56話 終わりの始まり
後ろで「白銀大鷲」が王子達を連れて城まで飛び去る。あの水晶の柱が王女様の魔術で、吸いとる周囲の魔力で保たれていることは聞けた。それ以外に反乱がどうとか言ってたが、興味無いので聞いてない。重要なのは、奴の魔力切れを狙いやすくなってる点だけだ。
「おい、お前は大丈夫なのか?後ろの二人はなんかだるそうだぞ。」
「俺は自分から魔力が離れないから平気だよ。そういう力がある。使える様になったのは最近だけどな。」
「他人にかけらんねぇか?それ。」
「無理だな。契約者限定。」
前世で不知火静葵もといピルケアルと契約したエレシアは例外だけどな。エレシアが持っている「渚涼風の記憶」がその証拠だ。
けど俺と契約している訳ではないから、アラストールと違い俺はエレシアから離れても自由に動ける。俺の一部である前世での俺が俺と合わさる前に契約していて...。まぁ、俺は動けると言うことだ。
「んじゃ、伯爵様とエピスは戦えねぇんじゃねえか?」
「半獣人なんだから獣人程で無くても魔力が動きにくいよ。魔術を使いにくい変わりに、魔力への干渉もある程度平気だ。」
「私も心配ない。半端な魔力量なら平民上がりが伯爵になるほどの功績はあげられんよ。」
どうやら全員戦えるみたいだな。あの魔力量の火狂いとタイマンは避けたいからありがたい。
「もう、話はすんだだろう?そろそろ燃やしてやろう。」
「良く言うぜ。既に何発も火球送って来やがって。」
俺の【滅炎】を警戒したかアラストールの偶像を引っ込めた火狂いはさっきから牽制程度に火球を放ってくる。「白銀大鷲」を狙うそれはやむなく消しているが【滅炎】は体力使うんだぞ。やめろよそれ。
「うし!んじゃ再開だ!」
「援護しよう!」
正面から走り込むパンテルと、「八岐大蛇」から「大蛟」に出力を落とし援護に回るケアニスさんの父さんを残し、俺とエピスは散開する。無視できる勢力では無いパンテルに【炎の鎧】で迎撃しようとする火狂い。
視界から消えた俺とエピスは、警戒しにくいだろうな。特に対高温炎の特殊弾のある俺は視界に納めたい筈だ。俺の方に向きながら、後ろへ飛ぶ火狂いに、俺は弾丸の変わりに【滅炎】を使う。
消えた炎の鎧は、パンテルの攻撃を防げない。今にも鉄の籠手を叩きつけ様とするパンテルとの間に【壁となる炎】で実体をもつ炎の壁が現れる。「大蛟」に巻き取られ、すんでのところで炎の壁から離れたパンテルは火狂いからは見えない。同時に炎で出来た長い影の伸びる後方も。
「僕の弟に手を出すなよ、気違いが。」
「なっ!?後ろか!」
振り向く火狂いの左目に深々とナイフが刺さる。一切の躊躇の無い急所狙いは、被害者が火狂いでなければ同情を禁じ得ない。
「ぐあぁっ!眼を!」
「まだ腕が残ってるだろ?ド変態。」
パンテルの怪我した所を執拗に狙うエピスでも、このまま畳み掛ける程冷静を欠いてはいない様だ。蹴りを入れて距離を取りながらすっと影に溶け、すぐに遠い影の先端から出てきた。
その間に余裕で壁を回り込んだパンテルが左目を押さえる火狂いに拳を振るう。
「【殲滅する炎】重ねて、【処刑する炎】!」
「ちっ!またか!」
「避けろパンテル!【滅炎】!」
【殲滅する炎】によって範囲を広げられ、敵対者全てに降り注ぐ4つの火柱。俺の【滅炎】では一つしか消せない為、パンテルの回避を助けるだろうケアニスさんの父さんに落ちるそれを消しながら回避する。
「影潜り」で移動され、見当違いの方向に落ちる火柱。俺めがけて一拍遅れて曲がってきた火柱は、【滅炎】で消す。ぎりぎりで「大蛟」に回収されたパンテル。火柱に呑まれる火狂い。あれは地面に落ちきったから追尾してこないだろうし、消さなくていいな。
「あっぶね!助かったぜ、伯爵様!」
「いや、礼は構わんよ。君の特攻は良く貢献している。」
そう言いながら魔力回復薬を煽るケアニスさんの父さんは、少し顔色が悪い。けれど、この柱を今解いてもらう訳にもいかないな。火柱から悠々と歩き出てくる火狂いはまだ余裕に満ちているからだ。もっとも表情は余裕とも言えないが。
「幾度と無く、俺の邪魔をする貴様はなんなのだ!右足どころか遂には炎を写す為のこの眼まで!!」
「だからいってんだろ。お前を殺したい復讐者だよ。」
「パンテルの目は良いとでも言う気?それなら両目に瞑れて貰うけど。」
「絶対に許しはしないぞ!このような蛮行に及ぶ貴様らは等しく炎に捧げてやる!」
「やっぱり会話になんないな。」
「両目決定だね。」
俺とエピスの諦めはナイフと弾丸で示す。
その後を追うように突っ込むパンテルには水が纏われている。魔力の水なら逆効果だし、地下水路の水が残ってたんだろう。ケアニスさんの父さんは抜け目ないな。地下水路からなんていつ回収したんだ?
「【顕現・アラストール】!』
「あぶねぇ!?」
現れたアラストールの偶像が左腕を振るいパンテルを牽制する。右腕は此方に向けられている。
『【剣となる炎】。』
右腕に握られた炎の剣をそのまま此方に突き出す。飛び退いて回避するがあの剣を振り回されると近づけない。パンテルさえもすぐに射程圏外に引いた。...フォロー無しで無事に引けるんだな。もう左の視界が無いことにも慣れたのか。流石野性児。
しかし、困った。あの剣を消しても良いが、炎の悪魔が握っている。つまり炎の悪魔の一部かもしれない。前回の反省もあり、全ての予備魔力がアラストールに回されてはいないだろうから奴が戦闘不能になることは期待出来ない。なのにこっちはあれが悪魔の一部なら魔力切れで倒れる。つまり荷物が一つ出来上がってしまい戦闘続行。...死ぬよなぁ。
「【殲滅する炎】重ねて、【魂による終焉の炎】。」
「またこれか!当たるとヤバイぞ、なんか持ってかれる!」
「語彙力皆無か!【滅炎】!」
視界の全てを覆う黒と紅の炎を少し時間は掛かったが消しきる。どんだけヤバくても悪魔以外の炎なら疲労だけで消せるから問題は...くそっ!あった!
「あの気違い、城に逃げるぞ。どうする?」
「すぐに追うぞ、「大蛟」に乗りなさい。」




