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滅炎の復讐者  作者: 古口 宗
第四章 王国反乱編
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30話 町娘からお嬢様へ

 私が目を覚ますと二つの疑問が沸いた。

 一つ、何故アロシアス王子は悪魔の心臓を持ってこさせたんだろう。別に何も出来ない箱入りお姫様って訳でもないし、私が持っててもいいと思う。アロシアス王子が魔人を作ろうと言うのなら親しい契約者がいるはずだ。でも、聞いたことすらない。

 二つ、焼け跡と地下室に残ってた匂いは誰の物か。これは二つの場所を知りつつパンテルに面識の無い人だ。昨日、あのアロシアス王子が情報として聞いたくらいだから、アロシアス王子達は地下室には行ってない。どころか警戒していたアレーシグ公爵の動きは地下室を完璧に隠してる。


「これはそろそろ三人でやるにはお手上げかも。証拠も集まったし、計画に協力出来るのはカーネだけだろうから一回領地に帰ろうかな?」


 カーネ以外は少し危うい。パンテルは傭兵だから家にあげてもらえないだろうし、私は姿を見せるには身分があり、アロシアス王子と個人的に会う為警戒が強いだろう。カーネならナイアース伯爵とセメリアス侯爵家の跡取りに面識のある使用人で動機もある。つまり家にはあげてもらえて、警戒が比較的薄いのだ。


「うん、王子の戴冠式の準備もあるし一度セメリアス家に戻ろう。反乱があるとしてもその頃だからセメリアス家の私兵を連れてきた方がいいしね。」


 名目は敵が用意してくれた。ソフィアおばあちゃんの唯一の弟子が狙われるだろうから、だ。


「後はアロシアス王子の件か...。これは正直分かんないなぁ。」

「シア、何を書いてるの?」

「ん?調査のメモとか色々。ソフィアおばあちゃんは日記つけてたからその影響で王都に来てるときは書いちゃうんだ。日記にしては味気ないけどね、これ。」


 そう言って私はそろそろ三冊目も終わる本をカーネに手渡した。あー、そういえばこれも四冊目買ったっけ?


「今日はどうすんだ?」

「あっパンテル、どこ行ってたの?」


 眠そうなパンテルが通路の奥から歩いてきた。王城に行くのにそんなに時間かからないのに朝まで見てない。少し心配そうな私にパンテルは笑いながら返した。


「そりゃお前、物が物だかんな。外から回ってったんだよ。襲撃してきたら取っ捕まえて足りねぇ証拠とやらにしてやろうかと思ってな。」


 どうやら郊外の井戸から行ってきたらしい。でも、物が物だと思うなら、侯爵家の反対の北に回り込んで行ったらいいと思う。外の井戸は東側で、セメリアス家の別邸やこの拠点の方角だ。外から来たら襲ってと言うようなものだ。


「焦ったらダメだよ。ここまで来たんだから安全第一でね!全く、火の魔法使いが来たらどうするの?それこそ物が物だったんだよ?」

「お、おう。わりぃ。...エピスみてぇ。」

「何か言った?」

「いや、別に。」


 私が首を傾げるとパンテルは何かを忘れるみたいに首を振った。


「そういえばアロシアス王子はどうだった?悪魔の心臓については何かを言ってた?」

「いや、特には。ただご苦労だったとよ。」

「そっか...。」

「ただ、あの部屋で地下室の所で嗅いだ匂いがあったぜ。戸棚ん中だな。」


 ...えっ?それってアロシアス王子は隠し事をしてた?いや、それは普通なんだけど、なんでアロシアス王子が地下室を知ってると、私達が考えたらいけないのかな。それとも、アロシアス王子が隠されてる?誰に?


「うう、分かんなくなってきた。」

「とりあえず動こうぜ。これ以上は考えたんじゃ出ねぇ答えなんだよきっと。」

「それは貴方が考えたくないんじゃない?あんまり軽率に動くのもダメよ?」


 カーネに注意されてパンテルがしょげているがスルーして話を戻す。そうした方がパンテルの立ち直り早いし。


「とりあえずカーネは作戦もあるし、別邸に帰ろう。私もセメリアス領から私兵を集めて帰ってくるから。戴冠式もあるしね。」

「この嬢ちゃんも十分行動派だと思う。」

「...シアはいいの。考えた上で動くから。それが無茶なだけなら私達がフォローするもの。貴方は使用人や家来はいないでしょう?」

「ぐぅ...。」

「おぉ、ぐぅの音は出たねパンテル。」

「「いや、それはおかしい。」」

「ええ!なんで?」

「貴女はフォローがあるから成長を諦められたって話なのよ?」

「パンテル!カーネが意地悪言うよ!?」

「自業自得だろ、嬢ちゃん。」


 この戦いには味方はいなかった...。とりあえず二人とも味方になってくれる戦いの話に戻ろう。


「とにかく一度セメリアス家の別邸に帰ろう。その後でお父様を説得して、知恵のセメリアスの力を頼って外からも証拠集めだよ!目標は反乱と誘拐の証拠ね。」

「ごまかしたな?」

「でも、シアの言うとおりよ。このメモは読ませて貰ったから返しておくわね、シア。」

「あん?日記みてぇだな?俺も読ませてくれよ。」


 興味深々のパンテルの前からさっと本を取り上げた。メモとはいうけどパンテルの言うとおり日記に近いのだ。絶対読ませない。乙女の日記はパンドラの箱より固いのだ。


「俺だけ仲間はずれかよ?」

「デリカシー無いのね。シアも女の子なのよ。」

「そういやそうだった。エピスのせいで人間の見分けがつきにくいぜ...。」


パンテルの失礼な評価はスルーして私は「消音」と「不可視」を発動して、別邸に急いだ。さて、エレシアお嬢様に戻らないとね!

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