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滅炎の復讐者  作者: 古口 宗
第三章 エレシアの物語
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29話 始まりの予兆

「それで交渉とは?」

「アレーシグ公爵家の奴隷にこの二人の知り合いがいます。彼らの救助です。」


 すっとアロシアス王子の目が細められ右目が赤くなった。


「...僕の目が鈍ったのかな?その二人について上手く判断できてなかったらしい。

 滅多な事を言うものじゃ無いよ。王族に死刑囚に情けをかけろと?」

「貴方の目は私がそんな事をするような者と?」

「いや、君からは断罪の感情が読めるよ。言葉とは真逆だね。」

「王子、何も奴隷が死刑囚とは限りません。王子でも、孤児や隠れすむ獣人の全てを把握していないでしょう?」

「...もし、君が嘘つきなら大したものだね。王族に公爵は犯罪者だと告げて僕の目さえ誤魔化すのだから。」

「私は嘘のつけない正直者なのでしょう?」

「魔眼を使ってなかったからね。あの時は必死に否定しようと頑張るふりを頑張っていたのかもしれないし。

 それほどまでに信じられないよ。公爵家が、現王の家族が真っ向から法に背くなど。」


 王子が深く項垂れつつも話を一笑に帰さないのはどこかで信じてるからだろう。それは自分の目かもしれないし、アレーシグ公爵家の選民意識かもしれないし、両方かもしれない。


「はぁ、しかしそれが事実でも証拠が無いよ。もし、言い逃れられたらそれこそ王家の破滅だ。どうせもう知ってるだろうから言うがアレーシグ公爵の反乱が早まるだけだろう。」

「アレーシグ公爵の反乱を知った原因は?」

「あれだけ私の絵について語り回っていれば目ぐらい使うさ。目が会えば分かるよ。私にはバレると踏んで端から隠す気など無いようだ。焦れば有利位に考えてそうだよ。」


 アロシアス王子の絵についての失敗談は有名だもんね。素晴らしい絵を生み出しては部下に捜索されるって。なんでふらっといなくなって帰らないんだろう。...あれ?今の私じゃない?


「それで証拠はあるのかい?」

「それはカプラーネが探すのですよ。」

「だから、証拠も無しに公爵の屋敷を捜索など...いや、そうか。捜索では無いのか。」

「えぇ、そうです。なので王子にしていただきたいことは」

「彼女は確か弟を探していると言っていたね?ふむ、当たりらしいな。働き盛りの若い少年一人なら問題ない、特に凄い特技は無いのだろう?とりあえず金貨は明日用意しておこう。決行の日までに見取り図と鎮圧軍を用意する時間がいるな。これだけで来たわけでは無いだろう?そちらも準備に協力がいるのではないかな?図書館で合ってるかい?」

「...せ、正解です。王家の図書館を閲覧したいのです。」


 一気に私の言いたいこと言われてびっくりしたけど話が早くすむのは助かる。でも、こっちの要求を当てられると交渉材料も当てられそうで怖い。敵としては一秒も会話したく無い人だ。


「間者と情報だけで王家の情報は渡しにくいね。間者ならいいのを教育中であと数日で物になる。」

「では、火の魔法使いの現在潜んでいる可能性の高い場所とその状況証拠の情報では?」

「...たった三人で二日間で調べられるって事はアレーシグ公爵家の屋敷だろう?状況証拠では弱いね。それに鎮圧軍に本気を出さなければいけなさそうだ。私の負担が大きくなっているよ。」

「無事に乗り切った際の求心力も大きくなっています。それに私達の知りたいのは火の魔法使いの契約した悪魔の情報ですよ?」

「契約した悪魔を知っているのだね。どこまで知っているのかな?エレシア嬢。」

「それは色好い返事がいただければ全てをお話いたしますわ。」


 そろそろ無いけどね!でも、取って置きがあるからこれも茶番みたいな物だけど。


「...はぁ、分かったよ。連絡は例の酒場だ。あそこのオーナーは代々王家の協力者だ。目でもみたし、信頼していい。」

「ありがとうござい」

「ただし、僕の情報収集を途中でバッサリと切ったのだから悪魔の心臓の場所は今ここで言うんだ。」


 ...バレてーら。て言うかさっきから人が話してるのに遮らないで欲しい。


「あの、私はいつバレる様なミスを?後学の為に教えて欲しいのですが。」

「絶賛逃亡中の君が僕に交渉に来ただろう?私が確定して望むものを君は一つしか知らないじゃないか。茶番はそこからだよ。」

「初めからですか...。」

「あぁ、そうだ。ついでに悪魔の名前も教えてくれないかな?」

「では言いますね。悪魔の名前はアラストールです。それと、悪魔の心臓は今の私達の拠点です。」

「つまり今誰も見張っていないじゃないか!?てっきりどこかに封じられているかと...。あぁ、もう!すぐに取ってきてくれ!!大至急だ!!!」


 魔術をかけ直し三人で拠点に駆け戻るなかで私はしてやったりと呟いた。私の呟きなんて聞こえてないはずの二人の視線が届かないはずなのに痛かった...。

 拠点に帰りついた私達はすぐに壁に背を持たせて休んだ。パンテルはまだ体力があるらしく、悪魔の心臓の箱を探している。そう言えばあの箱開くのかな?まぁ、アロシアス王子なら見れば分かるかも。


「それじゃあ、行こっか。王子に渡しに。」

「俺が一人で行った方が早ぇよ。隠密系のの魔術だけ掛けてくれ。どのみち後は休むだけだろう?」

「そうだけど、いいの?パンテルも疲れてるんじゃ。」

「いいんだよ。魔力切れを連れてくより楽だ。魔術は遠くても維持は出来んだろ?」

「うん、出来るよ。それじゃあお願いするね。パンテル。」

「おう、任せとけ。しっかり休んでろよ。」








 王城の一室でアロシアスは、隠部屋のある戸棚に向けてそっと呟いた。

「柄にもなく取り乱してしまったが、これで成功するといいな?ケアニス。」

「アロシアス様、悪魔の心臓は本当に使えるのでしょうか。本来の使い方とは違いますが。」

「大丈夫だろう。何せあれは魔王の遺産だ。生半可な物では無いだろうし、僕には目がある。理論的には可能だ。」

「...それしても、エレシアも無茶をする。変わらないなぁ、昔から。」

「あれは変わらんだろう。強すぎる芯を持つものは折れないし変わらない、強さも弱さもな。」






 それぞれの夜が過ぎて行くのを、月だけが覗いていた。

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