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ソルジャー・ブルー  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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18/29

誰も知らない

 キーク・キャラダインは最近、ガロード宅に入り浸っている。

 ルルシーにさんざん嫌みを言われながらも、リビングでくつろいだり、勝手に台所を使ったり……。

 要は、人の家を自分のセカンドハウスとして使っていたのだ。

 だが、その日はいつもと様子が違った。


「本当か?! フォックスとやれるのか?」

「ああ。よくわからんが、向こうからの指名らしい。どうする、ガロ?」

「やるに決まってるだろうが!」


 いつものようにガロード宅にサボりにやって来たキーク……のはずだったが、その日は神妙な顔をしていた。入ってくるなり突然、ガロードとフォックスの闘いが決まった、と言ったのだ。

 なんでも、昨日ドラゴという大物ギャングのかなり強引な申し出があり、プロモーターも嫌とは言えなかったのだという。

「ドラゴって男は、最近エメラルドシティに来た一匹狼のギャングだが、オトワ屋と手を組み、あっという間に大物になりやがった。そいつが、お前とフォックスの試合をどうしても見たいと言い出してな」

 キークはそう言っていたが、ガロードにとって、そんな細かい事情はどうでもよかった。

 フォックスを殺す。バトルリングで闘う理由の半分はそれだったからだ。


「キークさん……他の方々は、フォックスの正体を知っているのですか?」

 ルルシーが尋ねる。

「ゴドーの親父は知っている。他の連中も知ってると思うぜ。暗黙の了解ってヤツだよ。リング上で正体を現さない限りは、何も言わないだろうよ」




 その頃、クリスタル・ボーイとジュドーは、開店前のバー『ボディプレス』に来ていた。

 開店前のバーは暗く、もの悲しい雰囲気が漂っている。『ボディプレス』は広いがゆえに、よりいっそう寂しさを増している。

 そんな中、ママのアンドレはカウンター席に座り、タバコを吸っていた。

「ちょっと〜、来てくれたのは嬉しいけど、何でこんな時間に……どうせ来るなら、営業時間中に来なさいよね」

 アンドレは、迷惑そうでありながらも、どこか嬉しさも見える表情で二人を迎えた。

「アンドレ〜、久しぶり……ところで、あんたに聞きたいことがあるんだ」

 ジュドーは人懐こい笑みを浮かべて、アンドレに言う。

「どうせ、そんなことだろうと思った……で、アンタは何を知りたいの?」

「マークが殺され、そしてジョニーが殺された……アンドレ、あんたは何か聞いてないか?」

「聞いてない……聞いてないけど、ヤバいことになってるわね」

 そう言った後、巨大な顔をしかめるアンドレ。

 ジュドーは黙ったまま、アンドレの言葉を待っている。

「アンタ、本当に憎たらしいわ……タイガー姐さんも今、部下をどうにかなだめてるとこ。それに……死神とギャリソンさんもいるから、かろうじて押さえてられるけど、この二人が消えたら本当にヤバい」

「ヤバいってことは……ゴメスん所と一触即発ってことだな。じゃあ、どうにかしないとな……」

 ジュドーは誰にともなく呟いた。

 ボーイは少し離れた位置で、黙ったまま二人のやりとりを見ている。

「で、アンタたちは何なの……できの良くない探偵さんてワケ?」

 タバコの煙を吐き出しながら、尋ねるアンドレ。

「まあ、そんな所だよ。何かわかったら、店の方に連絡してくれ」




「ガロード、遊ぼうぜ」

「遊ぼうぜ」

 ガロードの手を引っ張る愚兄弟。

 今日もまた、仕事があるとかで、ボーイはガロードに愚兄弟を預けていったのだ。

 楽しそうにガロードにまとわりつく愚兄弟ではあったが――

「あなたたち! 今日はおとなしくするのです! ガロードは明日、大事な試合があるのです!」

 ルルシーが怒鳴りつけると、愚兄弟はビクッとして手を引っ込める。

「ごめん」

「ごめん」

 ルルシーとガロードに謝る愚兄弟。

 しかし――

「いや、いいよ。ジョーガン、バリンボー、外で遊ぼうか」

 ガロードはそう言って、にっこり笑った。

「ガロード! 何を言ってるのです――」

「大丈夫だよ。むしろ、この二人と遊んでる方がストレス解消になる」

 ガロードはルルシーにそう言った後、愚兄弟の方を向いた。

「さあ、遊ぼう。ただし、今日はプロレスはやらないからな。外で散歩してから、ジュドーの店でご飯食べるか?」

「おお! 散歩か!」

「ご飯か!」

 愚兄弟は楽しそうに跳びはねようとするが――

「あなたたち! 跳びはねてはダメなのです!」

 ルルシーの一声で、愚兄弟はジャンプする寸前、動きを止める。




 一方のジュドーとボーイはあちこち歩き、そして様々な人間から話を聞いた。

 その結果、わかったことが一つ。


「何なんだ、これは……マークを殺したのは、キークの野郎なのか? 何やってんだ……」

 ボーイは誰にともなく呟いた。

「ああ……死体を発見したのは奴だし、首についてたワイヤーの痕ってのがな……ただ、証拠がない。仕方ねえ、とっ捕まえて吐かせるか」

 ジュドーが、その呟きに応える。

 しかし――

「それは簡単にはいかねえぞ。キークの野郎は手強いぜ。それに、キークに手を出したら、ガキ……いやガロードも黙ってないだろうな。ガロードはキークになついてやがる。こいつは面倒だぜ、ジュドー」

「……」

 黙ったまま、うなずくジュドー。

「なあジュドー、この件はオレに任せてくれないか。今キークがいなくなると、こっちの仕事に差し支えるんだ。それに……奴には借りがある」

「借り?」

「ああ借りだ。ジュドー、頼む。しばらく、オレに預けてくれ」

 ボーイは、すがるような表情でジュドーを見た。

「ボーイ……お前、変わったな。奴らと関わってから、お前変わったよ……」

 ジュドーは目をつぶり、首を横に振る。

 だが次の瞬間、ため息をつき、ボーイを見る。

「わかった。オレもお前に借りがある。しばらく、お前に預ける……ちょっと待て、あれ見ろよ……」

 突然、ジュドーが立ち上がる。

 つられてボーイも立ち上がり、ジュドーの視線を追うと――

 ガロードと愚兄弟が、連れ立って歩いていた。

 愚兄弟はその巨体を揺るがし、嬉しそうにピョンピョン跳びはねている。

「ガロード! 何食べるんだ!」

「何食べるんだ!」

 愚兄弟の今のテンションは、異常に高い。筋肉質の体と相まって、普通の人間なら、確実に引いてしまうだろう。事実、悪党を見慣れているはずのここの住人でさえ、遠巻きにして見ているのだ。

「何やってんだよ、あのバカ共は……」

 ボーイは唖然とした表情で呟いた。




 その頃、ガロード宅では――

「いつまでいるのです、キークさん」

 リビングでくつろぐキークに、不快そうな表情でとげとげしい言葉を放つルルシー。

「そんなに嫌わないでくれよ……招かれざる客は帰るとしますか」

 そう言うと、キークは立ち上がる。

「待つのです。フォックスを殺したら、残るはギリヤークだけなのです。ギリヤークを殺したら……あなたはガロードの前から消えてくれるのですよね?」

「さあ、どうだろうね……たぶん消えると思うよ」

 キークはルルシーの方を見ようともせず、玄関に向かう。

「止まるのです! まだ話は終わってないのです!」

 ルルシーは素早く動き、キークの腕をつかむ。

「あなたは……何を考えているのです? 何をする気――」

「離してくれよ。明日の試合の打ち合わせしなきゃならん。今オレが死んだら、面倒なことになるぞ」

 ルルシーを見ようともせず、淡々と語るキーク。

 ルルシーはキークの態度に異様なものを感じ、彼の顔をじっと見つめる。

 疲れきって、そして何かを諦めてしまった顔をした男が、虚ろな目でルルシーを見返してきた。

「オレは……お前らとは違うんだ。いろいろ忙しいんだよ」




 そして――

「おいガキ……オレはお前に、こんなことしてくれ、って頼んだか?」

「何が悪いんだ?! ジョーガンとバリンボーを連れて散歩しちゃいけないって言うのか?!」

 路上で怒鳴りあうボーイとガロード。

 愚兄弟はその横で、困った顔をしている。

 仕方なく、ジュドーが止めに入った。

「お前ら、そのへんにしとけ。ここまで来たんだ。ウチで何か食ってけ」

 ジュドーがそう言った途端――

「ボス、腹減りました」

「腹減りました」

 愚兄弟は、言い争っているガロードとボーイの間に割って入る。

「……仕方ねえ、メシ食うぞ」

 ボーイはそう言うと、ガロードから視線を逸らし、さっさと歩き出した。

「ガロード、メシ行こ」

「メシ行こ」

 愚兄弟は嬉しそうに、ガロードの腕を引っ張る。

 その後ろから、ジュドーがついて行く。

 歩きながら、ジュドーは考えた。


 キーク・キャラダイン……何者だ?

 不思議な奴だよ。ガロードはともかく、いつの間にか、ボーイまで手なずけてやがる。

 だが……

 もし、奴がオレの考えたような、最悪の事態を招く男ならば……

 ガロードやボーイを敵に回しても、オレが殺す。




 そのキークは今、地下道を歩いていた。

 暗く、そして異臭の漂う地下道をまっすぐに歩いていく。

 左手に持った懐中電灯のわずかな明かりだけが頼りだ。

 やがて、キークは歩く速度を落とした。

 地下道の先に、巨大な何者かがいる。ずっと地面にしゃがみこんでいたが、キークとの距離が近づくのを見て、ゆっくりと立ち上がった。

 形は人間そっくりであるが、肌は灰色をしていた。大きさは三メートルほど。髪の毛があるであろう部分には、灰色の地肌がそのまま見えている。口は耳元まで裂け、のぞいている歯は鋭い。腕は異常に長く、指には鉤爪が生えている。一応、衣服らしき物を身にまとってはいるが、異常に発達した筋肉を隠しきれていなかった。

 それだけでも異様だが――

 その怪物は、背中に奇妙な小人を背負っている。

 身長一メートルあるかないかのその小人は、怪物の背中の上でキークをじっと見つめていた。

 キークはその、得体の知れない二人に向け、ため息をついて見せる。

 そして口を開いた。

「そろそろ出番だ。フルパワーで暴れてもらうからな……」






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