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滅炎の復讐者  作者: 古口 宗
第四章 王国反乱編
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38話 一転逆転

「アロシアスとロディーナだ!討ち取れ!」

「無礼な。」


 姉上からとてつもない量の魔力が流れ出る。姉上はその魔力量に目がいきがちだが、本当の脅威は魔力を魔法使い程ではなくともかなりの制度で操れる事だ。つまり、魔術の起動が信じられないほど早い。

 兵が走り出す頃には獣人と正規兵は姉上の足元から連なる黄金の水晶に分断される。


「なっ!水晶!?」

「なんだよこれ!?」

「アーツだよ。気付かない人も多いけどね。」


 魔眼を発動して相手の動きを()()()()。「未来を見る王」と呼ばれるに価しない見ていることしか分からない魔眼だが、筋肉や服、風の動き位読める。そこから相手の動きを組み立て、相手の剣を避ける。

 いい反応だな。降り始めも早かった。将来があったら楽しみだった兵だろうに。


「なっ!はやっ」

「さようなら。」


 加速無しで速度が倍増し、急に停止した僕はきっと彼からしたら消えたように見えたろう。まぁ、もう僕を見るためには落ちた首をひっくり返す必要があるが。

 剣の鍔飾りに仕込んだ魔方陣が光を放ち、僕を高速にする。瞬間で停止した僕の体と感覚は保護されているため、狂うこともない狙いで目の前の兵を二つにする。


「後、十八人か。やっぱり実戦はかなり疲れるね。」


 常に発動している魔眼で横からの攻撃も読み取っている僕はすぐに屈み、その横振りの爪を回避する。発動の間に合った魔術は僕を姉上の隣に移動させ、停止する。


「その転移のような魔術はなにかしら?見覚えのない魔方陣で出来ていますわね。」

「私の調整した魔術です。王城の書庫に随分と美しく整えられた魔方陣がありましたので実験的に使ううち、馴染んでしまいまして。」

「そう、機能美というものかしら...「無変速加速」と「状態結晶化」といったところですわね。」

「「瞬間移動」と名付けたのですが...。まぁ、二つの魔術ですしそちらでいいでしょう。」


 姉上と言い合うよりも五人目を倒した方がいいと、話している間に倒した二人を飛び越え、獅子のような獣人に向かう。獣人とはいえ、人間の兵に誘拐される程の者では文武両道色彩兼備であれと教えられたテオリューシアの王族には敵わないだろう。


「くたばれ、同族殺しが!」

「お互い様だろう。」


 やはり恨まれているか。倒れ付した彼に黙祷を捧げる暇もなく、魔術が私に向けて飛び交うが私の魔術の方が早い。移動先の盾を構えた兵を加速した剣で盾ごと切り飛ばす。魔術まで使い強化した剣は傷つくことさえなく光を反射する。「状態結晶化」は近接武器と組み合わせるとかなり使い勝手がいいな。ケアニスにも教えてやろう。


「くそっ、何だってんだよ!あれは!」


 叫ぶ兵が見上げているのは中に飛び交う水晶の群れだ。魔力を魔方陣も無しに自らのアーツに繋げ、「浮遊」と「推進」で乱舞させる。有り余る魔力を使いやっと出来る事なのだが、姉上はあれを好む。普通の魔術の方が良いだろうに。ただ、兵の足が止まったのは好都合だ。

 あるものは当たれば細かい刃となって砕けとび、あるものは当たった者を上に吹き飛ばし、あるものは当たった者をアーツで包む。今、この広間という閉鎖空間に姉上の魔力が満ちているという異常な事態が術者から離れて存在するアーツという景色を可能にしている。

 それに畏怖した兵が止まれば姉上の乱舞か、私の剣により倒れ伏す。その場に立つものが一人となるのにそう時間はかからなかった。


「ふう、魔力を回収いたしますわ。少し大扉を開けるのは待っていらして。」


 宙に浮き、安全圏を飛んでいた姉上が降りてきた。これでその場に立つものが二人だな。


「よろしくてよ。次はすぐにいけまして?」

「すいませんがしばらくお待ちを。」


 魔力量はまだ余裕があるが、魔眼を使いすぎたな。かなり右目が痛む。それに頭も痛い。


「姉上は?あれほどの量の魔力を操り支障は無いのですか?」

「問題ありませんわ...と言いたいところですが少し意識が朦朧としますわね。体外に魔力を出しすぎましたわ。」

「魔術で応戦することはできなかったのですか?」

「狙いがつけにくいので貴方を巻き込むし、魔方陣に流すより効果の付与した水晶をぶつけた方が対応がはやいでしょう?」


 その通りだと納得しつつ、一度引き上げることにする。もう、日の暮れた城を上りつつ窓から街を見下ろす。動き回る松明が減って見えないのは今の疲労感からは割には会わない気がした。


「ふう、もう一度引き込むのは明日だな。交代の伝令を兵に伝えねば。」

「疲れすぎですわよ。リラックスなさい。」

「王は疲れる物ですよ。父上等病床に伏している。」

「貴方まで早死にしたら、本当にルーネが呼び出しますわよ?ティアも私も許しませんわ。そうなる前に頼りなさい。」

「今、これ以上ない程頼っていますよ姉上。」


 姉上は満足したのか、そのまま城を上がって行くのを見送り、僕は今来た道を戻り兵を交代させる。なんとか入れ替わった兵を見て安堵し、数時間の仮眠取ろうと登った所を呼び止められた。


「アロシアス王子!包囲が...!とにかく外を!」

「すぐに行く!」


 ただ事ではない様子の伝令を追いかけた先には驚いた光景が広がっていた。どこからか現れた一団が包囲を食い破るように突撃しては後退し包囲を広げる様が。


「...ははっ。カプラーネか!勝手に抜け出したな!全く!」


 知らず口角の上がる顔をそのままに私は部下に命じる。


「この期を逃すな!外側に躍起になっているうちに対包囲の陣営を展開しろ!占領された際に使う罠も忘れるな!!我らが戦友に勝利をもたらそうぞ!!!」


騎士団、王宮魔術師、傭兵団。三つの勢力が一つの勝利のため、大きく動き出した。反乱1日目の終わりは王国軍の雄叫びによって幕を閉じた。

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