44話 復讐と決意
「カーネは無事かな。」
廊下を走りながら水を撒いて火事の進行を少しでも弱める。どこか脱出出来るところはないかな。このまま屋内にいると不味いよね。
「【殲滅の火】重ねて、【剣となる炎】。」
「わっ!また来たぁ!」
胸元で揺れる割れたペンダントはもう光を放たない。火の魔法使いの何故か追ってくる火の剣をギリギリで避けてやり過ごす。余裕をもって避けると曲がって来るからダメなんだ。
「あまり、手間を、とらせないで、くれないか?君の後に、外の、兵隊達、王都の、兵隊達、そして、テオリューシア王国の、隣国も、私の、炎の為に、焼かねば、いけないのだから。」
王都と、隣国まで!?もしかしたらアレーシグ公爵の反乱の理由ってアロシアス王子が温厚な政策をする人だから、とか?
って今はそんなのどうでもいいよ!魔力増やすためでも炎のためでもいいから止めてよ!そんなの私知らないってば!
「っつあ!うぅ。」
「やっと、捕まえたよ。投げナイフも、使えるものだね。」
足が痛いのは投げナイフだったみたい。立ち上がろうとして背中を踏みつけられて床に倒れる。
「あぁっ!くうぅ。」
「おや?ナイフが、動いたのか。痛かったね、わざとじゃあ、ないんだ。ごめんよ。」
「うぐっ!?」
ナイフを乱暴に引き抜かれて、そのあと治療の魔法をかけられる。意味が分からない。なんなの?なんでこうなってるの?ダメだ、全く分からない。
「うーん、やはり、治療は、苦手だな。ではもういいかな。」
「きゃっ!」
今度はいきなり蹴り転がされて、壁に打ち付けられる。全身がかなり痛いのはさっき炎の剣が刺さった壁が熱を持っていたせいでもあるのだろう。
まだ身体以上に上手く動いてくれない魔力は遅く、アーツを扇に作るのも刻一刻と状況の変わる中では難しかった。やっと作れたアーツは扇ごと火の玉に呑まれて消えてしまう。当然私の右手も。悲鳴も出なくなった喉がそれでも何か絞りだそうと痙攣する。
「あぁっ!消すことはできないのにっ!しょうがない。今回は燃やすだけで満足するとしよう。」
燃やすだけってなに?他になにする気だったのこいつ!?
髪を引っ張り床に押し倒された私が馬乗りになって首を絞められる。そして火の魔法使いが燃え上がった。その火は私の肌も焼いていく。
「あぁ、炎よ。貴方は美しい。」
溜め息のような声が聞こえ、意識がうすまり...銃声が響いた。
「あぁ、炎よ。貴方は美しい。」
ふざけた狂信者の戯れ言を聞いて、見つけた。燃える屋敷の中であいつを。その下にいるあの娘を。
遅かったとまだ間に合うという感情がせめぎあい、無我夢中で撃った。撃鉄に叩かれ、作動した魔方陣が小さな銃身に高圧の空気を作り出す。弾丸を押し出しながらライフリングを駆け抜ける風が、弾丸に回転を与えながら発砲音を響かせ銃身から飛び出す。叩き出された弾丸が真っ直ぐに火の魔法使いの右腕を貫いた。
「ぐぅっ!?何が?」
「【滅炎】!」
エレシアと火の魔法使いの炎が消え去り、二発目の弾丸が立ち上がった火の魔法使いの右膝を貫く。よろめいた火の魔法使いは壁に開いてる大穴から蹴り落とす。
「エレシア!大丈夫か!?」
「アル...君...?」
「あぁ、そうだ。今度は間に合った!」
「あれ...?私、死んじゃったの...?」
「死なすかよ!生きてるから死ぬなよ!」
そっとエレシアを横抱きに抱えあげ移動する。とにかく治療出来そうな所にいかねぇと!
「エレシア、治療室とかどこか分かるか?」
「一階の、角に、あるよ。」
「すぐ行くから生きてろよ!」
数瞬とはいえ全身に火が着いたんだ。すぐにどうにかしないと不味い。廊下中の火を消しながら目的な部屋にたどり着く。三階からの移動は少し時間がかかったな。
「とにかく、魔道具でもあれば。」
常に発動していない使い捨ての物でも、魔力を流さずに魔術が使えればいいのだからセメリアス家ともなれば一つくらい無いかと探す。俺の魔力は少な過ぎて魔術や魔法は使えない。使えても気絶する。「アーツ」や【滅炎】は魔力を消費するような使い方ではないから使えるだけだ。
「あった、簡単な治療用だけどこの魔方陣は火傷にも効く奴だったはずだ。」
エレシアの持っていた魔術教本で見ながら探したし、間違いない。だんだん呼吸も断続的になり始めたエレシアにすぐに使用する。
「良かった。ちゃんと効いてるな。」
呼吸の戻り始めたエレシアに一息着いた後、壊れた魔道具を放置して部屋を出る。火を消しながら動いているため、火の魔法使いが気づくのも時間の問題だ。まぁ、アラストールは治療は苦手だっていうし暫くは落下したダメージに悶えとけばいいと思う。
「うん、ここは?熱くない?」
「よっ、おはようエレシア。出口知らない?走り回るのに疲れて来たんだ。」
「アル君!?なんで生きてるの!?」
「...今、無意識に俺の心にダメージが。それ、失敗した悪役みたいな台詞だよな。」
「本当にアル君だ...。」
「さっきは朦朧としてて覚えてなかったな?てか、今どこで判断したん?」
「解釈が独特だなぁって。」
「...とりあえず、出口知らない?」
「あぁ、こっちこっち。...というかもう下ろしてもいいよ?」
「歩けるのか?」
「うん、大丈夫だから下ろして?」
少しよろけながら立つエレシアに少し心配になるが、この場合下手に手を貸すよりは安全だ。出口は一階。火の魔法使いは地上に蹴落としたのだから、出会す可能性が高い。
「あっ、そうだ。アル君。」
「なんだ?」
「ありがとう、助けに来てくれて。」
そう笑うエレシアは全て知っているようで、ついこちらも笑ってしまう。例えそういう意味では無くても。
「すぐに行くって言ったろう?」




