25話 覚悟とこれからと
朝日が昇る頃にヒラヒラと舞い散る反射が目をさして、私は目をしかめた。金色の交じる私の茶髪はよく反射する。いつもなら少し自慢に思うけど、今は少し鬱陶しい。
「お嬢様?お目覚めですか?」
小屋の外からカーネの声が聞こえる。振り返りながらハサミのアーツをといて入り口の布を上げる。
「おはよう、カーネ!今日は王都に一度戻ってソフィアおばあちゃん達が最近何をしてたか調べ...どうしたの?」
カーネが何の反応も示さないので、私は首を傾げてカーネの顔の前で手を振ってみる。あっ、そうか!
「もしかしてなんか変だった?見えないからよく分かんなくて...。」
「いえ、そうではなく!何故そんなに髪を切って!?」
「だって町娘を演じるのに長い髪は不自然でしょう?」
髪は洗う水代や、臭いやすい関係で平民はあまり長い髪にはしない。逆に綺麗で長い髪を持つ貴族は格式が高いとされやすい。それだけの髪を維持する財力の証明にもなるし。まぁ、私は単純に長い方が好きなだけなんだけど。
昨日まではカーネみたいに、解いたら腰に届く位の髪があったけど今は肩に届かない位だ。随分と頭が軽い。
「ですが...。」
「カーネ、私決めたの。多分王国の平和とかよりも個人的な感情が強いかもしれないけど、火の魔法使いを捕まえるまでは絶対諦めないから。その為なら髪だって切るよ。」
「...分かりました。では、私も覚悟を決めましょう。」
そう言うとカーネはナイフで自分の髪を切ってしまった。
「私もシアが進む道を行くよ。ナイアース家の使用人ではなくて、ずっとシアを見守って来たカプラーネとして。」
「カーネ、ありがとう!貴女がいるなら凄く心強いよ。」
「ずっと側にいると言ったでしょ?」
「なぁ、お二人さん。断髪式の最中にわりぃが予定がねぇなら、そろそろ出発しねぇか?思い出した事があんだよ。」
パンテルが少し控えめに布を捲り顔をだす。予定は無いが思い出したことってなんだろ?
「思い出したって?」
「あぁ、昨日の焼け跡に残ってた匂いだよ。俺達がソフィア婆さんを呼び出した廃村がこっから随分と西にあるんだが、そこの地下室にあった匂いと似てたんだよ。アレーシグ公爵とも関係あるぜ。あの地下室はよ。まぁ、4日程前に荷物とりに行った時だけどよ。」
「そんなところになんで呼び出したの?」
「腐れ公爵に悪魔の心臓を取ってこいって言われてな。それでソフィア婆さんの屋敷を暫くは見張ってたりしたもんだぜ。」
「悪魔の心臓...。アロシアス王子も言ってた。」
廃村の地下とソフィアおばあちゃんの御屋敷跡にあった匂い、悪魔の心臓を欲しがってたアレーシグ公爵、それを持ってたソフィアおばあちゃん、アロシアス王子の警戒するアレーシグ公爵の動き、ソフィアおばあちゃんを殺す程の火の魔法使い...。
「もしかしてアレーシグ公爵は火の魔法使いを匿っている...?」
「それも多分戦力として、ね。」
「ねぇパンテル、もしかしたらその地下室って火の魔法使いがいたんじゃないかな?それっぽいこと聞いてない?」
「そういやぁ、腐れ公爵が魔人かなんかを買収したらしいな。二年位前から初めて半年前にはもうあの地下室にゃあ居なかったらしいぜ。」
「決まりね。なら、この箱の中身は多分―――」
「「「悪魔の心臓...。」」」
言い方は悪いけど特攻させても懐の痛まない奴隷の兵をいっぱい持ってて、私兵も多い公爵家が魔法使いを買収してまで戦力を確保したいって事は多分想定してる相手は―――国。
そりゃアロシアス王子も警戒するわ。王子の魔眼と推察力なら多分、反乱の予兆なんてとっくに掴んでた情報だろうな。もっといっぱい証拠もありそうだし。
「ねぇ、パンテル。悪魔の心臓ってもしかして魔法使いを強くするものなの?」
「あー、俺も詳しく知らねぇんだ。なんか悪魔と魔法使いをどうにかするって位だな。退屈で腐れ公爵の話なんざ聞いてなかったし。」
「なら、とにかく今やることは三つだね。
一つ、火の魔法使いの情報を得ること。これはまずは地下室に行ってみよう?住んでたみたいだしね。あと、アラストールって悪魔も同時に調べていこう。
二つ、悪魔の心臓について調べること。破壊するにしてもどうすればいいのか分かんないし、もしかしたら使った方がいいかもしれないし。
三つ、身を隠せる拠点を見つけること。活動しながらアレーシグ公爵の勢力とか、お父様やアロシアス王子からも隠れないとだから、結構しっかりしたとこだね。」
「おいおい、めちゃくちゃだな。しかもそれが終わったら腐れ公爵やあのソフィア婆さんに勝った火の魔法使いってのと全面抗争かよ?」
「それはあくまでもアロシアス王子の役目だよ。相手は公爵、王族に一番近いからね。私達は火の魔法使いに絞って活動するよ。上手くいけばカーネの弟やパンテルの村の人達も脱出出来るかもしれないし。」
「ほう、そいつは最高額の報酬だな。俺は乗ったぜ!」
「私はシアに協力するわよ。拠点は任せて。いいところを知ってるわ。」
「地下室なら案内できるぜ。一度王都で馬車を借りるか。」
「私は馬車の中で悪魔の心臓について調べてみる。よし、じゃあ一度王都に戻ろう!」
木々の隙間を縫って王都に向けて伸びる日差しが私達の道を照らしているようだった。




