意地
一方、狙撃班である山田と山下は通信を繋げながら、互いの状況を確認する。
「山下、こっちは移動完了だ」
『了解。しかし、お前よく動けるな……俺だって正直バカみたいに身体痛いのに』
「動かなくていいなら俺だってそうしたいがね、若い子たちが最前線で命張ってるんだ。大人である俺たちが気張らなくてどうすんだ」
忍者とはいえ人の身。歯を食いしばりながら痛みに耐え、山田は千代が狙撃していたポジションにまで移動する。
『違いないな。まぁ俺より軽傷なんだからしっかりな』
「わかってるよ」
すでに次弾が装填されているライフルを見つけ、すぐに狙撃体制に入りつつスコープで現場を目視する。
かろうじて動きは見えるものの、文字通り怪物の相手をしている二人の鋼鉄兵器は幾重には目に見えて大きな傷が入っており天叢雲の埒外さを表していた。
実際、山田と山下も交戦してほんのわずかな時間でやられ、殺されずとも重傷を負っている。
(アイツが小山を唆して……俺たちと決別する羽目になった)
腸が煮えくり返る思いだった。山田、山下、小山は長い間ずっとチームを組んでいた。バカな話をしたり、背中を預け合い、死線を共にし続けた仲間だった。
そんな彼女を、人外へと化けさせ結果その命を散らせた。
今、天叢雲と戦っている青年は、妖魔となった小山を殺した。
そこに恨みはないかと言われれば嘘になるが、それ以上に青年に感謝をしていた。
彼は小山によって友人の命が奪われたのだ。それに加え自身の上司である炎の命を救い、今も命を張って戦っている。
本来なら忍者である山田たちが決着をつけねばいけないことを、青年が清算してくれたのだ。
(だから割り切りはできた。俺が今できる最大の援護をせねば……恩返しにもならんね)
引金を引き、戦場へ弾丸を放つ。
今の状況では当てなくてもいい、ただ戦っている二人に命中しないように、かつ天叢雲の邪魔になるような射線を作るだけでいい。
今のコンディションでできる援護は、そのくらいだ。
通常の妖魔あいてであればこれでも命中させて怯ませるくらいのことはわけないが、規格外相手にはこれでいいのだ。
すぐにリロード、またいつでも撃てるように準備を整える。
「あとは千代……今までいなかった分、ここでちゃんと取り返せよ?」
ようやく今回、戦う決意を見せた後輩の少女の名前を呟き次弾の引金を引いた。




