流転の境界
神社に入った途端、景色が一変した。静かで美しくも慎ましい神社の面影はなく、そこは言わば亜空間。
周囲に不穏な妖気が流れ、空は血のような太陽の光に照らされ、神社内はその構造が無理矢理つくりかえられているようで、まるで迷宮のようだった。
「この美しき神社でなんという忌まわしい行為を! おのれ藤波家め!」
憤慨する両我の声には誰も答えず、ただ警戒態勢を維持していた。……その時だった。
「ふむ。予想より早かったな蒼主院。では、計画を早めるとしよう」
声がした方を全員が見れば、藤色の着物を纏った翁、壱右衛門がいた。
「我が一族の悲願、果たさせてもらう。藤波流奥義、流転の境界」
その声と同時に、地面が揺れ身体が浮く。
「強制空間転移術か!? 皆、気をつけろ!」
齋藤の声が響くが、気付けばその声は遠くなっていき、その場の全員が転移させられていた。
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「うわっと!」
五奇が地面へ着地したのと同時に、同じ場所に転移させられたらしい……輝也と琴依と遭遇した。
「あー五奇ちゃんと輝也ちゃーん。まっさかおんなじとことはね! びっくり!」
服に着いた泥を払いながら呑気なことを言う琴依に対し、輝也が静かに答える。
「……俺達だけか。ここは」
「そうみたいですね。んと、じゃあ……どう、します?」
恐る恐る五奇が訊けば、琴依が口を開く。
「確かー五奇ちゃんて妖魔探知できるんしょ? なっら~先導よっろー!」
「……異論はない。俺も探知は不向きだ。五十土頼む」
二人に頼まれ、五奇は了承すると輪音に祓力を込める。
「……前方には……気配なしです。進みましょう」
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「あひゃあ!?」
着地に失敗した空飛を、無偶羅将鬼が受け止めた。
「大丈夫?」
柩に声をかけられ、空飛が答える。
「あ、はい! 感謝いたしますです! 柩さん!」
明るく答える空飛に、柩がわずかに微笑む。
「二人。周囲確認求む」
そんな二人を見つめながら、雅姫が声をかけてきた。どうやら、この空間にはこの三人だけのようだった。視線を交えると頷き合い、歩きだした。
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鬼神、灰児、美珠の三人は各々周囲を見渡す。
「おい、無礼野郎と……花魁みたいなやつ! なんかいたかよ?」
「鬼神乙女よ、誰のことを呼んでいるのだ? ここには私と美珠だけだが!」
灰児の的外れな指摘に、鬼神が舌打ちをする。そんな二人の様子に美珠が慌ててフォローする。
「お、落ち着きなんし! ここにはわっち達以外いないようでありんす! 他を調べたら良いかも?」
「そーかよ! 行くぞボケ!」
先陣を切ろうとする鬼神を灰児が引き留める。
「君が先に行くのは私の良心が咎めるのでな! ここはこの妖魔剣ゼルギウスを持つ私が先導しよう!」
「良心ってなんだよ! ……ちっ、ならさっさと行けや!」
二人のやり取りをハラハラした様子で見守る美珠は胃が痛むのを感じた。




