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滅炎の復讐者  作者: 古口 宗
第五章 セメリアス領地襲撃編
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39話 炎と水と脱出者

「少し、心もと、無いな。」


 私はセメリアス領地とやらに歩く間、すっかり少なくなった魔力を感じて何故こうなったのか思いを巡らした。




「君の魂も、貰おうか。」

「っ!」


 私の前でまた一人、美しい炎に呑まれていく。炎を食い入るように見つめる様はまさに見惚れる姿といっても違いない。やはり皆最後にはこうして認めてくれるのだ。ならば何故私の芸術を理解しないのか、それこそ理解に苦しむ。

 私の火の玉が放たれた時、突如として渓谷が水に呑まれる。


「なに!?誰が!」


 今まさに本懐を遂げて美しい炎に呑まれていく彼の、その刹那の彩りを見届ける俺の邪魔をするような不届き者を探して辺りを見回す。すると崖の上から懐かしい顔が俺の事を見下ろしていた。


「君は、五年前の、王都に、いた、少年か?」

「覚えていたか。火の魔法使い。」


 その青年は先程の水を崖下から自らの元に伸ばし、その上を滑り降りてくる。その間に取り出した魔方陣が光を放ち、彼の降り立った獣人の横で効果を発動する。獣人のケガがみるみると治っていった。


「大丈夫かい?きついところ悪いがエレシアは無事かな?」

「あ、あんたは?」


 問われた彼が水を纏いつつ答えを返す。


「私はケアニス。ケアニス・ナイアースだ。」

「...嬢ちゃんなら死んじゃいねぇよ。」

「ありがとう。それだけ聞けたら十分だ。後は任せてくれ。」


 私に彼が振り替えるのと、獣人が目を閉じて眠るのはほとんど同時だった。




「はあ、結局、燃やせなかったかな。左腕の、トラップは、上手く、発動しても、周りが、助けて、しまいそうだし。」


 王都の時にさえ生き延びて見せた彼の水を纏う魔術には更に磨きがかかって見えた。それに五年間の成長は、少年を随分と育てたようで魔力、体力共に高いと思われた。

 一方の私は五割に満たない魔力。今から侯爵領地に赴くというのにこれ以上、消費するのはいただけない。セメリアス家があれだけの護衛を揃えるとは、雇い主も私を向かわせたがった訳も頷ける物だ。

 そのため少し戦って、魔力が彼の魂分貰ったとしても減ると分かった所で離脱しようとしたのだが、その間にも随分と魔力を使わされた。崖上の近くの川から大量の水を引っ張って来た彼は厄介なことこの上ない存在だった。今の私は三割半の魔力が残る程度だろう。

 もともとアラストールの魔力は高い上、相手の魔力を更に遡りその根幹、魂に火の手が及んだときその魔力を奪い取る力がある。そのため、溜め込んだ魔力が三割に近づいたとはいえ、本来の八割程の魔力がある。幸い魔力切れとやらはまだまだ無縁だ。


「さて、アラストール。まずは、周辺の、町によろう。そこで、魔力を、補充しようか。」


 屋敷の地下で奴隷を捧げたときと違い、街ごと遠慮せずにやれる。今度は2.7倍と言わず、もっと我が炎に捧ぐとしよう。

 朝日に照らされ、我らが炎の祭典は二日目を迎えた。






「エレシア、目が覚めたかい?」


 目をあけて身を起こそうとすると声が聞こえたから振り替える。


「お父様?ここは...あぁ、火の魔法使いに...今はどのくらい経ちましたか?」

「夜があけて、日が真上に登ったところだ。まだ、体は思うように動かないはずだ。心配せず、眠っていなさい。」


 私が身を起こすのに手間取っていると、お父様がやんわりと押さえてくる。ほとんど全ての魔力を使い果たしたということは、体を動かしている魂の思考すべき所、精神というのが近いかな?がほとんど働かなくなったということだ。

 その反動で思考は出来てもそれを体に思うように伝えられてないみたいだ。前世なら過労死寸前って所かな?


「お前はナイアース伯爵といい先生の弟子といい、まだ若いのに随分と命を助けられる事が多いな。確か、先生の元でも死にはしないが危ない事をしていたろう。もう少し自分を大切にしないか?」

「それは...返す言葉も無いですけれど。」

「とにかく数日は絶対安静だ。ナイアース伯爵も兵を出してくれており、直々に率いて此方に向かっているそうだ。

道中の事、手紙には書けなかったことも御者の彼に聴いている。もうお前は十分な成果を出したろう?」


 私がしぶしぶ頷くとお父様が念を押して部屋から出ていった。

 見回すとベットの隣の机には扇、魔術の教本、割れたペンダントが置かれている。それ以外の物はいつでも作り直せる物だったから、馬車を僅かでも軽くしようと捨ててきている。


「火の魔法使いは、消えない火以外にも普通の魔方も使えるし、詠唱までする魔法は強力だけど。あの膨大な魔力を回復させるのは凄く時間がかかるよね。やっぱり、魔力切れが狙い目かなぁ。流石に軍隊相手に持つとは思えないし。」


 アラストールの弱点や代償が分かればもっと有利になるのにな。戴冠式まで火の魔法使いが動き出さないと思ってたから、王都でカーネと合流して聞く予定だった...あれ?火の魔法使いが派手に動いてる?戴冠式は先だから王都まで話が伝わるよね?


「まさか...もう反乱がおきてる?」


 だとしたらカーネや王子達は大丈夫かな?火の魔法使いはいなくてもアレーシグ公爵派閥の兵はかなりの数だよね...。


「うぅ、なんでこんな時に魔力切れなんて...。カーネもパンテルも無事でいてね。」


 私を転生させた神様がいるのなら、どうか皆無事でこの戦争を終わらせてください。

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