33話 計画の始動
(ここが、アレーシグ公爵家の屋敷ね。)
王城のすぐ南の建物であり、分かりやすい豪華な物だ。すぐ南と言ってもしばらく建物が続かないだけで、城とはそれなりに距離があるが。
「セメリアス家の側仕えのカプラーネと申します。本日は引き取りたい人物がおりまして。アレーシグ公爵様に青い髪の女が来たとお伝えできますか?」
門番に話を通して、待つこと数分。すぐに入って良いとの事。随分と格式を気になさる様で結構なこと。
玄関をくぐり様々な調度品や屋敷の大きさを見せつけるような長い廊下の末、応接室に通された後に更に待たされる。全然良くないじゃない。使用人にも迅速な対応をするのは外だけなのね。
まぁ、この時間はありがたいから構わないけれど。シアの日記から王子がなにかを隠している事が分かる以上、王子と交渉材料となるこの館と証拠は私が押さえるのがベストだ。そのためにも危ない橋を渡らせない程の情報を今回で集めなければならない。応接室には特に何もないのは入った時点で分かっている。家具の配置が隠し事に適して無い。
建物の配置やこれまで通った部屋などを頭の中で確認していると、五十に届来そうな年齢の男が入ってくる。きらびやかな装いの中肉中背の男。以外にもアレーシグ公爵本人ね。
「待たせたかね。おや?髪が短いのはナイアース家のような平民上がりの伯爵程度に使えているからかな?」
「いえ、少し必要にかられましたので。」
「ふむ、そうか。あぁ、代金にしたか?頭ばかりのセメリアス家は君に親身にはならんかったかな?」
「いえ、この年でここに来るのはセメリアス家のご協力有ってです。」
事実だ。ただし、手切れ金は王子持ちで私の貯金は今回の反乱防止戦力に使わせて貰ったけれど。傭兵は安定した職に渇望しているもの。王子とのパイプはあって困ることはないわ。
商人達も王都復興のための商いで有利に立つためなら、喜んで護衛付きで飛んで来るでしょうし。まぁ、こっちは情報を流しただけでお金は使って無いけれどね。火の魔法使いのことは隠してあるけど。
「そうかね。しかし、最近はあまり良くない行動をしたそうじゃないか。例えば王子に売り物とかね?」
「図書館を利用した際の返礼の品でしょうか?」
「図書館に行けたのは芸術道楽の王子が代金が払いきれんからだろう?」
「公爵様に無礼があるのは王子も望まれないからですよ。尊敬されておられるのでしょう。」
どうやら、随分と侮られているわね。簡単に情報を渡すような事しないのに。私が澄ました顔をしているのが嫌なのか少し顔を歪めてそれから提案する。
「まぁ、せっかくセメリアス家の令嬢を追い払って来たんだ。ゆっくり我が屋敷でも散策するといい。」
どうやら、シアとの関係が仲違いで切れたと考えられている様ね。まぁ、姿をくらましたりと色々やっておいてこのタイミングで引き取りに来るとは不義理と思われるわよね。
反乱の前に攻めいる証拠探しを、今王子陣営でもなく、セメリアス陣営の私が一人で行うとは思わないでしょうね。まぁ、だから王子も自陣営ではなくて訪問理由のある私をよこしたんだもの。散策は好都合だし、のらせてもらおうかしら。感ずいてもらって演技をやめたというシナリオで友好的な態度にするにはいいタイミングでもあるし。
「まぁ、よいのですか。こんなに立派なお屋敷はそう入る機会もないので嬉しいです。」
「案内をつけよう。何かあれば聞くといい。」
そう言って何人かの使用人が呼ばれた。
全員男性で戦闘経験ありね。足音を分かりやすいよう一切立てないのは私に監視があるぞと伝えているのかしら?
「こちらです。どうぞ。」
「ここは?」
一通り見て回り、だいたいの見取り図を頭の中に完成させて、「地下などは無いのでしょうか?こんなにご立派なら地下室も作ることが出来るでしょう?」と訊ねるとここへ通された。流石に露骨すぎたかしら?
今いるところはパンテルの案内で行った地下室その物なのだから。所々に、焼けた後さえある。
「弟を買いに来たんだろう?」
そう言って兵士の指す先には焼け跡の一つがあった。
他と比べ少し小さな焼け跡は、ここ数日の物だと煤けた後から理解できた。少しずつ体が震えだす。今この場所で弟の事を話してほしくないから。
「少し遅かったな?まぁ、すぐにいっしょになんだろ。セメリアス領地とナイアース領地は少し遠いけどな。」
「何の...ことでしょうか?...。」
頭が働かない。これ以上考えてはいけないとでも言うように。
「ナイアース領地はアロシアス王子と仲が良すぎるんだよ。んでそこと繋がってるセメリアス領地もな。」
あぁ、先手を打たれていた。防衛戦力にせずにたっぷりと燃料補給した火の魔法使いが動いていた。
もう、立つ気力さえ消えてしまう。その場に座ると焼け跡に青い髪が見えた。私のなんかよりももっと短い、同じ青の髪が。
少しずつ男達が近づいてくる。
「まぁ、お前一人ぐらいは俺達で可愛がってやってもっ」
「まず一人。」
思考を停止し座り込んだ私の前で一人の男が宙に浮いて、ブラブラと揺れた。
「お前どこから!?」
「ちっ!これからって時に!?」
「あと一人。」
更に二人の男が血を流して倒れる。
「情報を!喋るからたすけっ!?」
「もう、聞いた。」
投げられたナイフは男の喉に吸い込まれていった。
「さて、すぐに追いかけないと不味いな。はぁ、面倒くさい。とりあえず行こうか。どうせ後手なんだから証拠はいらないでしょ。それより弟が心配だし。」
私の前に立っていたのは随分と美人でめんどくさがりな、なんとなく懐かしい気配の半獣人だった。




