54話 戦禍の始まり
今日から一週間、毎日二話ずつ連続投稿です!
完結まで走り抜けるぞぉ!
人が、街が、空が、炎に舐められて焦げる。東の大地に突如現れたそれはこの世の終わりを告げに降りてきた太陽の様だった。
「あれはクレヴォールか。誰か奴に伝えてくれ。私達は負けたとな。」
「いいのですか?奴がいればまだ勝機がございます。」
「私を討ち果たした芸術道楽の描く国とやらを鑑賞するのも良いだろうさ。崩れそうなら崩してやるがな。」
「分かりました。」
私兵に告げる叔父上に振り向く。
「叔父上、引いて下さるのですか?」
「私を押さえられる限りはおとなしくしてやるだけだ。思い上がるな、たわけが。」
この人なら確かにすぐに反乱に踏み切るだろうな。後でどうするか考えなければならないがそれよりも今は目の前の光景の事だ。
「あれは火の魔法使いですか?」
「そいつが誰かは知らんが王都を火の海に変えた魔法使いならばあいつだ。ここにいるということは平民上がりのナイアース領と頭ばかりのセメリアス領は潰れたな。」
「叔父上、その言い方はやめていただきたい。」
「ふん、事実だろう。」
叔父上の選民意識は変わらずの様だな。これがあるから父上に城を追い出されたというのに。
そうこうしているうちに伝令が届いたのか火の魔法使いがこちらに向かってくる。火の塊は小さくなり消えたが、身体の所々に炎のちらつく奴は畏怖の念を抱かせる。
「クレヴォール、捕らえられれば処刑は免れん。此度は引くこっ」
「まずは俺の炎へようこそ、公爵閣下。」
「叔父上!?」
「アレーシグ様!」
奴の右腕がうねる炎となり叔父上を貫く。心臓を燃やす炎が叔父上を奴の前に持っていく。
「ダメではないですか、公爵閣下。テオリューシア王国の繁栄のために領地を広げるのでしょう?その際に戦禍が巻き起こり、私の炎が最も美しく映えると言ったはずだ。なのに引け等と。」
「クレ、ヴォール、貴様!許さぐぅっ。」
「あぁ、炎よ。貴方は美しい。」
叔父上の首を火の魔法使いが炎の中から抜いた右腕で締め付ける。そのまま、叔父上は燃え上がり...灰すら残らずに消えた。
「あぁ、良い!実に良い!復讐心の強い良い魂だ!アラストールの贄として完璧だ!」
「ア、アレーシグ様あぁぁ!」
「貴様クレヴォール!よくも裏切ったな!」
叔父上の隣にいた腹心であろう二人が火の魔法使いに斬りかかり、
「【顕現・アラストール】。』
再び現れた炎の悪魔に鷲掴みにされる。
「ぐあぁっ!焼ける!」
「クレヴォールうぅぅ!」
『煩いのは嫌いなんだ。黙りたまえ。【処刑する炎】。』
あっという間に三人を焼失させた火の魔法使い、いやクレヴォールが朝日を背に受け、眼を紅く瞬かせて僕らを向き直った。
『さぁ、宴の始まりだ。』
炎の悪魔が腕を振るう度に人が塵のように舞い、消える。
「引け!一度陣形を立て直せ!」
「はっ!」
「了解!」
騎士団と傭兵団が隊列を整えながら素早く下がる。
持ち前の体力と技術で凌いではいるが、統率の取れてない公爵兵と奴隷兵は全滅まで時間の問題だろう。兵が死んでいく度に少しずつ炎の悪魔が大きくなるように感じるのは気のせいでは無いだろう。
『アラストール、もっとだ!もっとその威光を響き渡らせてくれ!』
クレヴォールの声が炎の悪魔の足元から聞こえる。今は魔法で出来ている悪魔像だが、このまま成長すれば悪魔本体が具現化するかもしれない。
かつて、大陸中を心胆寒からしめた悪魔。すでに滅んだ、今や残滓の残るだけの不滅の恐怖。その再臨だけは防がねば。
「契約者を狙え!契約者さえいなければ悪魔の残滓は魔力を持たない!」
「はっ!」
「あの中に突っ込めってか!?」
例え炎の悪魔を掻い潜ったとしても、クレヴォール自身も強化された魔法を使う。右足を引きずっているが咄嗟の回避は出来そうではある。...僕には荷が重いか。
「四方から攻めろ!一部隊は奴にたどり着けるはずだ!」
「無茶苦茶です、隊長!奴の炎が!」
「くそ、俺は逃げるぞ。やってられっか、こんなもん!」
「どこにだよ?あいつはどこにいたら追ってこねぇんだよ!」
生き残った兵にも混乱が見られる。これ以上の死者は炎の悪魔を育てないためにも防ぎたいところだ。
「...総員撤退。一人でも多く生き残れ。」
「アロシアス様?」
「此方だ、クレヴォールとやら。このアロシアス・テオリューシアが相手をしよう!」
魔眼を最大まで発動させ、魔方陣を何枚も取り出す。すでに魔力を流し込んでいるそれは発動を待つだけの物だ。
魔剣が光を放ちながら僕を炎の悪魔の上に移動させる。
「「水刃」、「豪雨」、「瞬間移動」!」
魔剣に水の刃を纏わせて剣身を伸ばし、雨雲を作り出す事で少しでも奴の炎を弱める。普通の炎ならば消えてくれる。
眼前にある炎の悪魔、その下にいるクレヴォールを大上段から振り下ろす「瞬間移動」の付与した「水刃」が切り裂く。...はずだった。
『俺のアラストールに魔術で歯向かうなど出来んよ。』
燃やされた「水刃」が形を失い崩れる。「瞬間移動」で広場の前に戻った僕を頭痛が襲い、膝をつく。
けれどこれで、気は逸らせたろう?
「姉上!」
「「具現結晶・吸魔」!」
クレヴォールの周りに水晶の柱が乱立し、魔力を奪い始めた。




