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期待外れと追放された神眼使いが《墓守》に就職したら墓地にダンジョンが出来てました   作者: 紙風船


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第二十七話 いよいよ始まる本格派地下ダンジョン探索

 エルダーリッチー戦から1ヶ月が経った。相も変わらず僕は墓守の仕事を続けていたが、以前よりも充実した日々を過ごしていた。


「シエル、帰るよ」

「はーい」


 見慣れたレアドロップの腐毒剣インサナティーを鞄に仕舞い、立ち上がる。今日のお仕事はこれで終わり。これ以上先に進むには体力が限界だ。最近はこうして潜れる場所まで行ってモンスターを掃除して帰るのが日課になりつつある。


 アバドンとなったシエルはアンデッドという枠から脱し、悪魔と呼ばれる種族へと進化した。骨だけだった体に肉がつき、今では新しい服を取り寄せたりと楽しんでいる。今では仕事の直前まで鏡の前でファッションショーをしている程だ。


 そして肉付いて判明したことだが、はっきり言ってシエルは物凄く可愛かった。美少女としか表現出来ない自分の語彙の無さを呪いたい程度には目を奪われる容姿だった。

 まぁ僕は彼女の骨格からして知っているわけだし、今更ラブコメのような甘酸っぱい展開はんて皆無だ。なんというか、あぁ可愛いなぁ。っていう、癒しに近い感覚だった。


 そんな戦闘用の装備に着替えたシエルが瘴気を吸収するのを待ってから、ダンジョンを後にする。出入口にはしっかり蒸留聖水が入った樽を置いてある。いつも使ってる桶と柄杓を傍に置いて、最後に聖水の残量を確認して仕事は終わりだ。


 しかしこれを撒き始めてからアンデッドの出現が激減したなぁ。最初の頃は何処か不気味さがあった第770番墓地も、今では清廉さを感じる程になった。


 だが相変わらず地下のダンジョンはモンスターがうようよしている。それでも地上が穏やかになったのは素晴らしいことだ。何と言っても仕事の開始時間を遅らせることが出来る。睡眠時間が増える。瘴気を浄化しきり、恒久的な清廉を取り戻せば蒸留聖水を撒くという仕事の頻度を減り、更に睡眠時間が増えていく。最終的に昼間に蒸留聖水を撒いて夜になったら寝る生活になれば何も文句はない。


 少し前までドタバタとした日々を過ごした所為で目標を失念していたが、僕はこの職場を改善する為にこうして頑張っていた。夜勤生活を脱出し、日勤生活を送る為に身を粉にして働いているのだ。


 その目的の為の大きな壁となるのが忌々しい地下ダンジョンの存在だ。ほんともう此奴さえなければ完全なる平和が訪れるというのに。



  □   □   □   □



 充実した日々を過ごしていると実感しながらにしてこうしたネックを感じる生活に少々の疲れを覚え始めたある日、仕事を終えて一旦家に帰ると玄関先に知り合いが立っていた。


「おぅ、ナナヲ」

「あれっ、珍しいね」


 その人物は出勤前のアル君ことアルベール=ブラウンだった。彼こそ僕を墓守に採用した人物であり、仕事仲間であり、一番の友達だった。


「昨日のうちに決まった事があったからその報告。早い方がいいかなって」


 軒先から離れたアル君が墓守協会方面に向かい始めたので並んで歩く。その後ろをシエルが大人しくついて来る。


「また何かあった? もうエルダーリッチーは懲り懲りなんだけど」

「それはお前の持ち込み企画だっただろ。今回決まったのは第770番墓地地下ダンジョンについての今後の方針だよ」

「!」


 おぉ、ずっと放置されていた我が地下ダンジョンの対処! そうか、エルダーリッチーも無事に討伐して時間も経って落ち着いたので着手してくれたか!


「いやいやいや、有難いね! で? どういう風に対処してくれる予定?」

「第770番墓地管理者の職務を墓地管理からダンジョン攻略に変更。管理者を中心に攻略を進めること」


 気付けば僕はアル君を締め上げていた。


「丸投げか? 丸投げですか? またですか???」

「くるちい……」

「ちょ、ナナヲ様、アルベールさん死んじゃうから!」


 背後からシエルに羽交い絞めにされ、ハッとして慌てて手を離した。僕としたことが、つい八つ当たりをしてしまった……。


「ホントごめん」

「いや気持ちは分かるよ……俺だって言いたくなかったけどよ、俺がナナヲと一番仲良いからって、上がさ……」


 嫌な役回りだ。墓守からの不満が出てくるのを見越してアル君に言わせたのだ。初めの頃、地下ダンジョンが見つかった時の対処の時もアル君に言わせていたっけ。あの時はアル君は代表で来ているのだから不満をぶつけたけれど、今思えばアル君もそういう役をやらされていたのだろう。


 腐ってんね……何でも下の人間にやらせて。でも逆の立場なってに考えれば、多少なりとも理解は出来る。居ないのだ。攻略に割ける人員が。


 だって此処は墓の街。居るのは死者と墓守だけなのだから。


「お互い、大変だね……」

「まぁな……毎度毎度悪いな」

「いいよ、大丈夫」


 グイっと肩を組んでくるアル君の肩に腕を回す。お互いに叩き合い、鼓舞し合う。こうでもしなきゃやってらんないね、まったく!


「その代わり裁量はお前に任せるってよ。何か使う物とかあったら全部経費として処理するから俺に報告してくれていいぞ」

「其奴は助かるね。とりあえず家でも色々やってるから家賃も経費として計上してくれよ」

「あー……まぁ捻じ込めば、何とか……」

「冗談だって」


 嫌な話はそんなくだらない話に昇華させて気持ちに区切りをつけた。適当な事を喋りながら頭の中ではどうやって地下ダンジョン攻略を進めるかの皮算用を繰り返していた。

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