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滅炎の復讐者  作者: 古口 宗
第六章 反乱終結編
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51話 出火

「これは...酷いな。」

「うげぇ、鼻がもげる。」


 パンテル君の呻くのも納得な異臭が辺りを包んでいる。

 セメリアス領の一角、難民キャンプの一つが全滅していた。文字通りの全滅だ。一人残らず焼かれた死体はそのまま燃え続けていて、弔ってあげることさえ出来ない。


「ここまで綺麗に証人がいなくなってりゃあ気づかねぇわな。」


 見上げるパンテルの目線は夜闇に隠された煙を追っていた。


「実際に来てみなければ気付かない、か。高い建物は軒並み燃えてしまったしね。」

「んで、肝心の奴はどこ行った?」

「今から捜索しよう。燃え跡から見ても近くにはいないだろうけど...。」


 振り返ってパンテル達に指示を出そうとすると、突如南門が真っ赤に染まる。


「おいおい、見張りの意味ねぇじゃねぇか!」

「ここまで派手にやらかすとはね!」


 すぐに駆け出した僕らに南からの喧騒が届いてくる。パンテルが加速し、見えてきた火狂いに拳を叩きつける。その拳を受け流した火狂いが流暢に喋る。


「おいおい、危ないだろう?少しは気を付けたまえ。」

「あぁ?なんか変わったか?気持ちわりぃな!おい!」

「パンテル、避けて!」


 僕の後ろの井戸から大量の水を使い、「大蛟」を使う。大きな水の蛇は魔力の消費量が大きいが、その場にある水を使うことで僕にも使えるほど大幅に節約できる。

 しかも、魔力で現れた水では無いため火狂いの火の燃やせる物でもない。この量の水を蒸発させる熱量を発生させたなら、火狂いの魔力消費量も大きくなるから相性もいい。


「飲み込め、大蛟!」

「ふん、厄介な。【炎の鎧(フロガー・パノプリア)】。」


 窒息させてやろうと大口を開け突進させる「大蛟」を炎を纏った火狂いが避ける。そのまま巻き付きにかかる「大蛟」を蹴って脱出した火狂いが詠唱する。


「【処刑する炎(ディオミス・フロガー)】。君が飲まれたまえ。」

「お前もなぁ!」


 僕の回避の隙を埋めるように、パンテルが「大蛟」に火狂いを蹴りこむ。右膝を痛めた火狂いに堪える術は無く、体が宙に浮く。

 即座に体勢を立て直しつつ、「大蛟」の口を開く。飲み込んだ火狂いを中心に「大蛟」を潰して球体に変える。


「「水球牢獄」だよ。逃げられ無いだろ、聞こえて無いだろうけど。」


 内部では、中心に向けて水流があり、水性生物でもなかなか逃げられない。僕の得意とする魔術のひとつだが、魔法使いにいつまでも通用はしないだろう。


「やったな、大将。最近作ったのか?」

「良い魔方陣の材料をセメリアス侯爵から頂いたからね。やっと持ち運べる物に出来たんだ。けど、すぐに蒸発させられると思う。」

「本当だな、湯気吹いてやがる。」


 脱出が無理だと悟った火狂いの【炎の鎧(フロガー・パノプリア)】が大きく勢いを増した。水が次々と蒸発し、霧が立ち込める中を着地音が響いた。


「随分と乱暴な事だな。まさか陸上で燃えているなか溺れるとは思わかなかったよ。」

「...ひとつも呼吸が乱れてねぇ。こいつ、息してんのか?」

「分からない。けど、生きているのは確かだろう。」


 パンテルの疑問に嫌な予感を抱いたがすぐに否定することで打ち消す。右足を引きずる独特な歩行音が霧の中を向かってくる。...不味いな、足止め出来るほどの魔力が残ってない。


「もう終わりかね?ならば、私の炎の中で眠ると良い。」

「させると思うかね?」


 僕よりも遥かに大きな「大蛟」が火狂いに襲い掛かる。「大蛟」の通った跡には父上が火狂いを睨み付けていた。


「我が息子の仇と、新顔の右腕の分を貰いに来たぞ。火狂い!」

「はぁ、面倒な。ならば散るといい。」


 火狂いの放つ火球が父上に迫る。とっさに立ち上がった僕と駆け出したパンテルよりも速く火狂いを火球ごと竜巻が飲み込んだ。燃える竜巻は夜空を煌々と照らし、消える。


「君達は少し休みなさい。早々に追い払うとしよう。」

「セメリアス侯爵...。分かりました、後を頼みます。」

「ふふっ、受け持とう。」


 パンテルと共に後方へと下がる。既に兵も引き上げている天幕に向けて。


「さてと、二人で並ぶのも久しいなトライトン。」

「気を抜きすぎるなよ、メテウス。向こうは人間かどうかも疑わしいぞ。」

「まだ、魔人とやらでは無いのだがね。まぁ、いい。【処刑する炎(ディオミス・フロガー)】。」


 堕ちる火柱と「大蛟」を暴風雨が包みはじめた頃、僕らは駆け出した。結構、一心不乱に。






「あっ、来たね。ある程度準備しといたよ。後は任せるね。」

「すぐにサボらないの。働くわよ。」

「なんで俺まで...。ついさっきまで働きまくってたじゃん。」

「カーネ、アル君は体力あるうちに乗馬の訓練しないと。いくら良い馬でも、はじめて乗った人じゃ落ちちゃうよ。」


 僕らが中央の天幕についた頃にはエピス君とアル君がカーネに引きずられているところだった。最初から難しい事は僕に押し付けようとしているパンテルは、そうそうにエピス君に続く。


「そいつはすぐにサボろうとするから、しっかりと見張っておいてくれよ。」

「パンテル、お前どっちの味方だよ。」

「分かってるわ。面倒くさがり屋さんの扱いは慣れてるもの。」

「あ、僕は無視される流れ?収集つかないな、これ。」


 荷物の準備に戻る三人を見送り僕は兵の陣形や王都への進軍ルートを探す。


「エレシア、手伝ってくれないかな?」

「はい、いいですよ。でも、少しお待ち下さい。...アル君、場所分かる?」

「いや、行ってきていいよ。俺はそっちの兵士さんに聞いてくるから。ついでにコツとか聞きたいからさ。」

「分かった。ケガとか気を付けてね。...軍の指揮をとるのですか?」


 アル君と話を着けてエレシアが地図を覗き込む。


「いや、準備だけだよ。指揮は父上とセメリアス侯爵がとるはずだ。陣形はこれで行こうと思う。一番速く行軍ができて、戦闘にも入れるからね。」

「では、問題は道ですね。この人数なら...」


 準備が進められていく中で皆が感じる。全ての決戦の地は王都だ。

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