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滅炎の復讐者  作者: 古口 宗
第四章 王国反乱編
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32話 王城の一幕

 日が傾きかけた光を取り入れる窓はオレンジに染まり、しかしふわりと揺れる髪は青い色を写して移動していた。


「王城の図書館...。やはり素晴らしい量の書物だわ。アラストールという悪魔のこともかなりの情報があるわね。」


 いくつかの本を戻しつつ情報をまとめた本を開いたカプラーネは確認するように呟いた。


「「復讐」の悪魔 アラストール。能力は相手の魔力に消えることの無い火をつける事。膨大な火属性の魔力も持っている。焼いた他人の魂を存在の糧にして、生物を焼き殺すほど強くなる。実体をとることもあるがその正体は炎の塊。過去に三度表舞台に出たことがあり、一度目と二度目は悪魔単体で魔王の生きていた時代に、三度目は契約者と一緒に現れている、か。」


 深いため息と共に彼女は自らが書いた本を閉じる。


「結局、代償らしい物は見当たらなかったわね。普通の火の魔法も使えるのは予想外だったけど。水で消すことができるけれども、延焼に気を付けておかないといけないのね。」


 そう言いつつ彼女が図書館を振り返った。


「それで、ピルケアルなんて悪魔は文献に残されていないのね。あるのならその能力を魔方陣にでも残していると思ったのだけど。結局、ソフィア様並の魔術師を集めるしかアラストール特有の火を消す方法はないのかしら?」


 ただ、そんな事をすれば国防力が大きく下がるだろう。何せソフィア程の腕前を持つ風魔術師はかなり少ない。水や土は速度の関係で、火はアラストールがのっとる可能性があるため厳しいものだ。

 結局、出来る限りの被害を押さえることでアラストールを強くするのを防ぐのが現状でとれる最善策だろう。知らないよりはいいが弱点を探して厄介な部分が見つかったことに実際以上に徒労感に苛まれたカプラーネはここ数日通いつめた図書館を後にした。






「と、いうことなんだけど本当にいいのかい?」

「むしろ個人の行動をペラペラ喋らないで下さい、アロシアス様。」


 疲れた様子で頭を押さえるケアニスに不覚にも笑ってしまい柔らかく睨まれる。やはりこの男は随分甘いのだなと再確認した。


「しかし、彼女達があまり首を突っ込むのは君達の本意では無いのだろう?なんせ愛しの花嫁御一行だからね。」

「いえ、カプラーネは違うでしょう?」

「ではパンテル君は花嫁候補なのか!?」

「なんでそうなるんですか!?」


 やはりケアニスは面白い奴だ。彼といると警戒しっぱなしの貴族連中や、信頼の置けるが地位の違いすぎる部下とは違いリラックス出来る。それは知っているのか、彼も文句は言わない。文句を言うのはもっぱら...


「お兄様、あまりケアニス様をからかわれては可哀想ですよ。大切な話だったのでは?」

「あぁ、分かってるよスティアーラ。しかし、花嫁かどうかはさておき、君達の不本意なのは本当だろう?」


 ケアニスに礼を言われて照れている、七年も後に産まれてきた可愛い妹から視線をはずし彼らに向ける。


「「あぁ、その通りだ。」」

「ほら、愛しい人や大事な兄弟に、危険なことはしてほしく無いのだろう?ケアニスだって彼女達を姉や妹の様に親しくしていたろう?」


 すぐに大きく頷いた二人がきれいに揃っているのに反して、ケアニスは反応が鈍い。以外だな、彼なら真っ先に頷くと思ったのに。しかし、後ろの二人が互いに揃った事に驚いていたのは面白いな。彼らもからかっても大丈夫なほどに運命共同体となってくれたなら、より楽し...ケアニスの負担も減るだろうに。


「しかし、カーネは私より遥かに交渉事に精通しているでしょうし、エレシアの魔術の腕前は本物です。私が止めるのは筋違いでしょう。」

「だが、心配だし危険な場所に出てほしくないだろう?」

「それはそうですが..,。」


 随分と歯切れが悪いケアニスに思わずため息が漏れる。多分この場で理解していないのはいないだろう。本人も自覚があるものしかいない。


「ケアニス、君が彼女達を強く止められないのは、劣等感を感じているからだろ?だけど君がそうなら僕はどうすればいいんだ?」


 場の雰囲気の変化を察して部下達が静かに退室する。ありがたい。今ここで喋っているのは王子とは呼べないからな。


「確かにエレシア嬢程の才覚は君には無いだろうが、何も君が縮こまることは無いだろう?でなきゃ君に救われ、侯爵領になるのを最も認め、喜んでいる友人の僕の立つ瀬が無い。」

「それはそうなのですが...。」


 間接的にダメージを受けている我が妹共々、時間の問題か。こればかりは実力のあるという事実ではなく、本人に自信がつくのを待つしかない。まぁ、あまり時間のある問題でも無いのだが。


「まぁ、私が無事なうちにたっぷり悩んでくれ。それで?そっちの二人はどうするのかな?」

「「不本意ではあるけど、あれの止め方を知らない。」」


 わざとではないのだろうけど、見事な一致だったな。しかし...


「結局、彼女達は動くのは決定か。助かるのだが、もしなにかあったらと思うと君達に恨まれそうで怖いね。」


 僕がそう微笑むと彼らは少し笑い、「それは筋違いだ」と言ってくれた。お互いが利害関係とは別に居心地の良さを覚えているようだ。スティアーラが用意してくれたお茶を飲み、僕はいいチームだと呟いた。

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