66話 滅炎の復讐者 終結
『燃え尽きろぉ!』
「くっ、まだ燃え続けるのか。」
アラストールが腕を振るう度に、辺りに炎がばらまかれる。消えない炎はこの数を増やし続ける一方だ。「理の崩壊」では魔力効率が悪すぎる。
「うらぁ!ぶっ飛べや!」
『邪魔をするな、堕落した一族めが!』
殴りかかるパンテルに、アラストールの炎は容赦なく迫る。水を纏うパンテルも燃えなくても熱にはやられるのだろう、この熱さの中で動き回り息が上がっている。
ケアニスは右足を固定して誤魔化しているが、あのケガが治ったとも思えない。仮に治っていても歩くので精一杯だろう。
「殿下、あの炎は一体何処から?」
「自分の魔力では無く、辺りの物を燃やしているのだろう。自身の実体は既に魔力を消費するものでは無いように見える。」
「では、自然消滅は無いのですね。アス、魔眼は続くのですか?」
「そこまでは分かりません。この状況は複雑すぎる。」
既に予想外の連続で起こった状況だ。流石にこの流れは分からない。
「ぐあっ!」
「パンテル!」
僅かに後方に引いている間にパンテルが壁に叩きつけられていた。燃えていないのはケアニスの水が守ったからだろうが、パンテルはそのまま起き上がらない。
「そこまでにしてくれるかな。」
「なっ!?」
トライトンが振り向いた時、炎の剣が既に横凪ぎに振るわれていた。
「トライトン卿!」
「俺のアラストールの姿を今見ずにしてなんとする!あぁ、貴様も邪魔だ!」
再び振るわれた炎の剣が一筋の血飛沫を作る。
「アスっ!貴方っ...。」
「姉上、お逃げを。傷は浅いのでご心配無く。」
トライトン卿は倒れ付したまま動かない。生きていることを確認する間もない。今クレヴォールから視線をそらしては死にかねない。
「あぁ、アラストール。なんとも美しい光景ではないか!素晴らしい!」
『それより貴様はおとなしくしておけ。貴様の魔力は俺の物だと努々忘れるな。再び集まるまで貴様の魂は僅かに残し預かっておくぞ。』
「この美しき炎の中にあるのなら、核であろうと何であろうと喜んで差し出そう。」
『ふん、貴様本当に分かっているのか?』
そうか。今のアラストールの核は契約者の魂、か。やはりアラストール本来の核は崩せていたのだな。ならば、クレヴォールだけでも殺せればこの国はまだやり直せる。
「ケアニス、動けるな。」
「アロシアス様こそ、そのお怪我で大丈夫ですか?」
「問題ない。姉上、パンテルとトライトン卿を階段で守っていて下さい。」
既に【太陽の招く終焉】を防ぎ消耗仕切った姉上は退いて貰う。この焼け落ちた最奥の間で戦うのは、二人でいい。空の大鷲が城の周囲を回る。
「はっ!」
「【壁となる炎】!」
魔術での勢いを殺さずにアラストールに斬りかかるが目の前に魔法がしかれ、その壁を断ち切る。「理の崩壊」が付与されたこの魔剣は、魔力を消費させマナと魔力を散らす。壁は霧散させたが魔術で停止させた僕の隙は致命的だった。
炎の剣が横凪ぎに動き、後ろに跳んでかわす。着地した瞬間に走る斬られた腹部の痛みが一瞬対応を遅らせる。
「はぁっ!」
「くっ、ケアニス!」
回避を諦め、「理の崩壊」で迎撃に移る。クレヴォールの動きは全身を使ってでも止めてやる!
しかし、魔剣はケアニスへと投げ渡した。「大蛟」に乗ったケアニスが、受け取った魔剣をアラストールへと振り下ろす。
「消え去れ、復讐の悪魔!」
『人間風情が!』
魔剣より早く振るわれるアラストールの爪がケアニスに迫った。
「【滅炎弾】。」
大鷲の上から放たれた弾丸は、アラストールの腕を打ち消した。
妨害するものの無くなった魔剣がアラストールの核に深々と突き刺さる。
光が放たれ、アラストールの核が...悪魔の心臓が、割れた。
『グアアああぁぁぁぁァァァ!!人間風情がぁ!この俺をぉ、またしてもぉぉォォォォ!!!』
「アラストールっ!!」
駆け寄るクレヴォールの前には一人の少年が降り立ち、立ちふさがる。立つのもつらそうなその少年が、決意の込められた魔力の形をクレヴォールに向ける。
「貴様っ」
「じゃあな火狂い。二度と顔見せんなよ。」
渇いた音が響き、その日朝日に包まれて全てが終わった。
元凶の男はその身を炎に包まれ、日の出の終わりには破壊された王都を残して夢のように消えてしまった。
メリークリスマス!あれ?1日早い?
という訳で滅炎の復讐者、これにて、完・結!です!思えば一年前の今日からのスタートです、懐かしいですね(白々しい)。
明日は後日談や設定、魔術の纏め等投稿です。それではよろしく!




