夜の怪物
その声の主は『爆炎の妖魔』の攻撃を、黒いバリアのようなもので防ぐと、そのまま妖魔を蹴り飛ばした。
「えっ? あき……ひ、君?」
五奇が戸惑った声を漏らす。そこにいたのは、いつもの空飛の姿ではなかった。
いつもより長い黒髪に、いつもとは違う金色の瞳。そしてなにより、全く違う気配に気づいて、五奇はようやく合点がいった。
「……もしかして、黒曜?」
そう呼べば、空飛であり、黒曜でもあるその人物は、不敵な笑みを浮かべた。
「ふっ。儂に気づくとは誉めてやろう、人間。おっと、来るぞ?」
黒曜が黒い蔦のようなもので、襲ってくる『爆炎の妖魔』に対抗する。黒曜は余裕たっぷりといった表情で、
「あの程度、儂にかかれば造作もない。そこで震えて見ているがいい! 人間!」
「聞こえてるぜェ、兄ちゃん! 何が造作もねェってェ!?」
妖魔が黒曜めがけて勢いよく炎を放つ。黒曜はそれを先程と同じ技で防ぐ。
「ぬるいわ!」
黒曜は黒い蔦を無数に出して、妖魔へ向けて次々と放っていく。愉しそうに避けながら、妖魔が無邪気な声をあげる。
「はっ! かなり上位の半妖かァ! おもしれェ! おもしれェよ!」
次々と放たれる蔦を、妖魔は今度は炎を纏った拳で殴り出した。そんな妖魔を見て黒曜は、
「ふむ? 芸の無い奴よな。では、儂も少し本気になるとしよう!」
背中から大きな黒い翼を生やして羽根を飛ばし、大きな輪を頭上に作り出した。
「黒き羽根の円舞!」
その羽根の輪が上空へと浮かんだかと思うと、雨のように妖魔の周辺に降り注いだ。
地面に突き刺さるほどの硬度を持った羽根はもはや刃そのもの。妖魔は避け切れず、黒曜の攻撃を食らうが。
「ははははっ! おもしれェ! いてェ! 愉しいぜェ!」
なおも愉しげな、妖魔の傷ついた身体は、炎を上げながらあっという間に回復していく。
「ぬ? これは驚いた。貴様、何種だ?」
「そんな事言ってる場合じゃないだろ!? どうするんだよ?」
五奇が咎めるように言えば、黒曜は不機嫌そうに五奇を睨みつけた。
「馴れ馴れしいぞ、人間。儂を誰と心得ている? よい、飽きた」
「はぁ!?」
黒曜の言葉に五奇が驚いていると、すっかり傷を治した妖魔が両腕から今日一番の炎を噴き出した。そして、両腕を合わせると、
「それじゃァ、行くぜェ? 限界を超えた炎! 爆炎竜!」
炎の渦が現れ、炎の竜の頭が現れた。
「あっつ! って、うわぁぁ!?」
炎の竜は、五奇と黒曜を飲み込むべく大きな口を開き、襲ってきた。
「ふはははは! 割と愉しかったぜェ! さァ、灰となれェ!!」
思いのほか近くから妖魔の声が響くが、五奇はそれどころではない。
(ど、どうしたら!? 防ぎようが!)
「黒曜! どうしたらって、えぇ!?」
五奇が横を見た瞬間、黒曜はいつもの空飛の姿へと戻っていた。しかも、気を失っているようだった。
「うっそだろ!? はっ! し、死ぬ! これは、死んでしまう!」
(終わるのか…? ここで? 俺は! 俺は!!)
炎の竜は、容赦なく五奇達を飲み込んだ。




