24話 捜索開始
重い空気が辺りをおおった。パンテルの態度はあまり変わっては見えないのに別人の様に強い威圧感がある。
「答えるよ。でも何が知りたいのか分かりにくいよ。」
私の返事を聞いたからか、幾分か落ち着いた威圧感の中でパンテルは答える。
「あぁ、じゃあはっきりいうぜ。俺はな、嬢ちゃんの隠し事が不安なんだよ。例えばその箱の中身とか、マフラーしてた魔人との関係とかな。」
「まだ開いてなかったから箱の中は本当に知らないよ。今から見てみるの。それと別にアル君は魔人じゃなくて魔法使いだと思うよ。悪魔がいるのか疑わしいくらいだけど。悪さもしてないし、優しいし、警戒するような人じゃないよ。」
すっと部屋の空気が軽くなった様に感じるとパンテルが笑いだした。なんで?
「アッハハハハハハ!別にあのクソガキを弁護しろたぁ言ってねぇよ!魔人でも魔法使いでも、勝者ならそれだ。獣人だって何世代か経ってんだ。無差別に殺気向けるほど悪魔嫌いでもねぇよ!」
「アル君を知ってるの?」
「知ってるもなにも俺が唯一負けたやつだよ。向こうは婆さんも一緒だったが、こっちも相棒がいない一対一なら多分ヤバかったからな。確かに負けだ。」
「そうだったんだ...。じゃあ聞きたいことって?」
「いや、あいつのアーツについて知ってたろ?あんなのは見たことねぇし、やべぇもん抱えてんじゃねぇかと思ってな。それでだよ。」
「それは...内緒じゃダメ?ソフィアおばあちゃんにも言えて無いことなの。アル君にも関係するから私の独断じゃダメだよ。」
「...そうかよ。それならそれでいいが、希望を見ても苦しいだけの時もあるぜ。」
パンテルの言葉に疑問を抱き数瞬の後にハッとする。私はまだソフィアおばあちゃんやアル君が生きてるように話すんだなぁ。
「よし、ソフィアおばあちゃんの御屋敷に行こうか。前を向ける様に。目をそらしても他の事も見えなくなっちゃうだけだもの!」
「お嬢様、お供しますよ。」
「へいへい、護衛依頼だかんな。でも、なんかヤバそうだし報酬はたんまり貰うぜ。」
夜の闇に紛れて「消音」と「影作り」で私達は別邸を抜け出した。夕方と違うのは一人増えた事と置き手紙が無いこと。使用人の皆、ごめんなさい。
「こりゃあ...ひでぇな。」
魔術で光を作り辺りを照らすとそこにはただの焼け野はらが広がっていた。
「多分、周りの草木なんかも焼けちゃったんだ...。確かこの辺りに大きな木があったんだよ。」
「旨い実のなってた木だろ?あと、二歩は左だぞ。」
パンテルがなんでソフィアおばあちゃんの家にあった柿の味を知ってるのかは置いておいて、御屋敷のあった場所を探る。だけど目に入るのは灰や煤ばかりだった。
「お嬢様、何かお探しですか?」
「それなら多分無駄だぜ。この辺は俺達以外の人の匂いもする。火の消えた後に国の奴らが回収に来たんだろうよ。なんか残ってりゃあだが。」
「そういえばアロシアス王子が実際に見たように話してた。」
「あん?そりゃ一週間位前だろ?こりゃ別の匂いだよ。俺は犬じゃねぇから何日も前だと匂いを辿るのは無理だ。」
「では、誰が来たのでしょうね?」
「知らねぇよ、んなもん。お嬢ちゃんに心当たりはねぇのかよ?」
「ごめんね、分からない。」
そのあとも焼け跡に何か火の魔法使いの手がかりが残ってないか探したが結局何も見付からなかった。夜も深まって来てこれ以上は危ないだろう。そろそろ寝静まった王都から人が出ても気づかれにくい時間だ。
「とりあえず今晩はこっちに泊まろう。アル君が作った小屋が森の方にあるから。」
「なんでそんなもんがあるんだ?」
「アル君は一年位この森に居たからかな...。」
「野生児かよ。」
森の中を風の移動補助魔術も使用して駆け抜けると一時間程で小屋が見えてきた。もう五年は放置されているのに崩れてない。簡素な作りだし所々歪んでるけど雨風は凌げそうだ。
「おぉ!すげぇな、魔術!体も軽いし疲れもしねぇ!」
「回復と呼吸補助、あとかるい浮遊の魔術を掛けてるからね。それと追い風とか色々。」
「思ったよりも近いのですね。何故一年間もいたのでしょうか?」
「最初は食べ物とかに必死だったみたいだし、五年前だから魔術の使えない12才の火傷の男の子だからね。多分凄い遠く感じる距離だったんじゃないかな。」
小屋の中に入ると床に草があるだけの空間だった。よくみると柱は木を切らずにそのまま使っており、天井は煤だらけの布だ。壁に至っては骨組みにした木が所々見えているが土だと思う。
「...まぁ、子供の作るものにしてはかなり凄いよね。」
「お嬢様、ここで寝るのですか?」
「草を新しいの引けば寝れるだろ。俺は外で寝袋使うけど。」
パンテルが大量の草で簡易ベッドを作る。まぁ、草の山に布を被せただけなんだけど。
「まぁ、とりあえずはお父様に連れ戻されはしないでしょうし。見張りは交代でしよう、パンテル。」
「いや、俺は昼間に寝てんだわ。二人で寝とけよ。まぁ、その分報酬は多く戴くけどな!」
「お嬢様、まだ何かするのですか?」
「うん、とにかく情報をつかまないと。あの火の魔法使いはきっともっと大きな事をするよ。アロシアス王子は国の地盤固めに忙しいだろうし。アレーシグ公爵とも何かあるみたいだしね。」
「そうですか。分かりました、でもあまり無理はなさいませんようにしてください。」
「護衛しやすい様に動いてくれよ?」
「分かってるよ。お休み。」
明日はどうしようかと考えながら私は眠りに落ちていった。




