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期待外れと追放された神眼使いが《墓守》に就職したら墓地にダンジョンが出来てました   作者: 紙風船


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第十六話 勇者、死去

 現在、僕は自宅となっている管理小屋のリビングに胡坐をかきながら目の前に並べた短剣をジッと睨んでいた。


 『腐毒剣インサナティー』。『無形剣ブラヴァド』。『灰火剣ハイドラ』。この3本だ。


 順番にゾンビ、レイス、スケルトンから入手した剣である。インサナティーは説明不要だろう。


 レイスからドロップした剣は刃の無い剣だ。魔力を流すことで刃が生成される。試しに僕がやってみたところ、爪楊枝みたいな刃が出てきた。情けないが異界人なので仕方ない。魔法とは無縁の人間だ。であればシエルはと試しに渡してみたところ、ビビるくらいの大剣が出てきてダンジョンの天井に突き刺さった。完全にシエル用の剣だが、本人は素養がないので扱えないと首を横に振った。


 3本目のハイドラ。これはこれは火属性の短剣だ。振ると高温の灰が舞い、触れた者にやけどを負わせるという何とも陰湿な剣だ。振った勢いで相手まで飛べば問題ない。魔法効果としてある程度の速度も出る。だが相手が風の魔法なんて使った日にはこっちが全身大火傷となり、目も当てられなくなる。


「うーん……となるとやっぱりゾンビ剣が当たりなのかなぁ……でもなぁ……」


 インサナティーの腐毒とはつまり、腐食効果だ。斬った部分から腐らせるという悪辣極まりない短剣だ。しかし僕が戦う相手はスケルトンにレイスにゾンビ。ぶっちゃけ腐ったからといって何もメリットがない。スケルトンは物理で殴れるし、レイスは墓守戦術で斬れる。ゾンビは既に腐ってるから腐毒効果も意味がない。


 こうなってしまうと使い慣れた協会支給の鉄の剣が一番戦いやすくなってしまう。レアアイテムだからといって良い物とは限らないのが何ともままらない。


「とりあえず家に置いておこう。これから先、使える日が来るかもしれないしな」


 新鮮なモンスターに出会えた日にはこれらの剣の輝かしいデビューとなる。それが少し楽しみに思えてしまうのは、良い事なのか悪い事なのか。


『ナナヲ様、そろそろお仕事の時間だよー』

「あ、うん。準備するよ」


 剣を抱えてクローゼットに仕舞い、その足で家の裏手に置いてある桶に溜めておいた蒸留聖水を柄杓で汲み入れる。十分な量まで入れたら柄杓を桶に突っ込んでそのまま第770番墓地まで行く。そうしたら柄杓一杯分を散らすように撒きながら墓地を見回り、それが終わればダンジョン探索が始まる……のだが、今日はそうはならなかった。


「あの……お久しぶりです。ナナヲ様」

「ミルルさん……! お久しぶりです。エレーナさんも」

「久しぶりね」


 突然の出会いで面食らってしまい、たどたどしい挨拶となってしまった。ザルクヘイムに居るはずの二人が何故此処に……と、其処まで考えて二人であることに気付いた。


 気付いてしまった。


「あ……えっと、フィンギーさんは……一緒じゃないんですか?」


 此処は墓の街、グラスタだ。来訪者は死者を弔う人か、弔った死者へ会いに来る人の、どちらかだ。


「フィンギー様は……勇者様は、亡くなられました」

「えっ……!?」

「彼奴……私達を庇って、一人で……」


 この世の終わりのような顔をしたミルルさんと、俯くエレーナさん相手にどうしたものかと声を掛けようとして桶を持ちっぱなしだったことを思い出した。


「ちょっと待っててください。……ごめん、シエル。これ撒いてきてもら……う訳にはいかないな。アンデッドだし……悪いけどモンスターが居たら片付けてきてくれないか? それだけでいい」

『うん、すぐに掃除してくるね』

「終わったら家集合ね」


 状況を察してくれたシエルがこくりと頷き、風のような速さで墓地へと駆けこんでいった。優秀な仲間が居て助かった。

 ともかく、流石に二人を置いて仕事なんて状況ではなかった僕は二人を連れて管理小屋へと引き返した。

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