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滅炎の復讐者  作者: 古口 宗
第五章 セメリアス領地襲撃編
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40話 水の麒麟児、合流

「エレシア、大丈夫かい?倒れたと聞いたが...。」

「ケアニス様?何故此所に?」


 翌日、扉を開けたのはお父様やお母様ではなく、心配そうな顔のケアニス様だった。昨晩はお父様と情報を共有した後、火の魔法使いとの戦闘を思い出したため寝不足で、少し顔色の悪い私を見てケアニス様は魔方陣を取り出した。


「エレシア、少し顔色が優れない様だけど。」

「いえ、これはただ昨晩良く眠れなかっただけですわ。しばらく火は見たくありませんわね。」


 なんだか昨日から私の魔力は青色を増したような気もする。魔力はその人の遺伝子、記憶や考え方によって千差万別の物だけど、ほんの少しとはいえ分かる程の変化があるのはかなり珍しい。というか過去に前例が有ったかな?

 とにかく、これで私はより水に傾いた適正を得たことだろう。つまり水を欲しいと感じた、もしくは水の魔力と相性の悪い火を避けたということ。今回の私の場合、火が猛烈にトラウマになったからかな。もしかしたら前世が焼死じゃなかったら私の魔力はどこにも偏らない、得意も苦手もない魔力だったのかも。


「...まぁ、セメリアス家の魔術師は最近は風と水の適性が高いのだろう?ここにいる限り、目にすることは少ないさ。」

「私がここに留まり続けると?明日にはきっと動けますよ。」

「王都なら多分大丈夫だよ。だから動かなくてもいいはずだけど?」

「ですが私の魔力がこうなりましたし、ここの戦場には立てます。足手まといにはならないつもりです。」


 分かりやすいようにアーツを扇に展開する。あれから練習する時間はたっぷりあったし、火の魔法使いとの戦いも経験にはなった。4つの魔方陣を数秒たたず展開した私の魔力は薄く無色透明に近い水色から、しっかりと色づいた水色になっていた。


「...魔力が変わるくらい心境に変化があったなら尚更平静にしていなよ。焦るものでも無いだろう?」

「ですが私も何か役に立てればと。」

「その気持ちはよく分かるけれど、そのために君に危険な所にいてほしく無いという、セメリアス侯爵や僕の思いも無下にしないでくれないか?」

「それは...そうでしょうが。」


 皆のためとはいっても、わがままになっているのは分かる。でも、私も心配なんだ。それも分かってほしいと思う。

 大好きな人が私の側で死んでしまうかもしれないのに、なにもせずに待っているのは渚涼風で終わりにしたい。静葵君もどうなったのか分からないし...。

 っと、今はそうじゃない。今の私はエレシアなんだ。今の問題を考えないと。火にのまれかけたからか、一昨日から前世事をよく思い出してしまう。


「シア、君は随分と親しくなった人が離れていくのを恐れるけど、自分がいなくなってしまったら一人残らず離れてしまうじゃないか。それじゃ、本末転倒だよ?」

「それは分かっています。けど、後悔したくないんです。出来ることがあったのにしなかったら、それでもしも大好きな人がいなくなってしまったら絶対自分を許せなくなりますから。」

「...はあ、こうなったらシアは聞かないか。セメリアス侯爵と父上には僕から言っておくよ。防衛戦に参加するなら二人のいうことは聞くんだよ?」

「ケアニス様、ありがとうございます。」


 火の魔法使いも、炎も怖い。けどそれ以上に怖いものがあるから絶対に引いてなんかあげない。ソフィアおばあちゃんやアル君を奪った火の魔法使いは私が止めてみせる。






「随分と広いな。」


 嬢ちゃんの実家を歩きまわり俺は呟いた。辿る匂いは今から聞きたい事のあるやつだ。命の恩人だが、行動に少し怪しいところがある奴。ケアニス・ナイアースとか名乗った奴だ。


「と、この部屋か。」

「あの、どちら様ですか。」


 扉の横に立っているのは...女性だな。服装から使用人って呼ばれてるのだろう。けど不味いなぁ。なんか部屋に寝かされてたから抜け出して来たんだよな。


「えっとパンテル様でよろしいのでしょうか。王子に見込まれ、お嬢様をお助けした護衛の方で。」

「あっ?そんな風に伝わってんのか。一様言っとくと、傭兵だぞ?騎士なんてかたっくるしいもんじゃねえ。」

「あの、どういった御用件でしょうか。」

「ちとこの部屋にいんのに、用があんだよ。」

「あっ!お待ち下さっ」


 扉を少し強引に開けた俺は少し固まって、扉をそっと閉じた。


「わりぃ、知らなかったんだ。嬢ちゃんに用ってんじゃねえから帰るわ。」

「えと、分かりました。」


 俺と一緒に部屋を覗きこんだ使用人は赤い顔を下に向け隠す。嬢ちゃんと同じくらいの年に見えるし、平静を装う余裕はねえかな。


「はあ、こういう時は使用人に扉を開けていいか確認して貰うのだよ、パンテル殿」

「あっと、ケアニス様であられますか?お話をしたくごぜえます?」

「馴れないなら無理に敬語を使う意味は」

「それよりもあのタイミングで閉めないでください!気まずいでしょう!?」

「とにかく入ろうか。君、この事は内緒にね?」

「あっ、はい。分かりました。」


 なんかポワポワしてる使用人を残して部屋に入る。いいのか?あれほっといて。


「んで?中断していいのか?」

「少し不安定になっていたのを落ち着かせようと思っただけだよ?もうシアも落ち着いたろう?」

「抱き締められて落ち着きかけたら扉が開くから少し慌てました。というより、パンテルのケガは大丈夫ですの?全身包帯で凄いことに。」

「動くし問題ねぇだろ。少し感覚が鈍いくれぇだよ。それよりもお嬢様ん時の口調なんだな。」

「パンテル君もそう言うんだ。戻してもいいよ?」

「あーもう!何の用だったの!パンテル!」

「俺に当たんなよ。あー、あんたにこんなことを聞くのはあれだが。ケアニスさんよぉ、焼け跡と地下室と隠し部屋で何してたんだ?」


 部屋に重い空気が立ち込めた。なんかまともに人に疑問をぶつけっとだいたいこうなるな。俺の溜息が知らず、床にこぼれた。

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