34話 反乱の王都
「つまり、今は件の魔法使いが王都におらず、セメリアス領地に行く可能性が高いと?」
「ついでに悪魔の心臓を奪いに行ったんでしょうね。もうどこにも無いですけど。」
「しかし、君は随分と落ち着いているね。彼等は君の話の途中で駆け出したけど。」
「ケアニス男爵まで駆け出すとはおもいませんでしたよ。スティアーラ王女はいいのかな?」
「ここは安全だからだろう。まぁ、二人が間に合うかは分からないけれどもね。」
「それは大丈夫かと。あいつはそこまで脆くないですし。」
「でもその彼も無事かな?というか駆け出していった二人は無事ですむだろうか。」
「僕も半分は獣人ですしね。負けるときはしょうがないという価値観はありますよ。まぁ、徹底的にやり返しますけど。」
「全然しょうがないで済ませてないよ。それ。」
遠ざかっていく話し声と扉が閉まる音を聞き届け、私は目を開けた。どうやら少し眠ってしまっていたらしい。それよりも今の会話が本当だとするならシアが危ない。それにセメリアス領も。
「あら、お目覚めかしら?でも、随分と意識がはっきりしてるのね。疲労で倒れたと聞きましたのに。」
突然声を掛けられ振り向いた先には、美しい女性がこちらに微笑みかけていた。それだけなら少し驚くですむのに、そこには窓しかない?
「えっと、どうしてそのような場所に?」
「あら?そのような場所?...あぁ、そうですわね。ちゃんと部屋に入ってからお話いたしましょう。」
そう言うと女性がふわりと窓からこちらに飛んできた。そう跳んできたのではなく飛んできた。黄金色の綺麗な透明の水晶に乗って。
「あ、貴女はロディーナ王女様!?」
「あら、博識ですのね。そうですわ、私がこの国の第一王女ロディーナ・テオリューシアですの。」
そう言ってロディーナ王女は水晶を霧散させ、この部屋に降り立った。
「では、今アレーシグ公爵が動いたと?」
「君がやらかした事だろうに。
今は王都内の住人を避難させている所だ。この城は囲まれたよ。しかも我が兵が城下町に降りたとたんに、だ。狙ってたのだろう。」
「何故兵を?」
「この状況を作るためだが?」
平然と返された。やはり理解できん人ではある。
「つまり、乱戦に乗じて外に兵を残しつつアレーシグ公爵が想定外であろうケアニス男爵達が開けた包囲網から一部の兵を戻し、二方面で動かすと?指揮が混乱しませんか?」
「ふむ、飲み込みが早いけど王国騎士団を舐めているね?」
「真っ二つになる騎士団ですしね。」
「掃除されたといってくれるかな?」
どうやらいまだに王子の指揮下にいる者はかなり優秀らしい。最も、私兵や奴隷兵を集めたらこちらは数で押しきられるけど。5倍はありそうだな。雑魚ばっかりなのが救いかな、もしも僕の集落の獣人が焼かれずに残ってたら面倒くさかったけど。
「髪と耳、逆立っているよ?ご両親の事を思い出してしまったかい?」
「かなり踏み込みますね。」
「隠すから、ついね。」
こいつ、本当に王なのか?パンテルより子供っぽいぞ。
「やぁ、スティアーラ。兵は戻ってきた?」
「お兄様、兵は戻って来たのですがロディーナ姉様が先程飛んでいました。」
「...どっちに?」
「王城の二階です。」
「ふう、良かった。今姉上に城は出てほしくないからね。」
「こんな状況で普通でないでしょう?」
「私の姉だぞ?」
「...前兆は?」
「美しいと姉上が認めた物、特に色恋沙汰は聞かせないでくれ。」
「...スティアーラ王女も大変ですね。」
絵画の事で暴走する王子はスルーして、向こうで対処法を必死に考えている王女を慰めておく。姉弟がこれではさぞかし苦労しているだろう。
「いえ、私は出来ることも少ないのでロディーナ姉様やお兄様程ではありませんわ。」
「うむ、良くできた妹であろう?」
「ええ、本当に。」
頷いている王子に皮肉が通じたかはさておいて、ロディーナ王女の行き先ならさっき降りてきたところが怪しいな。現状を説明する手間が省けただけなら助かるんだけどね。
「では、僕は彼女を見てきますね。説明なんかも必要でしょうし。」
「あぁ、頼むよ。私は防衛戦の準備を整えてくるよ。騎士団長が向こうで出番を待っているだろうからね。」
「頑張って下さいませ、お兄様。」
サボろうと思ったのにスティアーラ王女もついてくるのか。面倒くさいな。
「―――から、おそらくアスは今から反撃しますわよ?」
「では、私が出ても」
「ですから、それは無謀ですわ。」
スティアーラが扉をあけると、もう現状からの打破まで考えているカプラーネと彼女に説明したであろうロディーナが話している。いつもなら喜ぶ彼も、即座に耳が寝てしまったのはロディーナがカプラーネの髪をしきりに撫でているからだ。
彼の脳裏にあるのはただ、「あぁ、想像以上にめんどくさそうな人だ」ということだけだった。




