表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅炎の復讐者  作者: 古口 宗
第四章 王国反乱編
37/78

襲撃

二話同時投稿です。前を見ていない人はそっちもお読みくださいm(_ _)m

 王都とセメリアス領地のちょうど中間の谷間を馬車がガタゴト揺れて通る。


「ここが一番襲撃されやすいんだったか!」

「そうですわ!目撃されにくく、姿は隠しやすい!更に出入口は限定されて逃がしにくい!物を奪い取るなら此処だと思いますわ!」


 隠れてうろちょろしていた関係者が急にとんぼ返りするのだ。私がアレーシグ公爵なら、十中八九悪魔の心臓持ちだと疑う。


「皆さんに警戒するように伝えてくださるかしら!」

「おう!分かったぜ!」


 パンテルの馬が護衛の一段に近づいていく。それにしてもうるさい!セメリアス家の馬車は揺れはある程度吸収してくれるからお尻が痛くなることは無いけど岩場はうるさいよ!帰ったら研究部門にゴムタイヤの研究依頼しようかな、等と考えていると前方で岩が突然破裂した。


「総員、警戒体制!!」

「はっ!」


 すぐに整えられた陣形の前に馬から降りたパンテルが進む。


「お嬢様よ、煙を吹き飛ばしてくれ。視界が悪すぎるぜ。」

「今、飛ばしますよ。3、2、1、せいっ!」


 少し時間がかかったが扇に「強風」の魔方陣を展開しつつ、大きく振るう。扇から放たれた風が小さな岩の破片と土煙を吹き飛ばし、襲撃者を足止めする。


「そ んな...。何故ここに...。」


 煙の晴れた向こう側、そこに立っていたのは傭兵団でも私兵団でもなく、


「おや?もう、気づいていると、聞いたんだが。予想外、だったのかな?まぁ、人は、忙しいと、希望的、観測を、しやすいからね。気にすることは、ないんじゃあないかな。」


 ここで最も会いたくない、最悪の魔法使いだった。






 黒い外套は所々煤けており身綺麗な格好とは言えないが下に見える服同様上等な物だと分かる。魔法なんて欠片も学んでいない、一村人か盗賊の様な五年前とは比べ物にならない。つまり、魔方陣なんかも潤沢に備えられているだろう。撃退さえ出来るか分からない。

 ソフィアおばあちゃんを襲ったのではなく悪魔の心臓を取りに行ったのだと考えていればここに来るのは予想できた筈なのに...。まだ私はソフィアおばあちゃんを中心に考えていたらしい。この一連の出来事の中心は悪魔の心臓と反乱。心の整理なんて全然できて無かったなぁ。


「おい、嬢ちゃん。こいつが例の火の魔法使いか?だったら今危機的状況ってやつか?」


 私の顔を見たパンテルが聞いてくる。でも私がその質問に答えることは無かった。なんせ、直ぐに嬉しげな響きの声が答えたからだ。


「ほう!火の魔法使い!いい呼び名だな。そうだな、有名なのなら王都と外れの邸宅に刹那の彩りを灯した者なら、俺の事だ。どうやら私の芸術も名を語られる程、世間も理解が追い付いたらしいな!」

「なるほど、狂ってんな。」


 顔をしかめたパンテルを火の魔法使いは不思議そうに見つめる。


「狂っている?一体、何がかな?」

「どうでもいいけど退けよ。邪魔だっつの。」

「あぁ、それは、失礼。どうぞ。」

「だろうな。じゃあ...あっ?」


 そう言って火の魔法使いは本当に谷の縁まで歩く。何を考えてるのか分からない。もしかしたら何も考えていないのかもしれない。


「ただ、仕事は、果たさせてくれ。契約、だからね。」

「あっ?仕事?」


 パンテルに視線を向け直した火の魔法使いが、黒かった瞳を紅く染めて訊ねる。


「悪魔の心臓は、誰が、持っているのかな?」

「ねぇよ。諦めろ。」


 パンテルが飛び退いた所に水のカーテンを張る。その水のカーテンは瞬く間に燃え広がり、すぐに蒸発した。来ると分かっていれば水の魔術でも間に合うみたいだ。ソフィアおばあちゃんみたいな速度ではアーツで魔方陣を作れない私は準備期間がいる。まぁ、アーツで魔方陣を作れる分、魔方陣を探す苦労や魔方陣の回路を魔力で満たす時間はいらないからギリギリ間に合うんだけど。


「助かったぜ!嬢ちゃん!」

「次からは難しいでしょうし、過信はしないで下さいませ!」


 そう叫びつつ、飛び退いたパンテルの足元の岩を隆起させて着地地点に飛んでいく火の玉に対処する。この一連の攻防で稼いだ時間で護衛の魔術師達が一斉に魔術を放つ。ソフィアおばあちゃんを知っていると感覚が少し麻痺するけどこれが魔術師の戦いかたで早い動きだ。魔術師だけで部隊は組めない理由だったりする。

 そんな弾幕を火の魔法使いは全て燃やし尽くし、すぐに火の玉を放とうとして横に飛ぶ。あの弾幕をそれ以上の速さで回り込んだパンテルの籠手が虚しく空を切る。


「聞いていた、以上の、速度だな。獣人の、中にも、個体差が、あるのか。」

「知るか!」


 律儀に返事をしつつ、パンテルが飛び退くとそこに火の玉が着弾し、霧散した。

 やっぱり、魔力を燃やす火だから魔力の無いものは燃やせないようだ。マナで作った火でも無いから魔力の配給が切れると残ること無くすぐに消えてしまう。発動はともかく、なにかを燃やしていない間の維持には莫大な魔力を注がないといけないはずだ。魔力切れ狙い。これが私達の唯一狙うことの出来る勝利条件。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ