「炎」舞
二話同時投稿です。前を見ていない人はそちらも読んでくださいm(_ _)m
「うーん、すばしっこいな。後ろのも、私の火が、届かないし。」
そう言いながら飛んできた火の玉は水のカーテンに着弾し蒸発させる。しかし、すぐにカーテンを張り直す。私は防衛メインでパンテルの足場なんかを補助する係だ。
もう、何回目か分からない援護射撃が護衛の魔術師から飛ぶ。岩の槍や風の刃、水の蛇等大きさや速さも様々な攻撃を膨大な範囲の火で焼き付くす。どんな魔力量してんだろう。
「どらぁ!」
魔術の対処に乗り出した火の魔法使いにパンテルがたった一人突っ込む。振り替えることも無く放たれた火の玉に岩をぶつけて霧散させて、そのまま岩共々叩きつける。
魔術を一切使わずに岩を持って高速で戦闘の出来るパンテル以外の護衛は全員援護に回っている。セメリアス家の護衛とあらば皆魔術を使えるのだ。
「【処刑する炎】。」
「ちっ!」
叩きつける寸前に上から降る大きな火柱に気づいたパンテルは攻撃を止めてすぐに後ろへ跳んだ。あの体制から跳べるんだなと感心しつつ、水流と強風の魔術で範囲外にパンテルを押し出す助けをする。ギリギリ退避が間に合ったパンテルは見事に着地を決めて走り出しながら叫ぶ。
「っぶねぇ!ありがとよ、嬢ちゃん。」
「お構い無く!」
火柱から何事もなく出てきた火の魔法使いがパンテルに火の玉を放つ。が、既に崖の中腹辺りまで駆け上がったパンテルが崖を殴り付け、落石を起こす。
「ええ、人一人に、することじゃ、ないよ。【壁となる炎】。」
火の魔法使いの上に現れた巨大な火の幕は岩を受け止めて、溶けた岩が横に落ちていく。落ちて固まる溶岩に囲まれた様はまるで地獄から這い上がって来たような状況だ。
「はぁ!?これでもダメなのかよ!」
「というよりはどれだけ魔力が持ちますの!?」
こちらを向いた火の魔法使いは親切な先生が生徒に解説するように喋る。
「あぁ、私の、アラストールは、膨大な、火の魔力を、持つことでも、有名なんだ。それに、今回は、しっかりと、増やしてきたから、まだまだ、残っているよ。後、七割は、確実だ。」
「おい、俺はそんなに体力持たねぇぞ?そっちは?」
「護衛の方達の魔力も半分は切ってますわ。魔力の回復薬も切れそうですし...。」
そう言う私も六割ない位だ。三割を切ると思考が鈍りやすくなるため、早めに回復薬を飲んでいるのも原因だろうがぼんやりするよりはましだと割りきるしかない。因みに向こうは回復薬等出すそぶりもない。
まぁ、割りきっても絶望的な事に代わりは無いけど。何せ火の魔法使いはまだ歩いてすらいない。崖のすぐ近くにいるため包囲出来ているだけで、実際はこの陣形も意味があまりない。左右に前と意識を割きやすい事くらいかな?守るのが大変なんだけど。
手紙に向こうからも護衛に兵を出してくれと書いてある。手紙が届くまでの時間もあるが、もうセメリアス家の援軍はどこまで来てるだろうかと護衛隊長やパンテルと囁きあっていると、火の魔法使いから嫌な魔力を感じて振り替える。
「しかし、面倒だな。昼前に、出会ったのに、そろそろ、日も暮れる。少し、勿体ない、使い方でも、するかな?」
そう言った火の魔法使いの体から魔力が溢れでる。護衛隊長の掛け声で私の乗る馬車の周囲に集まった護衛達が身構える。
「【顕現・アラストール】』
火の魔法使いの体が燃え上がり、背後に大きな火の玉が現れる。それは人の様な獣の様なマンガの悪魔の様で、揺らめく度に僅かに姿を変えつつ静かにそこに佇んでいる。しかし、火の魔法使いはじっとしていなかった。
『【殲滅の火】重ねて、【魂による終焉の炎】』
二つの重なって聞こえる声が朗々と響き何かの呪文を唱える。アル君はギリシャ語だと言ってたけどギリシャ語なんて分からない。ただ、高々と掲げた手の先から渦を描いて溢れる、黒色の混じる炎が辺りを紅く照らす様はとにかく不味いと分かる。
「こんなんどうしろっつーんだよ。誰だよ、魔術師も魔法使いも大差ないって言った奴...。」
「それ、パンテルだよ...。本当に悪魔の心臓取りに来たんだよね?使ったの見せに来たんじゃなくて。」
アロシアス王子が焦るのも納得だ。ここから更に魔力の質まで上がって、不死性まであって、代償も無くなるなんて手に終えない。
「お嬢様、お逃げを。」
「間に合いませんわよ。」
「最後くらい守ってるフリでもさせてくださいよ。護衛の立つ瀬が無いでしょう。」
身も蓋もない事言い出した。まぁ、せめて馬車に乗れとは思われるかな。
『辞世の句は済んだかな?最後にもう一度聞こうか。悪魔の心臓は何処に?』
「ソフィア様の弟子として言えることは、「そんなものは無い」だけですわ。」
『前に出るか。勇敢なのか、無謀なのか。』
「嬢ちゃんよ、俺はあんたに会えて良かったと思ってるぜ。」
「ありがとう、パンテル。」
『仕方ない、では消えるといい。』
火の魔法使いが手を下ろす。
私がペンダントを握りしめる。
それに合わせて炎の波が地上を覆う。
アル君とソフィアおばあちゃんが脳裏に浮かぶ。
渓谷は黒と紅に染まり辺りから一切を焼き尽くされた。




