61話 終焉の灯火
「...静かだな?」
「じゃあ今ならお城から抜け出せるんじゃない?」
「せめて外の様子が分かればなぁ。とりあえず、仕上げてしまおう。」
エレシアの作るアーツは大分形になっている。保存しておけば形はゲームのマイセットでも呼び出す手軽さで作れるから魔力を込めるのに集中出来る。
そのため、アロシアス様の隠し部屋で練習もかねて対悪魔特殊弾をつくっているのだ。使うわけではなく、形の保存様なので形作る最低限に押さえ、魔力は多く込めていない。
「うーん、やっぱり難しいよ。すごく細かいし。そっちは?」
「試し撃ち出来ないからなんとも。でも、大丈夫だとは思うよ。」
自信作のバレルを引き延ばしたカルカノを見せながら返すと、エレシアは首をかしげる。
「それってスナイパーライフルなの?なんか開拓時代のアメリカの映画とかで一般人が撃ってそうなのだけど。」
「単純な構造だとこうなるんだよ。改造してるから、800メートルぐらいなら外さないとは思うぞ。」
何かと人間と関係の深い悪魔の核なんて、魔人化のキーアイテムが悪魔の心臓なんて名前なんだから心臓と同じだろうと思う。
あんだけデカいと心臓なら直径2~3メートルはありそうだし、動かないでいたら1㎞先でも当たるかも知れない。
「アル君、狙撃なんて出来たんだ?」
「前世でロマンを求めてた時期があってさ。」
ただし、いざスナイパーをしようとするとこぞって嫌がらせのように狙われたから止めたが。あいつらのスナイパーへの恨みなんなの?
「...アル君ってさ、前世で私と会ってる?」
「いきなりどうした?」
「だって私の魔力なのに、アル君が保存できたり力使えるのってなんでかなって考えたらさ、アル君の悪魔って記憶も保存できるんでしょ?もしかしたら、前世から私にアル君の悪魔って一部宿ってたりするのかなぁって。」
「まぁ、その通りだったよ。むしろ、エレシアと契約してると思うよ?」
「えっ?そうなの?」
かなり驚いたのか、エレシアは作業をやめてこっちを見る。
「今は宿ってはないけどね。ペンダントの時に、魔力の色戻らなかった?」
「あれ、アル君の悪魔が抜けたからなんだ...。」
「エレシアにそれだけ魔力量があったり、水以外にもいろんな魔術が得意だったりするのも悪魔不在だけど魔法使いだからだと思う。てか、書いてなかった?」
「中途半端に書いてた。私に記憶があるのもアル君の悪魔が届けたんでしょ?」
「そうだな。...後悔してるか?」
赤子の頃から高校生の記憶があったら混乱とかしないだろうか。そういう風に力を使ったのは涼風だけど、こうなったのは俺のせいでもあると思う。
少し俯いた俺にエレシアは首をふった。
「なかったら私、しょっぱなから違ってし。まずナイアース伯爵に泣かされてないもん。いろんな人といられる今が好きだから後悔してないよ。」
「待って、ナイアース伯爵に泣かされたって?それ、聞いてないんだけど。何があったの?」
「あっ、これなら良いんじゃない?」
見事に魔方陣の組み込まれた特殊弾が顔の前につき出される。咄嗟に顔を引く。人の目の前に物をつき出さないでください。
ていうかマイペースだな、聞いてきたのエレシアなのに。
「うん、これならまっすぐ飛びそうだし保存しとくな。」
「やっと終わった~。」
「言うほど作業してないぞ?」
「でも、気づいたら昼だったのが夕暮れだよ?」
隠し部屋から出たエレシアが不満そうに外を指差す。...おかしいな。城が一切燃えてない。
「...ねぇ、流石に静かすぎない?」
「なんか嫌な予感がするな。多少無理してでも皆と合流しよう。」
カルカノと特殊弾を魔力に直し、アロシアス様の部屋をでる。流石に上に行くと逃げることも出来ないので下に降りていく。火狂いが今どうしているかは気になるが、どのみち外に出るなら下だ。
大扉を抜けて、城を出る。襲撃はない。...火狂いの奴、ホントにどこ行った?
「あっ、アル君。お父様の大鷲だ!」
「あんなに目立ってても攻撃されないのか?マジでなに考えてんだ火狂いめ...。」
「アル君顔怖いよ?」
安全なことに越した事はないけど、この状況はむしろ安全じゃない気がする。絶対に何かある。今あいつを止められる状況では無かったからな。
考え込んでいるとすぐそばに「白銀大鷲」が着地する。...この人も大概な魔力量だな。エレシアの魔力量が多いのは血の関係もあるのかも知れない。
「二人とも無事だったか!良かった。」
「お父様こそ、ご無事で何よりです。」
「セメリアス侯爵、火狂いの様子は分かりますか?此方では確認できていないのです。」
「奴は...見た方が早いだろう。殿下の見立てでは今夜中が目処だということだ。」
「目処、ですか?」
とりあえず、見た方が早いなら見せてもらおう。俺もエレシアも魔力や疲労が溜まっているし、エレシアいわく俺はケガも多いらしい。エレシアがしたのはあくまで応急措置だと言うわけだ。
つまり、なるべくなら休みたいので皆のいる天幕に行くためにも大鷲に乗る。羽ばたいた大鷲が纏う風が俺達を空高くまで運ぶ。
「後ろを向きたまえ。そこに答えがある。」
「あれはっ?」
「蛹、か...?」
「復讐の悪魔・アラストールの再臨だ。」
俺達の眼前、蠢き胎動する炎の塊が城の上に鎮座していた。




