41話 ケアニスの行動
「そうだね、どういったらいいかな。隠しておくのはダメかい?」
「場所が場所だからな。嬢ちゃんと違って俺はあんたを信用しきれてない。」
「弱ったな。」
そう言ってケアニス様は誤魔化すでも無く唸る。そんなに言いにくいのなら無理に聞かなくてもとは思うけど、今回の私達の動きと少し関わりすぎているのも気にはなる。ナイアース伯爵と一緒に領地から来たんじゃないみたいだし、私の知らないことを知ってるのは確かみたいだ。
「シアも聞きたいかい?」
「どちらかというと私はケアニス様が何処から来たのか知りたいですね。ナイアース領地からではないですよね?」
「それもパンテル君の質問の続きになるかな。」
なら聞きたい。無理にとは言わないけど。
「あんたが助けてくれんのも、嬢ちゃんを大切に思ってんのもわかんだがこれを隠す意図がわかんねぇな。味方なら話してもいい話だろ?」
「シアに怒られそうなんだけどね。隠して行動しろって言うのは本人の希望でもあるし。」
「...本人?」
「あんた、火の魔法使いと結託した訳じゃねぇよな?」
パンテルがとんでもないことを言い出した。
ケアニス様は火の魔法使いに5年前に王都で殺されかけている。それに魔眼持ちの王子に友人とまでいわせたのだから、反乱軍に味方するはずがない。
「パンテル、流石にそれは」
「それなら一昨日、渓谷で火の魔法使いがあっさり退いたのも、昨日、ここに来るまで追撃されずにいたのも分かる。」
「そんな事があったの?」
「彼を乗せてここまで馬を走らせるのは大変だったけどね。まぁ、火狂いと結託することはないから安心していいよ。」
「火狂い?」
「あぁ、火の魔法使いの事。火に対してかなり狂った陶酔ぶりだからって。」
誰かに聞いたように説明するケアニス様だけど、火狂いって言い方は心当たりがある。
「嬢ちゃん、色々気になんだろうが先に俺の質問をしてもいいよな?嬢ちゃんの知りたい事は粗方聞けたろ?」
「...分かった。でも、後で聞かせてくださいケアニス様。」
「怖いなぁ。なんか損な役割だ。」
「んで?何してたのか教えてくれよ。」
「分かった。観念しよう。時系列で説明するよ。」
火狂いがソフィア様の邸宅を襲撃した時から三日程の事だったと思う。魔炭の木を知っているかい?そう、その自動魔方陣に使うもので合ってるよ。アレーシグ公爵にあまり知られたくはないから足の付かない使えそうな物としてはうってつけだったから、地下室から取ってきたんだよ。知ってる理由かい?知ってる人に聞いたからかな。まだ使えるものだったし、今もいくつか持っているよ。ほら、これ。
それから数日後、シアが王都に来て二日後の事だと思うんだけど合ってるかな?うん、間違いないんだね。アロシアス様に伝言を任せて王都周辺で火の魔法使いの痕跡を探ってたんだ。その頃はまだ何処にいるか分からない状況だったからね。その時にソフィア様の邸宅も立ち寄って調べたんだ。アロシアス様が調べてから、状況も変わったかと思ってね。まぁ、特に真新しい物は見当たらなかったけど。
その翌日にシアがアロシアス様の部屋に忍び込むなんて事をしでかした時、隠し部屋にいたのはその中に彼を匿って貰えると言うから移動してたんだよ。そのまま出るタイミングを失ってそこにいたんだ。パンテル君が来た頃にはいなかったけどね。えっ?彼かい?それはアロシアス様から隠しておくように言われてるんだ。アレーシグ公爵の手勢には記憶を読む魔眼持ちの者もいるらしい。切り札だとね。
「さて、知りたい事は終わりかな?信用してもらえただろうか。」
ケアニス様がそう言って話を結ぶとパンテルは少し顔をしかめて返す。
「切り札ってのを隠すには少し長すぎねぇか?もう伝わっても問題ねぇだろ。この戦争は多分すぐに方がつく。」
「流石に傭兵は用心深いね。でも、僕が敵では無いことは確かだよ。アロシアス様に隠しておくように言われたけど、それはアレーシグ公爵に万が一にも知られたくはないからで別に君達から隠してる訳じゃないし。」
「ですが、アロシアス王子なら私達の驚いた顔をみたいとか言い出しそうなんですが。私達は王都から離れていますから、情報もかなりとりにくいでしょう?」
「まぁ、確かにからかわれてる可能性もあるけどね。でも、その場合はアロシアス様は反応を見られない訳だ。多分、情報が短い間に変化しすぎてるからごちゃごちゃしてるだけなんだと思うけどね。」
ケアニス様が肩をすくめながらアロシアス様の弁明をする。つまり、切り札は私達も驚くような何かなんだろう。
「まぁ、いいか。実際に炭まで見せられたら疑うにもきりがなくなるからな。もともと考えるのは得意じゃねえんだ。」
「パンテル、勘で生きてるもんね。」
「馬鹿にしてねぇか?嬢ちゃん?」
「そういえば、ケアニス様はアル君と話したことがあったのですか?」
私が話を振るとケアニス様が目を見張ってこちらを見た。
「なんでいきなり?」
「いえ、先ほど火狂いと言ってましたから。それ、アル君から聞いたのでは?」
「あ、あぁ。そういうことか。まぁ、彼には助けて貰ったこともあるからね。ソフィア様の側にいるし、話をすることもあったよ。」
「あぁ、5年前の時ですか?」
「そうだね、その時だ。」
案外世界は狭いと思いつつ、私は紅茶を啜った。




