66話 滅炎の復讐者 復讐と決意
「あぁ、あぁ!俺の、俺のアラストールが!美しい炎が!」
「うるせぇよ、気違い!」
アラストールに巻き付く「八岐大蛇」の大きさは計り知れない。やはり父上は凄まじい。
もがくアラストールを見て取り乱すクレヴォールに、パンテルの猛攻が続く。攻撃の度に蒸発する水は、新しく入れ換え続けてパンテルの手足が痛まないようにする。その作業に思考を割き続けなければ行けないため、エピス君のフォローは出来ていない。
「あんなんで心配かぁ?随分ちゃちな炎なんだな、アラストールってのはよぉ!」
「ふん、気づかないとは可哀想な奴だ。アラストールこそ至上だ!」
「ならこっち向けや、コラァ!」
パンテルの大きく振りかぶった拳が、振り替えるクレヴォールの顔に迫る。反撃できないようにエピスの投げナイフがクレヴォールの視界ギリギリから投げられている。僕はすぐにパンテルの拳を包む水を厚く、高圧にする。
回避一択のクレヴォールは後ろに仰け反り、すぐにその身に纏う炎を大きく燃え上がらせる。熱に耐えかねたパンテルが飛び退き、仕切り直しとなる。
「おら、かかってこいや。」
パンテルが不敵に笑い、クレヴォールが踏み込んだ。
「...エレシア、まだ大丈夫か?」
「ごめん、こんなに魔力を引き出したこと無いから...。少しきついかも。」
俺の込められる魔力を込め終えて、少し朦朧とする意識で訊ねるとエレシアは首を振るった。俺はエレシアから引っ張り出す魔力を少し少なくする。契約者のエレシアの魔力なら魔方陣に使う魔力を引き出す素材を使わなくても、俺が動かせる。魔人だからな。
理論上必要な量を弾丸に詰め込んだら、エレシアにはカルカノの発射用の風圧も手伝って貰わなければいけないのだ。俺の魔力量はピルケアルと記憶を除けば僅かしか無く、何故か記憶とそれを運んだピルケアルの分の魔力さえも引き出せるエレシアとは違う。
「きついだろうけど頑張ってくれ。これが終わったら、カルカノは触れてくれているだけでいいから。」
「...皆無事?」
「まだ、戦闘は続いてる。多分、変化無いはずだ。」
「分かった。...よし、規定量にいったよ。」
多過ぎて俺には分からないので量の管理は全てエレシアだ。すぐに光る弾丸をチーターに装填し、上空に放つ。緑の光は準備OK、だ。
「対悪魔特殊弾、装填。照準、よし。エレシア頼む。」
「うん。」
膝撃ちの狙撃体勢に移った俺の肩にエレシアの手が置かれる。後は、チャンスを待つのみ。
「緑の光!よっしゃ、上手くいったか。」
「なに?...あの二人か!?」
バカの叫びで気違いが塔に火球を放つ。僅かに窓から覗く光の棒はアーツの光だろう。的確に狙われている。でも残念、防衛戦で目標を見失うのは馬鹿位の物だ。...つまりうちのバカは忘れてる。
「「大蛟」、呑み込めっ!」
「させるか!【壁となる】」
「「影縫い」。チョロいね。」
「ちっ!【処刑する炎】!」
「ナイフ相手に大人げないなぁ。」
僕がわざわざ自分で気違いの影まで触りにいってやるとでも?面倒くさい。近くの廃屋の影から出てくる僕を見て顔を歪ませる気違いにナイフを三本投げてやる。残念、右目になかなか当たらない。
当然妨害を受けない「大蛟」が火球を呑み込めば塔に届く驚異はない。むしろ、炎の剣でナイフを弾いた気違いに驚異は迫っている。向かないように鞭をしならせて威嚇する。
「っ!?【処刑する炎】!」
「ちぃっ!気づいたか!」
自分ごと包む火柱が降り、バカの撤退が決まる。まぁ、今のはしょうがないか。代わりに僕の姿は見失って貰う事にする。音をたてないように走り、近場の影に溶ける。
『いい加減俺の邪魔をするな!【処刑する炎】ぁ!』
突如響く声は空を震わせて大地を焦がす。気違いとは比べるのも烏滸がましい規模の火柱が、城も、「八岐大蛇」も、雨雲さえも貫き、地を貫いた。
『全てを壊してやろう。【太陽の招く終焉】!』
「八岐大蛇」を蒸発させきったアラストールは自由になった体から、上に掲げる手の前へと炎を飛ばしていく。空を多い尽くすような極大の炎。紅く、黒く明滅する禍々しい炎が王都の上空に現れた。
まるで世界中から見えるのではと思うような炎。...そいつを出したら随分と貧相になるよね?
「「八岐大蛇」!」
「「一点極風」!」
「「具現結晶・吸魔監獄」!」
再び現れたさっきよりは小振りの「八岐大蛇」が再び巻き付く。
「白銀大鷲」の羽ばたいた風は四方八方からアラストールの心臓に向けて吹き荒れる。
魔力を吸収し、それによって耐えうる結晶が幾筋も生えてアラストールを挟む様に拘束する。
『なにっ!?』
「アラストールっ!」
盤上は整った。動きを止めた貧相なアラストール。その胸に一直線に光の切り札が吸い込まれていく...。




