62話 決戦前夜
「全員揃ったな。」
アロシアス様が天幕の中を見渡し、確認する。
アロシアス様の隣に第一王女、反対側にセメリアス侯爵が座っている。そこからナイアース伯爵、エレシア、エピス、パンテル、俺がいて、向かい側には第二王女、第三王女、ベッド(ケアニスさん)、カプラーネさんがいる。
ケアニスさんは、まだ目覚めておらず第三王女とカプラーネさんがついている状態だ。
外には打倒アラストールを掲げる残党兵や騎士団も集まっているが、今回は後方支援に動くらしい。騎士団は魔術師ではないからアラストールに喰われて終わりだと判断されたからな。傭兵団と奴隷兵達も参加してくれている。一部だけ。
「今の状況を確認する。父上がアラストールに呑まれ、復讐の悪魔・アラストールの再臨が始まった。過去にもアラストールは滅された後に現れている。そうだな?」
アロシアス様の確認にカプラーネが頷く。
「そのように資料に残されておりました。最後の目撃例からは滅ぼされた記録はありません。」
「うむ、今までのアラストールは他の悪魔同様に永い時の中で弱った物だということだな。それが父上の魂を糧に全盛期の悪魔に戻ろうとしている、と。」
天幕に重い空気が降る。簡単に言えば王様と城と貴重な記録はなくなって、倒せなかった敵が実は残滓みたいな物で、本物が目覚めそうな壊滅寸前の王都に取り残された、と言うことか。
これ、アラストールが居なくても国として立ち直れるのか?
「課題は山より積み上がっているが、とにかくアラストールとその契約者、クレヴォールの討伐。これが最優先だ。夜明けまでに準備せねばならん。残るものは?」
「まず討伐できんのか?あんなの、近づくのもキツいぞ。」
パンテルの指摘が話の流れをぶったぎり、退室出来ない流れになった。横を見ろ、お前の従兄の射殺さんばかりの視線を。もっとも、他に退室しそうな人間はいない。全員、国の重鎮(真面目)か、あいつに恨みのある奴らばかりだからな。エピスも諦めて座る辺り、思うところはあるのだろう。
「それなんだが...アル、私の部屋にいったか?」
「えっ?はい、行きました、けど...。」
「よろしい、では持ち出したな?」
なんでこの流れで詰問会議?と思っていたら違うようだ。
持ち出した?...あぁ、あれか。
「こいつですか?」
「うむ、それを叩き込む。」
俺の取り出したのは悪魔の心臓を壊した「理の解放」の魔方陣だ。ちなみに命名はアロシアス様だ、俺じゃないぞ。
効果は魔術的な理の無力化。つまり、マナを使ってマナを散らすと言うシンプルかつ高度な技術...らしい。俺にはよくわからないがエレシアが目を見張っていたから、流行りにのって「流石王子様!」とでも言っておこうかな?「さす○○!」とか前世で多かった気がする。
「少し改造する必要と、接触から発動までを可能とする手順は必要だが...無謀ではあるまい?」
「接触からの発動なら出来るかと思います。」
俺がアーツでカルカノを取り出すと、アロシアス様は頷く。
「形状から言って君がちーたーと呼んでいた物と同じか。どれ程とぶ?」
「一二〇〇メートルですが、当てる事や核まで貫通させる事も考えて八〇〇メートルが限度です。」
「お前はいつのまにんなもんを...。」
パンテルの戯言は無視だ。
夜明けまでなら試射して、調整まで出来るな。エレシアにも弾丸の調整、頑張って貰おう。
「なら、そこまで近づく援護と対象の固定。これが作戦だな。」
「貴殿ならば拘束出来よう?私は足とでもなるか。」
「では、私も固定いたしますわ。「具現結晶」ならぴったりでしょうから。」
最年長組の会話は既に作戦結構に移っている。...「具現結晶」って「アーツ」だよな?なんで第一王女は言い方変えてるんだろう。
「僕も、参加させて、くれませんか?」
「ケアニス様!?目が覚めたのですね?良かった...。」
「...ケアニス、今の君は動けるのかい?」
「右足は無理ですが、魔術には支障、ありません。」
「苦しそうだが?」
「少し眠れば、治ります。」
アロシアス様の説得も聞く耳持たずか。ケアニスさんも割りと強情だよな。まぁ、「大蛟」は居てくれたら助かるので何も言わない。あと苦しそうな原因の半分は多分貴方の妹です、王子様よ。首にきまってるって、怪我人だって。
「ならば作戦決行までに間に合えば接近の護衛、及びアルの攻撃用に足場の生成を行え。間に合わなければ、引き続き妹達を頼む。」
「わかり、ました。ありがとう、ございます。アロシアス様。」
役目があればすぐに引き下がる辺り、意識があるなら働きたいのだろう。ケアニスさんは何故か周りに負い目でも感じてるみたいだし。
「ルセーネ、君も待機だ。この場を全て隠して欲しい。」
「お安い、御用。アス兄、は?」
「魔方陣にかかる。アル、材料はどうせ持っているのだろう?」
「途中まで作ってあります。改造するなら邪魔でしょうが。」
「いや、むしろ楽になったな。問題ない。」
準備の為に次々と天幕を出ていく。大半は休息をとる為だろう。
端からアラストールに近づけない獣人従兄弟は護衛決定だとそうそうに休みに行った。
気を効かせて天幕の中に第三王女とケアニスさんだけ残して、俺とエレシアも天幕をでる。外は慌ただしくバリスタや投石機なんかが組み立てられている。防御させて少しでも魔力を削ぐのだろう。気をそらしてくれた方が狙撃も楽なのでいい。
「さて、エレシア。」
「何?アル君。」
「...逃がさんよ?」
「もう嫌ぁ~。」
試射したら調整は付き物だ。あれだけ皆を動かすのだから確実に成功させないといけない。僅かでも成功率をあげるため、休む時間は残しつつ試行錯誤である。だから後ずさるエレシアを確保するのは当然の流れだ。
ちなみに遠方の的に命中したかの統計や確認はエピスがやってくれたので、随分捗った。引きずってきた青髪のお姉さんなんて俺は知らない、何も見ていない。エピスが良い奴なのだ。




