涙の後は
また一つ、龍臥は胸の支えがとれたように安堵する。
ずいぶんと肩の荷も降りたようで、精神的なモチベーションは過去最高であると言っても過言ではなかった。
間違いなくこれには目の前にいる二人の少女のおかげでもある。
あらためて龍臥は「ありがとう」と二人に頭を下げた。それにキョトンとする千代と炎。
「ど、どうされたのですか?」
「僕たち美人姉妹が君の前にいることに感謝してるとか?」
「姉様」
「ごめんなさい」
「ははは。いや、千代さんがいなかったら俺は話を聞くこともできなかったし、なんなら死んでたし。炎さんも俺の父さんの名前から新しい情報聞けて……両親はちゃんと愛し合っていたということがわかったのが、本当に、嬉しくて……」
言葉を紡いでいるうちに、どんどんと声が出なくなってくる。
龍臥の瞳には涙が溜まっており、それ以上の言葉をつむごうとしても嗚咽が邪魔をしていた。
そんな彼を見て、千代はすぐに隣に行き大丈夫だと伝えるため抱きしめる。炎も困惑こそしていたが、優しく彼の背中をさする。
「ごめ……涙、とまら……」
「大丈夫ですよ、主人様。ゆっくりでいいのです。泣いている間は、千代がお側におります。ですので、落ち着くまで泣いて……気持ちを晴らしてください」
「そうだよ。まぁ、僕に言われても困るだろうが……今は泣くといい。その間は
僕が二人を守るからね」
「あ……ありがど……」
それ以上は言葉にならず、そのまま龍臥は泣いた。
怜奈の葬式以降、彼は滅多なことでは泣かなかった。そんな彼がタガが外れたように涙をこぼし、声を上げて泣いたのは随分と久しぶりなことだった。
千代と怜奈も近くにいて、優しく彼が泣き止むのを待っていた。
※
「ぐす……」
「泣き止みましたね。なにかお飲み物を飲みますか?」
「大丈夫。それより……炎さん」
「なんだい?」
「俺と炎さんの二人がかりで天叢雲に勝てる可能性ってどの程度ありますか?」
服の裾で涙を拭い、泣き腫れた目で炎に真剣な目で聞く。
ずいぶんと気分が晴れたようだ、というのを炎はわかって彼女も安心した。
チラリ、と視線を千代の方へ移せば彼女も満足そうにしているのでこちらも安心。これで真面目に話すことができる。
「では、僕たちの戦力で天叢雲に勝てる可能性だが……正直言ってあまり高くないだろう」
真剣な表情で、冷静に炎から見た所感を伝える。
まず妖魔となった小山によって負傷をしていたとはいえ、忍者二人を容易に倒して炎の背後を取れるような相手であること。
そしてそんな小山を倒した龍臥ですらほぼ一方的に敗北したこと。
この二つの事実だけで戦力換算すれば、少なくとも鋼鉄兵器使い二人分以上ということは確定している。
「しかも、僕と鳳くんという装着者二人が負けているんだ。並大抵の装着者換算ならまだ増えるよ」
「炎さんはともかく俺もそんなすごい枠か?」
「君は自信を持っていいよ。事実上のバックアップなしで今まで生き延びてるんだし、小山を倒したんだから戦闘経験値はかなり高いよ」
生身では流石に忍者には及ばないけど、と炎は一言付け加える。
「だから、君はかなり高めに査定している。まぁ千代にも鋼鉄兵器があればいいんだけど、あいにく我が家には蟒蛇一つしかなくてね」
「ないものはしょうがないか……」
「だけど、僕の妹は最高な妹だからね。千代、援護は任せたよ」
「はい、お任せください姉様」
怯えもなく、自身のある声。
炎の知る千代はつい最近まで、こんなに自信を持っていなかった。
どちらかといえば、守ってあげたくなるような娘で……
(鳳くんには感謝だな)
「では、作戦の決行は今日にしよう」
「今日ですか? それには賛成しますけど……確実に会える保証はないですよ?」
「なぁに、考えはあるさ」
ニヤリと、炎は微笑んだ。




