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滅炎の復讐者  作者: 古口 宗
最終章 新しい世界 掴み取った人生
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57話 延焼する戦禍

「お兄様、ご無事でしたか!?」

「ティア、はしたない。」


 走り出したスティアーラ王女にルセーネ王女がお叱りをとばす。双子の筈だけどあまり似ていると感じない御二人だ。


「スティアーラこそ無事で良かった。ケアニスも守ってくれたこと、感謝する。我ら王家は君には守られてばかりだな。」

「いえ、私一人の力ではありません。どうか頭を上げてください、アロシアス様!」

「ケアニス君、王子は皆にこの調子で礼を言っている。受け取らなければ頭を上げてくださらんよ。」


 少し諦めたような苦笑を浮かべるセメリアス侯爵を見て観念した僕は、素直に礼を受け取り話を進める。


「あの、それで火狂いはどうなっておりますか?」

「火の魔法使い、本名をクレヴォールというようだが奴は現在、四人で止めて貰っている。水のナイアース伯爵、獣人の従兄弟達、そして切り札だ。」

「あの、アロシアス様。切り札では無く普通に名前で良いのでは?この場にいるもの全て、もう彼に会っています。」

「残念だよね。アルに会った時の顔を見たかったものだが。特に気を失う程のショックを受けていたエレシア嬢の顔などをね。」

「やっぱりそういう思惑も会ったのですね。けれど生憎と朦朧としていたので驚いていません。それより火の魔法使いの話では?」


 可愛らしくアロシアス様を睨むエレシアに、残念そうに王子が話を戻す。流石にこの状況ではからかい続ける事もしないようで安心する。高々一子爵の分際で一国の王子を止めるのは、なかなか頭の痛む作業なんだ。


「アス、私達はどうします?このまま籠城ではつまらないでしょう?」

「つまらないというよりはそんな事は出来ませんね。戦力的に、あの四人に任せておけませんから。魔力を回復させる時間も無くては殺されてしまう。」


 はっきりと言い切る王子に場の空気が引き締まる。けれど全員出るわけには行かない筈だ。この中には到底本気の火狂い、クレヴォールに歯向かえない者も多い。


「私とエレシア、カプラーネ、スティアーラ様は厳しいかと思いますが。」


 魔力量や戦闘経験、使える魔術の種類からとても他の人に敵わない。スティアーラ様も一般の魔力量とは桁が違うが王家の中ではかなり少ない部類だろう。何より戦場にたった経験がない。


「ルセーネもだね。ケアニスとエレシア嬢に護衛を頼む事になるだろう。」

「私の娘も、ですか?」

「セメリアス侯爵、知のセメリアスの家系でソフィア様の弟子だ。それにクレヴォールとの戦闘経験もある。いざというときは頼みたいのだ。」

「お父様、私なら大丈夫ですよ。それよりもクレヴォールと剣を交えるお父様や他の方が心配です。」


 エレシアが外に向けた視線は、窓の向こうに見える戦場だ。既に兵は皆が散り散りに逃げ出し、五人しかいないだろう広場。既に炎の悪魔も消えた柱の群れの中に炎が虚しく乱舞し、空気を焦がしている。父上の「大蛟」だけはなんとか視認出来るが、他の三人は無事だろうか?


「うむ、いざというときを無くせばよいか。王子、私と王子以外は何方が?」

「姉上は、「具現結晶(クリスタライズ)・吸魔」の管理もあるためついてきて貰いたい。その三人と今戦っている四人で行くぞ。」

「分かりましたわ。アスに力を貸しましょう。」

「うむ、では急ぎ魔力回復薬の備蓄を用意せねばいけないでしょう。奴は他人から奪った魂が無くなれば自らの魔力を炎で焼かれ、魂さえ悪魔に奪われる代償があると思われます故。」

「ほう?では柱を増やしても問題ない様にせねばな。獣人の二人は下げるかね?ケアニス?」

「エピス殿に関してはアロシアス様の判断に任せます。パンテルは完全な獣人なので魔力は体外まで動きません。体力の持つ限りアロシアス様の指揮下にて戦闘続行で良いかと。」


 全員が話を終えて、別れて城の奥に移動する。魔力回復薬を取りに行くものと、待機する場所に行くものだ。不満そうなエレシアが暴走しても問題ない位置でもある。エレシアの魔力量は多いが、ロディーナ様の魔術の元で戦える程でも無いから絶対に阻止するが。獣人なら可能だろうけど。


「お嬢様、あの者なら大丈夫ですよ。」

「カプラーネ、あの者とは何方ですか?」

「それは王子の言われる切り」

「カプラーネ、私は別に特定の誰かを心配しているわけではございません!」

「お嬢様、そんなに騒がれては周囲の者にバレますよ。」

「ティア、察する。」


 ...僕が阻止しなくても三人が止めてくれそうだ。

 そう思った時だった。最悪の出来事が訪れたのは。


「おや、ちょうどいい。俺の炎の贄にならないか?片目で相手取るには魔力が少し足りなそうでな。」


 血の流れでる左目と紅く輝く右目が僕達を睨み付けた。




 炎の悪魔が城の外壁を破り、廊下に現れる。その袂にいるクレヴォールは右足を引きずり、左目から血を垂らしているがそんなものが和らげてくれる恐怖では無かった。むしろホラー感が増していっそう怖い。


「あっ、あれが、火の魔法使いクレヴォール...。」

「スティアーラ様、後ろへ!」


 ふらふらと歩みが止まらないスティアーラ王女をケアニス様が掴み引き寄せる。そのまま後ろのカーネに預けて、懐から魔方陣を取り出した。


「「白駐霧」!」


 全員に分かるように魔術名を叫びながら魔術を発動するケアニス様の持つ魔方陣から、濃い白い霧が漂う。叫び声から咄嗟に三人の手を掴んだ私達は良いが、一メートルも見えないほどの霧はケアニス様の姿も失わせた。

 炎の悪魔で目立つクレヴォールだけが位置を特定される。音を立てないよう気をつけて、クレヴォールから離れる様に来た道を引き返す。


「厄介な物を。」


 道を塞ぐ様にして慎重に此方に歩いてくるクレヴォールは、トラップを警戒しているのだろう。程なくして霧を抜けた私達は近くの部屋に入り、一息着いた。


「おど、ろいた。」

「まさか、此方に来るとは思いませんでしたね。旦那様が音を聞きつけてくれていればすぐに来るとは思いますが。」

「アス兄、も。」


 少し落ち着いてきた私達だけど、ケアニス様がまだいない。

 部屋の外を振り向く私にスティアーラ王女が話しかけてくる。


「あの、ケアニス様がおらっしゃいません。部屋に隠れて良いものですか?」

「いえ、合流出来ればそれがいいです。しかし、部屋の外にまで霧が伸びていませんでした。クレヴォールが外にいれば開けた瞬間、部屋の中が火の海でしょうね。」

「では、ケアニス様は?まだ外にいらっしゃいます。」

「...いえ、此処にいます。」


 窓から入って来たケアニス様がルセーネ王女に向く。


「「隠蔽」を扉にお願いできますか?」

「既に、している。」

「ありがとうございます。」


 ひとまずは、全員無事だった。その事に皆がホッと息を吐いた。

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