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滅炎の復讐者  作者: 古口 宗
最終章 新しい世界 掴み取った人生
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65話 消耗戦

「アル君、ケアニス様は大丈夫かな?」

「前衛にパンテルがいるし、いざとなればエピスもフォローするさ。炎の対策さえ出来れば、アラストールのいない火狂い程度あの二人だけで足止め出来ると思う。」


 怪我の治りきっていないケアニスさんだが、此処に来てくれた。多分後で第三王女辺りから涙のお説教が入るだろう。


「よし、この窓からならぶれないだろう。エレシア、念のためこの枠を頑丈にしといて。」

「屋上まで出ないの?」

「上から見つかり安いから却下で。ここで十分標的は見えるよ。」


 飛び回る大鷲がアラストールをこちら向きに誘導し続けている。砲撃も続く中、動くに動けないのはその巨大な体躯が原因だろう。城も半壊しているしな。


「よし、エレシア。特殊弾の準備だ。」

「分かった。ありったけの魔力込めるから少し時間かかるね。」

「了解。」


 俺もカルカノを作り、セットしていく。狙撃の時の照準及び微調整の簡単な位置と体制を模索する。


「こいつでさよならだ。アラストール。」


 スコープ越しに俺は城の上の悪魔を睨み付けた。




「【処刑する炎(ディオミス・フロガー)】!」

「くっ、そが!」


 水の纏った籠手はクレヴォールの火球は防いでも魔法までは防げない。次々と来る猛攻に段々と焦れてくる。あいつを見てると無いはずの左腕が疼いてやれねぇな!


「パンテル、押さえるんだ。あくまでも目的は戦闘継続だ。」

「おっと、忘れてたぜ。しかし大将、本当に平気か?」

「怪我は治ってるんだ。問題ない。」


 この大将は働きたがりでいけねぇな。エピスに少し分けてやりゃあちょうどいいのによ。今も俺を諌めながら「大蛟」を手繰り、クレヴォールの逃亡を防ぐ。その合間に水刃まで飛ばすからな。

 肝心の従兄は、こいつには完全に殺る気満々だ。おっと、やる気満々だ。唸る鞭は関節を的確に狙い、時折その猛攻に隠すように投げナイフが飛ぶ。全て残った右目狙いが執拗で我が兄ながら怖い。


「ええい、鬱陶しい!【炎の鎧(フロガー・パノプリア)】!【剣となる炎(クシフォス・フロガー)】!」

「まるで燃え死ぬ騎士様だな。死ね。」


 物騒な事を呟くエピスが、鞭で顔や首を狙う。半獣人の力で振るわれたそれは水によって刃が仕込まれている。それが当たればまずは無事じゃねぇな。

 しかし、水を蒸発させるほどの熱を纏ったクレヴォールはそれを無視して一直線に大将に斬りかかる。


「させるかよ!」


 すぐに駆け寄り水で守られた拳を振るう。剣の腹で受けたクレヴォールは後ろへと弾かれた。


「あつっ!あちゃちゃ!」

「そりゃそうだろ。バカだな。」


 相変わらず一言多い奴だ。誰がバカだっつの。

 着地したクレヴォールに間髪入れず襲いかかる従兄に心で悪態をつき、殴りかかる。もちろん、エピスじゃなくてクレヴォールにだ。地面に着いた拳をそのままに腕一本で逆立ちし、回し蹴りを連続で叩き込む。最小限の回避だとこうなるぜ?

 剣を振るったクレヴォールからは右腕で後ろに跳ねて距離をとる。その間は大将の水刃が隙をうめる。


「そこを通せぇ!ハイエナ風情が!」

「「あっ?」」


 なんか気違い風情がほざいているようだな。良いぜ、躾の用意なら万端だ。まだやれるぞコラァ!




「そろそろ動き出せるかな。これだけ暖まれば雨も...振りだしたな。」


 元々多湿な王都は地下に水路を作り水を逃がす作りなのだ。暖まれば周囲の湿気も吸い寄せられ雨になる。特にこの時期は。


「さて、これだけあれば十分だな。「八岐大蛇」。」


 全長は30メートルにもなる傑作だ。直径も3メートルはあるだろう。上出来だ。

 暴れだすアラストールの反撃の結果、投石機全滅、大砲も半数がダウン。バリスタも二割を切っている。一般兵にはここが限度だろう。三大侯爵家当主にも劣らぬ力を見せてやろう。


『ぬう?水の蛇、か?八匹、いや一匹で何をするつもりか。』


 アラストールの放つ火は魔力を燃やす類だろう。しかし生憎と表面の鱗は全て此処にあった水だ。燃え移らない火では当たった数枚の鱗を燃やすのみ。直ぐに再生する。


『自然の水か!ええい、面倒な。蒸発しろ!』


 ただの火属性魔法等、魔術で作った水ならば問題ない。魔力には優位性があるからな。さしずめ古今東西の偉人に頭の上がらぬ女性がいるように、だ。

 すぐに入れ換えた鱗は魔力の水。今度は数枚も焼くことはない。縮んだそれもすぐに直す。


『...厄介な。術者は何処だ?』

「ほう、寝ぼけきってはいないのか。」


 もっとも素直に名乗り出るなどしないがな。このトライトン、何度姑息と言われた事か。

 八の首が絡み付き、更に胴体でも締め上げる。僅かでも魔力を消費させ、装甲を薄くしてやろう。次々と沸騰し湯気の上がる「八岐大蛇」だが、辺りの湿度が飽和すればもう蒸発しない。更に降る雨は全て貰う為、縮むのは極僅かだ。ついでに辺りの水も小さな「大蛟」にして送り、回復させる。


『しつこいわ!俺の邪魔をするな!』


 更に熱をあげるアラストールの装甲は薄くなったろう。狙い通り、か。此方がつきる前に切り札が来る事を祈り、更に「八岐大蛇」に魔力を送った。

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