遺志
二話同時投稿です。前を見ていない人はそちらもお読みくださいm(_ _)m
「そろそろつくかな?」
僕がぼやいたのはただひたすらに直線でセメリアス領地を目指し、もう半日は経つからだ。魔力はまだ余裕があるがそろそろついてほしい。今はただ、エレシアが心配だから。
共に包囲を突破した彼は魔術を使うほど魔力は無いらしく先に行けと僕に馬を押し付けて来た。少し先に見える渓谷に入ってからはよく見える平地のはずだと、馬に更に「呼吸補助」と「疲労回復」をかけ、全力で走らせる。
その時だった。夕暮れも終わる影絵のような渓谷から数瞬の間炎が吹き出した。あんな規模の火は見たことがない。
「無事でいてくれよ!エレシア!!」
渓谷まで後少し。先程までは逞しく感じた馬の駆ける音が今は途端に遅く頼りないものに聞こえた。
救ワナクテハ。奪ワレルマエニ。
ココニアル残リノ魔力デモッテアラガウノダ。
彼女ノ魔力ヲ代償ニオレノ「力」ヲ使ウノダ!
「なん、だと。何故?何故、アラストールの、火が、消えて!?」
「っつ。嬢ちゃん、そいつは一体?」
「えっ?」
一瞬何かに焼かれたのは確かなんだけど。魔力もごっそり減って意識も朦朧としている。けど、生きてる。火の魔法使いは元に戻り此方を見てぶつぶつと言っている。なんか寒気がするな。
パンテルは私を指差して呟いているので、見てみると光が見えた。眩しい。
「これ...。アル君のペンダント...。」
「あん?クソガキのか?」
光を放っていたペンダントは、最後に一際大きく光るとパキンと音をたてて割れてしまった。大きな罅の入ったそれはもう魔導具としては働かないだろう。
「そっか...魔力を使って、一度だけアル君の魔人の力を使う効果の魔導具だったんだ。」
魔力残っててよかった。なかったら今ので死んでたと思う。
後ろにいた護衛の人達の中には死人はいなくても怪我がひどい人もいる。死にはしないだろうけどまともに戦える人は少ないだろうし、撤退しなきゃ。
「ふざけるなよ!あの炎は刹那の美しささえ魅せる事も許されないのか!?」
「うるせぇよバカが!何いってんのかわかんねぇよ!」
「燃え尽きろぉ!」
「人の話ききやがれ!」
私の近くにいたからか比較的軽傷のパンテルが、火の玉に岩を投げつける。そのまま駆け出したパンテルは火の玉に頭から突っ込んでしまった。
「あつっ!?あちゃちゃちゃ!」
「「「「雨雲!」」」」
護衛の人たちが雨を降らせ、パンテルの火が消火される。
「でけえのぶつけりゃ消えんじゃねえのかよ!?」
「パンテル、魔術の水で消えたって事は普通の火の魔法だよ。」
「はあ?あいつ、自分の火は特別とか言ってたぞ?」
「いや、火の魔法使いの言葉って意味分からないって言ったのパンテルじゃん。多分切り替えられるんだよ。」
「今は節約中ってことか。あんだけド派手にやりゃあ流石に疲れたか?」
「【処刑する炎】!」
「あぶね!?」
パンテルが私を脇に抱えて跳んだ直後、火柱が地面に穴をあける。
「お嬢様!馬車の準備が整いました!お逃げを!」
振り替えると護衛の何人かと御者の人が馬車に乗り込み、他の護衛の人も馬車と馬に魔術をかけていた。「軽量化」とか「姿勢安定」等だろう。乗り込んだ護衛の人が「追い風」や警戒をするはずだ。
「後から追いかける!今は早く動け、嬢ちゃん!」
「分かった!パンテルも気をつけて!」
「へっ!誰に言ってやがる!」
籠手を打ち鳴らしたパンテルに護衛隊長が声をかける。
「パンテル殿、助太刀する。貴殿は前を頼みたい。」
「死ぬなよ?」
「私とて伊達にセメリアス家の魔術師をやってはいないぞ!」
護衛隊長は言い終わると同時に魔術を放つ。弧を描いて飛ぶ水の刃が四方八方から火の魔法使いを襲い、正面から突っ込むパンテルの補助の役目をはたしていた。
「しつこい!【壁となる炎】!」
「パンテル殿!」
「おう!」
パンテルの足元が勢いよく隆起し、壁を飛び越える。その上には別の護衛の人が作ったであろう足場が崖から飛び出ており、パンテルはそれを蹴り火の魔法使いに一直線に落ちる。
「せめて動けや、狂人が!」
「くっ!」
飛び退いた火の魔法使いがパンテルの砕いた岩の欠片に打たれ、すぐに火を纏う。
「燃えろ!」
「嫌だね、トロマが!」
掴みかかる火の魔法使いを数回跳んでパンテルが引き剥がした頃には、私の乗った馬車が魔術の助けを借りて勢いよく動き出していた。
「逃がすか!【処刑する」
「させません!」
護衛隊長の水流が大蛇になって火の魔法使いに襲いかかり、回避に集中した火の魔法使いの魔力は散ってしまい、魔法陣が崩れ魔法が不発に終わったのが見てとれた。
殿を勤めてくれる頼りになる一団の無事を祈り、魔力切れの私は次第に意識を遠退かせた。




