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滅炎の復讐者  作者: 古口 宗
第六章 反乱終結編
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53話 鎮圧と降臨

 騎士団と傭兵団、奴隷兵と公爵兵の皆が僕と叔父上を取り囲む。それぞれに牽制しあい、互いに一騎討ちへ干渉するのを許さない。それでいい。


「アロシアス、お前は愚兄とは違いもっと利口だと思っていたんだがな。」

「父上は国をよくまとめた。今の平和なテオリューシア王国は父上が争いを沈めて回った結果だ。」

「いや、平和ではない。堕落だ。」


 これ以上交わす言葉はないとばかりに叔父上、いやアレーシグが剣を構える。深く腰を落とし、片手で腰だめに構えられた剣は鋭く光る。良く磨かれたかなりの業物だろう。

 僕は魔眼で注意深くアレーシグを観察する。地にしっかりと足を置いているあの体勢では飛び出す姿勢ではない。迎撃狙いか。ならば先手必勝、僕の「瞬間移動」を慣れられる前に倒す!


「どうした?来ないのか、アロシアス。」

「いくぞ!」


 発動した魔術が僕をその場から弾き出し、アレーシグの後ろで速度を0に変える。その間、構えがぶれることのない僕はすぐに反転しアレーシグの背を袈裟懸けに切りつける。


「後ろか!」

「くっ!」


 剣を肩越しに後ろへと回す刺突が僕に迫る。魔眼で予備動作を読んだ僕が咄嗟に魔剣の腹で刺突を防ぐ。相変わらずアレーシグの剣は重く正確だ。鍛練を怠った事の無い普段の姿が容易に目に浮かぶ。

 そのまま回転切りに移行したアレーシグから後ろへと跳んで距離を取る。刃の長さも幅も大きな剣の風を裂く音は獣の唸り声に聞こえる。


「魔術か。移動形式の術式だな?」

「ご想像にお任せしよう。」


 対処されるのは予想していたが反撃までされるとは。かなり厄介だ。


「ふん、剣だな。昔から小細工ばかり上達しおって。叩き折ってやろう!」


 言うが速いか一瞬で踏み込んで来たアレーシグの豪剣が、魔剣に振り下ろされる。咄嗟に「状態結晶化」の魔術で剣の速度と形を固める。その場に固定された魔剣はアレーシグの豪剣を見事に弾いた。


「終わりだ、アレーシグ。」


「無変速加速」の魔術が、魔剣の速度を加速させる。逆袈裟の形に振り上げた剣は「状態結晶化」により変化を知らず、豪剣も鎧もまるでそんなものは無いように切り裂き、アレーシグを切り飛ばす。...浅いか!?


「舐めるな!」


 腰に携えていた騎士剣を抜き放ち様に振るうアレーシグを止める術が僕には無い。そのままに振り抜かれた騎士剣が高く掲げられる。


「なん...だと...!」

「貴方の負けです、叔父上。」


 切り裂かれた服からのぞく僕の素肌には傷一つない。一方の叔父上の首には勢いのままに一回転した僕の魔剣が押し当てられている。

 僕自身に「状態結晶化」を使い、一時的に動きを固定する代わりに傷つかない身体を得ていただけの話だが、移動する魔術だと思っていた叔父上には青天の霹靂だっただろう。


「どうなっている?何故私にアロシアスが勝つ等と言うことが起こった?軟弱に堕落した王族が誇り高きテオリューシアの私に!」

「叔父上、兵を引いて下さい。」

「何故だ!お前たちはこの国と共に貧弱な物になったはずだ!絵描き等にうつつを抜かす貴様と、国のため国と共にかつての栄光を取り戻さんとする私が何故!」

「戦禍に怯える道ではたどり着く場所はテオリューシア王国のあり方ではないという私の思いが、貴方と相容れない物だからぶつかった。私には背負うものがはっきりと見えていて貴方は背負うものを振り返らずに進んだ。」

「それがなんだ!」

「振り返り、知っていたからこそ貴方より私の覚悟が早かったと言うことですよ、叔父上。兵を引いて下さい。」

「くっ!今の現状に甘んじている王家が覚悟だと?ならばテオリューシア王国をより強大にしようとは思わんのか。」


 これ以上は話にならないと踵を返す。叔父上の事だ、少しすれば混乱も収まり兵を引くはずだ。その後の事は分からないが、今は周囲の兵に任せても良いだろう。






「ロディーナ姉様、お兄様はどうなされました?」

「今、城に歩いて向かっていますわよ。アスの勝ちでしょうね。」


 振り返りながら伝えるとルーネが心配そうに顔を覗き混んできました。


「...アス兄、勝ったの?怪我してない?」

「ふふっ、そんなに心配しなくても...あら?あれは?」

「どうされました、ロディーナ姉様?」


 遠見の鏡で覗いていたときは気づきませんでしたが、東の空が明るいのです。私の視線を追ってティアが窓を見ます。


「夜明けでしょうか?まだ少し早いような...?」

「...っ!二人とも伏せて!」


 二人を床に押さえつけるのと、熱風が窓を割りガラスを散らすのがほとんど同時に起こりました。すぐに起き上がり窓を見ます。


「あれは!?」

「ロディーナ姉様、何が?えっ...!」

「...ティア、あまり窓に、近寄らない方が、良い。」


 窓から見えたのは東の地に堕ちた太陽のような禍々しい炎の塊。成人の10倍はある背丈。人のような、獣のようなそれは翼の様に広げた炎で外側に陣取っていた傭兵団を、奴隷兵を、次々と飲み込んでいきました。


「アス、無事でしょうね。」

「結晶!?ロディーナ姉様!何処へ!」


 二人のいる部屋を結晶で閉じ込め、私は結晶に乗ります。あの中なら二人は安全でしょう。私は窓から飛び出すと一直線に正面広場へと飛びました。

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