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落零〈rakurei〉~おちこぼれ達の退魔伝~  作者: 河内三比呂
第一章 初めての任務編
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夜の怪物

 その声の主は『爆炎の妖魔』の攻撃を、黒いバリアのようなもので防ぐと、そのまま妖魔を蹴り飛ばした。


「えっ? あき……ひ、君?」


 五奇(いつき)が戸惑った声を漏らす。そこにいたのは、いつもの空飛(あきひ)の姿ではなかった。

 いつもより長い黒髪に、いつもとは違う金色の瞳。そしてなにより、()()()()()()に気づいて、五奇はようやく合点がいった。


「……もしかして、黒曜(こくよう)?」


 そう呼べば、空飛であり、黒曜でもあるその人物は、不敵な笑みを浮かべた。


「ふっ。(わし)に気づくとは誉めてやろう、人間。おっと、来るぞ?」


 黒曜が黒い(つた)のようなもので、襲ってくる『爆炎の妖魔』に対抗する。黒曜は余裕たっぷりといった表情で、


「あの程度、儂にかかれば造作もない。そこで震えて見ているがいい! 人間!」


「聞こえてるぜェ、兄ちゃん! 何が造作もねェってェ!?」


 妖魔が黒曜めがけて勢いよく炎を放つ。黒曜はそれを先程と同じ技で防ぐ。


「ぬるいわ!」


 黒曜は黒い蔦を無数に出して、妖魔へ向けて次々と放っていく。愉しそうに避けながら、妖魔が無邪気な声をあげる。


「はっ! ()()()()()()半妖かァ! おもしれェ! おもしれェよ!」


 次々と放たれる蔦を、妖魔は今度は炎を纏った拳で殴り出した。そんな妖魔を見て黒曜は、


「ふむ? 芸の無い奴よな。では、儂も少し本気になるとしよう!」


 背中から大きな黒い翼を生やして羽根を飛ばし、大きな輪を頭上に作り出した。


黒き羽根の円舞(くろきはねのえんぶ)!」


 その羽根の輪が上空へと浮かんだかと思うと、雨のように妖魔の周辺に降り注いだ。

 地面に突き刺さるほどの硬度を持った羽根はもはや刃そのもの。妖魔は避け切れず、黒曜の攻撃を食らうが。


「ははははっ! おもしれェ! いてェ! 愉しいぜェ!」


 なおも愉しげな、妖魔の傷ついた身体は、炎を上げながらあっという間に回復していく。


「ぬ? これは驚いた。貴様、何種だ?」


「そんな事言ってる場合じゃないだろ!? どうするんだよ?」


 五奇が咎めるように言えば、黒曜は不機嫌そうに五奇を睨みつけた。


「馴れ馴れしいぞ、人間。儂を誰と心得ている? よい、飽きた」


「はぁ!?」


 黒曜の言葉に五奇が驚いていると、すっかり傷を治した妖魔が両腕から今日一番の炎を噴き出した。そして、両腕を合わせると、


「それじゃァ、行くぜェ? 限界を超えた炎! 爆炎竜(フレイムドラド)!」


 炎の渦が現れ、炎の竜の頭が現れた。


「あっつ! って、うわぁぁ!?」


 炎の竜は、五奇と黒曜を飲み込むべく大きな口を開き、襲ってきた。


「ふはははは! 割と愉しかったぜェ! さァ、灰となれェ!!」


 思いのほか近くから妖魔の声が響くが、五奇はそれどころではない。


(ど、どうしたら!? 防ぎようが!)


「黒曜! どうしたらって、えぇ!?」


 五奇が横を見た瞬間、黒曜はいつもの空飛の姿へと戻っていた。しかも、気を失っているようだった。


「うっそだろ!? はっ! し、死ぬ! これは、死んでしまう!」


(終わるのか…? ここで? 俺は! 俺は!!)


 炎の竜は、容赦なく五奇達を飲み込んだ。

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