59話 取り残された二人
「くそっ!【滅炎】!」
消えるのを待ってなんていられない。それに俺の存在を示せば此方に来る可能性もあった。炎が消えれば俺がいるとわかるはずだ。
「急ぐぞ!」
アロシアス様が叫んだときには、既にアロシアス様と第一王女様以外皆走り出していた。
真っ先に酷く焼け焦げた部屋にたどり着いたのはエピス。続いてパンテルが駆け込み絶叫する。
「大将!!」
その叫びに反応した用に横合いから「大蛟」が飛び込んでいく。
俺が部屋にたどり着いた時には、パンテルと父親に支えられたケアニスさんが倒れていた。溶けた剣の刺さった右足は酷い有り様で、所々骨さえ覗いていた。
「まさかもう...。」
「いえ、王子。息はあります。...申し訳無いが私とパンテルは退かせて戴きたい。」
「うむ、許す。ケアニスを、我が友を助けてやってくれ。王都の南に行けばまだ反乱軍の拠点が残っている筈だ。そこで治療を。」
「はっ!」
こうなると更に奥に続く焼け跡が気になるな。...マナが引っ張られてんのは上だな。
「先行します!」
「僕も行こう。」
「待ちなさい。君たち。」
止めるエレシアの父さんは窓の外に「白銀大鷲」を出現させた。
「最上階に行くぞ。奴よりも先に!」
たどり着いた城の頂上、最奥の間。
結晶に乗るアロシアス様と第一王女様と「白銀大鷲」に乗る俺達がみたのは翼を広げ、空に吠える炎の悪魔だった。
「おい、あのバルコニー。」
ただ目を見張る俺達にエピスが指差したのは炎の悪魔の袂。幾重もの水のカーテンに包まれたそこは炎を寄せ付けずに綺麗な姿を保っていた。その中に四人の姿が見える。
「セメリアス侯爵、あそこに大鷲を!炎なら防ぎます!」
「頼むぞ、アル殿!」
急降下して迫る大鷲に火球や炎の剣が矢継ぎ早に飛んでくる。その全てを回避し、打ち消し、バルコニーに迫る。
「乗れぇ!エレシア!」
「アル君!?」
俺とエピス、二人で咄嗟に四人を掴み、引き寄せる。すぐに上昇する大鷲に炎の波が襲い掛かる。
「貴様ぁ!またしても邪魔をするのか!」
「何度でもやってやる!」
去り際に放つ特殊弾が火狂いの肩を貫き、怯ませる。意識がそれて、放つ火球が大鷲のすれすれをよぎる。
「...えっ?」
「エレシア!?」
火球の勢いに煽られた大鷲が揺れ、エレシアの足が落ちる。そのまま滑り落ちていく体へと伸ばす手は空を切る。
「そのまま飛んで逃げてください!」
「アル殿、何を!?」
大鷲から飛び出した俺と空中のエレシアが交差する。そのままエレシアを抱え城の窓から飛び込んだ。...間一髪だったけどセーフか?
「アル君、大丈夫!?」
「いや、むしろお前が無事か?」
互いに向き合い確認する。良かった、エレシアにはケガはないみたいだな!?
肩の緊張が抜けた瞬間、エレシアに引っ張られる。すぐに身を起こそうとして頭に鈍い痛みが走った。
「アル君の頭から血が出てるよ。窓ガラス割れたときに切っちゃったんじゃない?治療するから動かないで。」
「はい、お願いします。」
強く命じるエレシアに従う。だってなんか怖いし。すっかり貴族が染み付いているのを初めて実感したな。命令する立場の威厳だ。
光と共に頭の痛みが消え、エレシアに引き上げられる。ついでに体の節々が痛んでたのも治してくれたのか、かなり楽になったな。
「さて、どうする?火狂いは上にいるけど、落ちて此処に飛び込んだのは見られてると思うんだが。」
「脱出出来ないかな?」
「今逃げても無理だろうな。近すぎる。」
俺とエレシアには、セメリアス侯爵やナイアース伯爵の様な移動手段が無い。ここまで近いと追い付かれて終わりだろう。それよりも、あの大きさの炎の悪魔はどれだけの強さなのか。
「...なぁ、エレシア。王城のアロシアス様の隠し部屋にさ、この魔方陣の続きがあるんだ。」
「これは?......マナを散らす魔方陣?でも違うのも入ってるよね?」
「悪魔の心臓を壊した魔方陣だ。これ、使えるか?」
「全部見てないから分かんない、多分使るえけど...。どうするの?」
「悪魔の心臓を壊した魔方陣、だ。アラストールみたいな悪魔でも核があるはずだ。一か八か、それを撃ち抜く。」
俺の宣言にエレシアが目を見張る。
「あんなに燃えてるのにどうやって核にこの魔方陣を届けるの?」
「これのデカいのを作る。ライフルを。」
俺が右手にアーツを作ると納得したようにエレシアがうなずく。
「アーツの銃弾だね。でも、アル君の力で固めるんでしょ?アル君の魔力量で魔方陣使えるの?」
「エレシアの魔力なら固められる。だからエレシアに作って欲しいんだ。俺に力を貸してくれ。」
エレシアの目を見据えて頼む。これを撃ち込むには、それ相応に近寄る必要がある。魔炭の木炭で魔方陣を作っても、それを強化する程の魔力量を注ぎ込んだ弾丸を作る必要もある。
つまり魔力切れで火狂いの前に立ってくれと言っている訳だ。その文字通り命懸けの協力をしてくれと言う頼みにエレシアは気負う事なく微笑んだ。
「私の力なら喜んで貸してあげる。だから、絶対に死なないでよね。」
「俺の命もエレシアの命も、あんなのに奪わせ無いよ。」
強く頷いた俺にエレシアはよろしいと言い、後ろを向いた。
「それじゃ、準備を始めようか。」
「そうだな。俺達の地獄の炎でも消しにいこう。」
城の中、少年と少女は駆け出した。




