《archive:RED》no perch-(1) ※赤羽根視点
双樹沙羅は強欲の権化のような女で、俺が持つ不動丹田帯、ジャスティス・ウイングのヒーロースーツ、延いては俺の出生まで根掘り葉掘り知ろうとした。
面倒なので何度もはぐらかしたが、しつこさが上回り、電話口で俺はこんな話をした。
俺は厄介な流れ者同士の間に生まれた、輪をかけて厄介な存在だった。
両親は金欲しさに不動ベルトの適合者選びに巻き込まれて命を落とし、俺は即身明王の宿命に捕らわれた。
半生はそのくらいだ、と。
(実際のところ、イギリス人の曽祖父は上海租借地で阿片絡みのいざこざに巻き込まれ、戦後日本に逃げてきたらしい。要するに密入国者である)
双樹から「短すぎ」とクレームがついたので、即身明王について知っていることをだらだらと取り留めも無く話した。
今度は「長すぎ」とクレームがついた。
俺は電話を切った。
苛々したのは確かだ。
しかし俺は、それ以前に。
自分のことよりも、即身明王のことになると口数が多くなる俺自身に気が付き、寒気がした。
*
信頼はできないが信用はできる、双樹はそういった類のキレ者だ。
相手を選んで喋っている。
唐突の連絡内容も、実に合理的だった。
「オカルト呪術について詳しく知りたいんだけど、言いくるめられたり解釈のブレがあっても困るからついてきて。その辺の話って、即身明王のアンタにとっても有益なはずでしょ」
そして、その言い回しにまんまとやり込められた。
情けないことに、表面上だけでも即身明王として扱われ、舞い上がってしまっていたのだ。
そして迎えの車が数分もしないうちに、近所の公園に到着して拍子抜けした。
落胆した。
「なあに? 遊園地にでも行くと思ったの? ヒーローさん」
聞こえなかったふりをした。
ホームレスに占拠された公園にリムジンを横付けし、双樹はヒールを打ち鳴らしながら進んでいく。
曇天も相まって。怯えたホームレスが道をあける様子は、子供のときに見たファンタジー映画の魔女の登場シーンのようだった。
魔女はベンチに座った老人の横に遠慮なく腰を据えると、一方的に長話をはじめる。
対して老人は嫌な顔に続き、「帰ってくれ」五回、「話すことはない」十二回を経て、渋々に重い腰をあげると俺たちを隠し地下道へと案内した。
地上に比べ、不気味なほどに肌寒い空間だった。
結構な深度だ。
後々で知ることになるが、これは豪族用の地下シェルター、防空壕で、異様な形式にも納得がいく。
双樹は老人を南無爺と呼び、そして俺は通路の古い朱塗りと、その奥に積み上げられた怪しげな本やオカルト呪具の数々を見てピンときた。
不動明王丹田帯を作った、輝夜雪舟だ。
向こうも俺には気がついたようで、身構える。
「お主が、不動の……」
「悪いが、あんたのことは覚えてない」
「……そうか」
暗黙の了解だった。
話したいことなど無いのは事実だ。
俺の両親は金欲しさに命を落としたし、俺自身は即身明王の宿命を受け入れた。
この男はその道具を作った。
それだけだ。
それ以上、何があるというのか。
むしろ今更、即身明王のしがらみから解放され、自由を得たところで……。
「どぉっこいしょういちぃ~ッ!」
薄暗い思考は、双樹の野太い声にかき消された。
身分なりの品性があるとは思えなかった。
乱暴に置かれた目測十キロの大照明によりその場所は暴かれた。
書棚には日本語のみならず様々な言語の書物、変色したホルマリン漬けの肉片や魔法陣の布、呪術めいた仮面も壁際で埃をかぶっている。
汚らしさよりも、怪しさが目についた。
「で、ベルト絡みの資料は?」
「そんなものお主が見て理解できるとは思えん……」
言いながら南無爺は分厚いノートを取り出した。
目をぎらつかせた双樹が受け取るなり、一枚の紙が足元に落ち、彼女はおもむろに拾い上げた。
すぐに眉をひそめると、写真の隅を指し俺に視線をなげかける。
セピア調の写真に映っていたのは、南無爺と思われる身なりの良い若者と小柄な坊主、それから白衣の外国人。
双樹の青い爪がかかったのは外国人の方で――野暮ったい雰囲気、地味な容貌ではあったが、直感的にアキラの雰囲気を感じた。
口角の上がり具合、目のみ開き方があいつらしかった。
双樹でさえ、そう考えたようで、故に俺に見せたのだろう。
俺の驚きは顔に出ていたのか、察した双樹はどんどんと話を進める。
「これ、誰?」
「それは……ワシにオカルトや魔術を教えてくれた移民の男で、名前は……名乗らんかった。術式を損なうとかで。どこから来たと言っていたかのう……」
「思い出して!」
「そう言われると……ああ、うぅん、引っ込んでしまったわい」
「絵に描いたような耄碌ジジイね!」
噛み付きかねない双樹の首根っこを掴み、割り込んだ。
「名前も出自もどうでもいい。こいつは丹田帯を作った後、どこに行ったんだ」
「作る前に死んだわい」
「……死んだ?」





