの咆哮。

 その隙にガロードは、ゲイリーの体の下から這い出し、立ち上がる。

 そして、片目を押さえているゲイリーの首を掴み――

 頸椎をねじり切った。


 キークは走る。

 それを追うのは、ギルモアだ。

 キークは走りながら、右手のハンドガンを抜く。

 だが、ギルモアは視界から消えた。

 立ち止まるキーク。

 次の瞬間、見えない何かの一撃。

 キークは顔を殴られ、よろめく。

 また次の一撃。

 目に見えない何かの、パンチの連打。

 キークは顔を押さえ、うずくまる。

 ハンドガンが手から落ちた。

 そのハンドガンが、宙に浮かぶ。

 見えない何かが、トリッガーを……

 引けない。

 カチカチ、むなしく音をたてるだけだ。

 その時、キークの腕時計からワイヤーが放たれた。

 ワイヤーは瞬時に、何もない空間に巻きつき――

 絞め上げる。

 押し殺したような声、小さく動くワイヤー。

 やがて、ワイヤーの動きが止まり――

 下に垂れる。

 そして、首にワイヤーを巻きつけたギルモアの姿が現れた。

 だがキークは、ギルモアの死体には目もくれず、次の相手へと向かって行く。

 ギルモアの顔は、醜くゆがんでいる。

 かつて、能力者の地位向上のために戦った政治犯の面影は、どこにも残されていなかった。


 ジュドーはゲバルと対峙する。

「ゲバル……ベリーニの仇は討たせてもらう」

 ジュドーは静かにそう言ったが……

 次の瞬間、見えない何かの一撃を喰らう。

 車に跳ねられたかのような衝撃が襲い――

 ジュドーは後方に吹っ飛ばされた。

 すぐさま起き上がるが、起き上がった瞬間、今度は光の矢のようなものに襲われる。

 横転して、どうにか避けるジュドー。

 ゲバルはさらなる術を繰り出そうとするが――

 ルルシーが前に立ちはだかる。

 鋭く伸びた犬歯と、同じく伸びた鉤爪。

 ルルシーは一気に飛びつこうとするが――

 ジュドーと同じく、何かの一撃を喰らって飛ばされる。

「ルルシー!」

 ガロードの咆哮。

 と同時に前転し、一気に間合いを詰める。

 ショットガン――銃身を短く切り詰めた携帯用――が火を吹く……しかし、その銃弾も見えない障壁により、防がれる。

 だが、ガロードの攻撃は止まらなかった。今まで数々の怪物と戦い抜き、銃が効かないことなど当たり前だったのだ。

 ショットガンを撃った直後、そのまま接近し――

 左のサイドキック。

 ガロードの足は、ゲバルの作り出した見えない障壁に当たり――

 いや、障壁はなかった。まっすぐ伸びたガロードの足は、ゲバルの腹に突き刺さる。

 ガロードの一撃で飛ばされるゲバル。

 だが、ゲバルは吹っ飛ばされたものの、腹を押さえながらも次の手を打とうと――

 だが次の瞬間、何者かに襟首を捕まれ、立ち上がらせられる。

 ゲバルを立たせたのは、ジュドーだった。

「ベリーニの借り、返させてもらうぜ」

 ジュドーは右腕を挙げると――

 肘を曲げ、左に軽く振った。

 ジュドーの肘が、ゲバルの喉をかすめる。

 次の瞬間、ゲバルの喉がぱっくりと裂ける。

 ゲバルは喉を押さえ、うずくまった。

 声にならない、断末魔の悲鳴。

 助けを求めるように、右手を前に差し出す。

 そんなゲバルを、ジュドーは冷酷な表情で見下ろしていた。


「やれやれ………これで四百は安過ぎたな」

 キークは本当に疲れた表情をしている。

 それも当然だった。鼻と唇から血が出ている。明日には、顔のあちこちにアザができるだろう。

「ああ、その通りだぜ……クソ、歩けやしねえ。ジュドー、すまねえがタクシー呼んでくれ」

 ボーイは地面であぐらをかいた姿勢のまま、ジュドーに言った。

「……すまんが、三人は先に帰ってくれ。オレはキークと話がある。キーク、いいだろ」

 ジュドーの表情は、戦いの最中と同じだった。

「……ああ。構わない」


「なあキーク、あんた何をやろうとしてるんだ?」

 ガロードたちが引き上げると同時に、ジュドーはキークに尋ねる。

「別に、何も――」

「とぼけんなよ。あんたがマークとジョニーを殺したんだろ? 何を考えてんだよ?」

 その言葉を聞き、ため息をもらすキーク。

「ジュドー……お前は本当に面倒な奴だな。オレは何も考えてない」

「何だと――」

「とにかく、オレの口からはこれ以上言えない。じゃあな。オレは忙しい」

 そう言って、引き上げようとするキーク。

 だが、

「お前いい加減にしろ……死んでみるか?」

 ジュドーが低くうなり、前に出る。

 それと同時に、キークもハンドガンを抜く。

 さらに右手を挙げ、ワイヤーを見せる。

「なあジュドー……オレが死んだら、今よりもっと面倒なことになるぞ。それに……今はオレに構ってる場合じゃない。このままだと、ゴメスは潰される。タイガーも……ヤバい」

 こんな状況にも関わらず、キークの声は普段と同じ調子だった。

「んだと……」

「ジュドー……今オレが死んだら、ガロードが困るんだ。まず、ガロードとルルシーの今後について考えてやってくれ。オレを殺すのは、それからでも遅くないだろう。あと……もう一度言うがな、タイガーはこの先、非常に厳しい立場になる。お前が付いていてやった方がいいぞ」

「お前……いったい……誰の――」

「オレはただの……組織の犬だ。これ以上は何も言えない。あと……死体の掃除屋を呼んでおいてくれ。まったく、これで四百は安過ぎるぜ、ジュドー」






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