66話 滅炎の復讐者 伝統
動きを止めた小さくなったアラストール。その胸に一直線に光の切り札が吸い込まれていく...。
アラストールが火柱に包まれる。
魔術が焼き払われる。
炎に弾丸が呑まれる。
俺の《魂の保存》で守られ、燃えない。
炎の壁が現れる。
込めた俺達の悪魔の魔力が【滅炎】する。
そのまま突き刺さる。
薄くなったアラストールの炎を突き抜ける。
心臓に、届く...。
「「【理の崩壊】!!!」」
光が全てを包みこんだ...。
『許...さんぞ...。』
「くそっ!消えてねぇ!」
『全て燃え尽きろぉ!』
人間程の大きさになったアラストールが、終焉の太陽を地上に招く。膨大な熱量が辺りを遅い、猛烈な勢いで体力を奪う。
只でさえ特殊弾に込めた魔力のせいで少ない体力もなくなっていく。もう腕一本動かすのもだるい。
「【滅炎】っ...。ダメか。」
全力の滅炎でも、ほんの僅かに縮んだだけの【太陽の招く終焉】はそのまま地上に向かう。
強大な炎が周りの雨を蒸発させ、霧がかかる。俺の意識にも霧がかかって来た...。
「あれは...流石に持たんな。」
「父上。此方にいらしたのですか。」
ケアニスがトライトンに気をとられた一瞬で、クレヴォールがアラストールへと跳び出した。大きく燃え上がった炎が身体能力を獣人顔負けの物に引き上げている。
「ちっ!わりぃな大将。逃がしちまった。」
「いや、もう切り札は撃たれた後だ。問題ない、よくやったな。」
悔しそうに顔を歪めるケアニスに代わり、トライトンがパンテルを労う。事実十分な働きのお陰でアル達の弾丸はアラストールに命中している。
「しかし、この火球は防げますか?」
「何故、アラストールを拘束していたロディーナ公の魔術が消えたのか分かるかね?」
「んなもん、火柱でだろ。」
「いや、あの柱は魔力は全て吸収されるんだって説明されたろう?」
呆れ顔のエピスは、既に塔に歩き出している。アル達を回収するのだろう。
突如、大きな結晶がせり上がったかと思うとその勢いのまま天まで成長し、【太陽の招く終焉】を突き上げる。大きく魔力を乱された魔法は上空から落ちること無く、その場で爆発し熱を振り撒いた。
「正解は、アラストールを拘束していた魔力を回収して攻撃に備える為だ。」
「おぉ!アレを止められんのか!」
「準備していれば可能なのだろう。全く王族は規格外が多い。」
トライトンは城へと足を向ける。
「あれだけ弱った者なら我らにも御せるだろう。行けるか?」
「まだ行けるぜ。」
「私も大丈夫です。」
「では間に合ううちにいこうか。」
城の頂上は天井も無く、酷い有り様だった。辺りは黒く焦げ所々炎がちらつく。
「アラストール、あぁ、今、私が、芸術に...。」
『契約完遂だ。』
燃え上がるクレヴォールは、アラストールの炎に焼かれ魂を奪われているのだろう。しかし、そんな事はさせない。アラストールより、人間が魔力を持っている方が驚異にならない。僕の魔術でクレヴォールを包む炎が消える。
「「理の崩壊」。」
『貴様何処から!』
「瞬間移動」で城の上に移動し、そのまま落下しただけだ。もうしっかりと体力も魔力も戻っている。魔方陣を魔剣に付与する。悪魔も切れる剣の完成だ。
「何故、またしても邪魔をする!俺の、俺の炎がぁ!」
『手伝え!こいつを排除する!』
「自分の魔力は存在維持で精一杯か。」
惜しかったようだな。ギリギリで核の崩壊だけは防いだか。それほどまで魔力を精密に操作出来るとは思わなかった。
爪を振るい攻撃を仕掛けるアラストールから魔術で退避する。炎の剣を持つクレヴォールには、実力の違いを見せてやろう。魔力の薄い魔法使い等恐れるに足りない。
「アス!?何故此処に?」
「遅れて来るといったでしょう、姉上。」
走ってきた姉上ももう魔力は少ない様だな。この分では、余裕があるのは僕とクレヴォールだけだろう。いや、獣人の二人とアルならば魔力は大きく関係ないか。体力さえ戻ればよいのだから一時間とかからないはずだ。
『貴様の魂、貰った!』
「お断りいたします!」
自らの実体で燃やしにかかるアラストールは、炎の上を滑るように姉上に向かう。なけなしの魔力で作るアーツが姉上を上に跳ばした。
「っと、危ないですよロディーナ公。殿下、後ろは気になさらず。」
「大将、悪魔を殴る!援護頼むぜ!」
「分かっている!「水纏い」!」
駆けつけた三人に悪魔を一時的に任せてクレヴォールに振り替える。目前に迫る炎の剣も、魔眼で後ろからの魔力や風を読んでいた僕には予定調和でしかない。魔術で横に移動し、そのまま前に駆け出し様に切り払う。
「ぬうっ!?【処刑する炎】!」
「まだ魔法を使えたのか!?」
「アロシアス様!」
僕ごと包もうとする炎に気づいたケアニスが、水流を発生させて押し退けてくれる。よく気付き、大事な場面でしっかり役立てる男だ。
一言労い、炎が落ち着くのをまち魔術を起動する。炎の中から現れたクレヴォールにそのまま蹴りをいれる。その先は壁の無いバルコニーだ。
「貴様ぁ!許さんぞぉぉぉ...。」
「落ちたか。生きてはいるだろうが。」
とにかく戦線離脱だな。
「ケアニス、助太刀感謝する。」
「勿体なきお言葉です。アロシアス様。」
「ふっ、こんな時位軽口でも言ってみろ。」
パンテルと並び、魔剣を構える。その先には実体を持つ炎の悪魔。人と違うのは全身が炎に包まれた赤い魔力光で出来ている事。角、爪、翼の有ること。まさに伝承に聞く悪魔そのものだ。
『誇れ、人間。この俺が人間に復讐する側にまわったのは数百年ぶりで、これで二度目だ。』
「そうか。ならば覚えておくといい。貴様を滅ぼすのはアロシアス・テオリューシア。テオリューシア王国の九代目国王だ。」




