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落零〈rakurei〉~おちこぼれ達の退魔伝~  作者: 河内三比呂
第一章 初めての任務編
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思い出す日

 翌日。トクタイに入ってから、すっかりズレてしまった睡眠バランスを戻すため、五奇は、八時に起きた。


(昨日のは、なんだったんだろう?)


 歯を磨きながら、五奇(いつき)はぼんやりと鬼神(おにがみ)とのやり取りを思い出す。


(……どうして嫌っている俺に、あんなことを訊いたんだろうか?)


 そんなことを思いつつ五奇が歯を磨き終えたところで、ちょうど空飛(あきひ)が入って来た。


「あっ」


「あっ……おはようございます。五奇さん」


「おはよ……早いね?」


「……ええ、まぁ。 では、その、歯を磨かせていただきますね! はい」


 なにか誤魔化すような言い方が気になったが、深く追求せず五奇は洗面所を後にした。出たタイミングで今度は廊下で等依(とうい)とすれ違う。


「あっ」


「おっは~? そいじゃま~その? トイレ行かせてもらってよき?」


「あ、すいません! どうぞ!」


 そうして廊下の道を譲った五奇は、リビングに入る。すると、珍しく新聞を読んでいたらしい鬼神の姿があった。

 その新聞の見出しには、大きく『黒樹(くろき)市長、彪ヶ崎信護(あやがさきしんご)氏 再選確実!』と書かれていた。


(そういえば……あの日は朝から変な日だったな。市長さん倒れていたし……。まぁその話を今さらしたところで、誰にも信じてもらえないんだろうし……する気もないけど)


 あの日。

 父を永遠に失った日。

 色々なことが起こりすぎて、五奇が市長と秘書との出来事を思い出したのは随分時間が経ってからだった。それに、修行の日々が目まぐるしくて、結局誰にも話せず今に至っている。


(まぁ、内密にって言われたのもあるけどさぁ)


 そう思いをはせていると、鬼神に声をかけられた。


「あ? なに見てんだよ? ……新聞が気になんのか?」


 そう訊かれて思わず固まってしまう五奇に、鬼神は不思議そうな顔をしながら「オラよ」と、新聞を乱暴に渡してきた。


「あ、りがとう」


 五奇がなんとかそう答えると、鬼神はさっさとキッチンに向かって行ってしまう。取り残された五奇は、少し悩んだ後、せっかくだからと新聞に目を通すことにした。


(えーっと。わっ……今までちゃんと読んだことなかったけど、けっこう色々な情報が載ってるんだな!)


 スポーツ情報から芸能人の話題まで。豊富な情報の数々に、在りし日の父の姿を思い出す。


(父さんはよく新聞を読んでいたけど、こういう感覚だったのかな? ……今日はなんだか、よく父さんを思い出す日だな? なんかあったっけ?)


「あっ!」


 突然大声を出した五奇は、大切なことを思い出した。


(……あの日から、一度も祝ってないけど……今日は……父さんの誕生日だ)


 あの出来事が起こるまでは、毎年祝っていた大切な日。五奇は、新聞をたたむと両手で顔を覆った。


(ごめんよ……父さん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 初仕事を、自分達の力で終わらせる事が出来て...でも、それぞれに思う所が多すぎる。彼等が過去に踏ん切りを着けられるその日が、早く訪れてくれると良いなぁ
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