21話 少女の思いと出会い
「エレシアちゃん、魔方陣上手くできたかしら?うん、良いできねぇ。これならちゃんと魔術も発動するわね。」
「なぁ、エレシア『曲線』はなんていうんだ?ふむ、曲線って言うのか。えっ?いや、シアとは呼ばないってばいい加減諦めろよ。」
「エレシアちゃん、アル君が何て言ってるか教えてくれないかしら?その、分からなくて...。あぁ、この記号の意味を聞いてたの。これは王国の魔導師として、認められたって意味よ。...JIS?ふふっ、エレシアちゃんは分かるのねぇ。」
「えっ?このマフラー?いや、暑くないよ。火傷で首周りは鈍いのかもな。まぁ、左の方は少し暑いけど...。理由?過去は探らない主義だったんじゃ?...冗談だよ、そんなに慌てんなって。」
「エレシアちゃん、ごめんなさいね。さようなら...。」
えっ?ソフィアおばあちゃん?
「エレシア、悪い。ちょっと遠くにいっちまうみたいだ。」
アル君まで...。ねえ、二人とも何ではなれるの?
「エレシアちゃん...。」
「エレシア...。」
「待って!!」
自分の叫び声で目が覚める。窓からの光が、夕暮れ時だと伝えてくる。
「お嬢様!大丈夫ですか?」
カプラーネの声が聞こえた。どうやら驚かせてしまったらしい。私は布団から出ようとして―――こけた。盛大に。
「お嬢様!?失礼します!」
「あぁ、カーネ。どうしようか?足がね、動いてくれないの。すぐにでも、確かめなくちゃ行けないのに。だってソフィアおばあちゃんがいるんだよ?こんなにあっけなく居なくなっちゃわないよね。アル君だって凄い体力があるんだよ?カーネも知ってるでしょ。あの森に毎日通ってるんだよ。」
「お嬢様...。」
「まだソフィアおばあちゃんに秘密にしてること有ったんだよ。いつか聞かせてあげるねって言ってたの。今回の訪問で言うつもりだったの。何で私がアル君の言葉を知ってたのか。
アル君にも聞きたいことあったんだよ。最後にあんな手紙出しといていなくならないよ。二人とも...。」
「シア、布団に戻ろう?体冷えちゃうよ。」
「ねぇ、カーネ。...カーネはずっと...居てくれるよね...私の傍に...。」
「えぇ、シア。私はここにいるわよ。ここにいるから...。」
カーネの暖かい腕の中で私は泣いた。泣いてしまった。認めてしまったから。泣いている私にカーネは静かにそこにいてくれた。
「ありがとう、もう大丈夫だよカーネ。これは?」
泣き止んで少し冷静になれた私はベットの脇の机にある、少し古びた紙を見つけてカーネに問う。
「それなら、昨日王子が置いていったそうよ。...先に読んでもいい?」
「ううん、大丈夫。自分で読むよ。ありがとうね、カーネ。」
内容が分からない手紙と私の心情を思ってか、先に読もうかと提案してきたカーネに私は首をふる。微かにペンダントが揺れて少し泣きそうになる。
「読み上げるね。
『私の思っていた以上に精神に負荷をかけたようで申し訳ない。ただ、何の連絡も無しに事件のあったあの場に行くより良いだろうと思ったのだ。しかし、ケアニスに相談されたというのは本当だ。なにやら火急の用があったようで血相を変えていたのだ。この場にいなかった彼を責めないでほしい。
それと例の傭兵を紹介しておくことにする。いつ動けるか定かでは無いため酒場で毎日待ってもらっている。本人はおごり飯と拠点だ!と喜んでいたので全く急ぐ必要はない。むしろ待ちぼうけさせてもいいかも知れない。とにかく合図を教えておく。その気になったら王都の四番目に大きい酒場で「ストレートの水を三杯とツマミに干し肉を二つ」をたのんでくれ。それで店主が察してくれるはずだ。
貴女の安全を望む者より。』
って書いてあるよ。」
「どうする?シア。傭兵を雇うだけなら変わりの人を行かせても良いと思うけど。」
「ううん、大丈夫。少し心の整理をつけるのでも外を歩くのは良いと思うし。それにソフィアおばあちゃんの家はこの目で見ておきたいの。」
「分かった。でも、無理はしないこと。後隠し事も。」
「分かってるよ、カーネ。また泣いちゃうかも知れないけど、きっとこれは必要な事だよ。だから大丈夫。」
すぐに町娘用に買った地味目な服に着替えてから、私の扇を懐に入れて服の上からペンダントと一緒に強く握る。うん、私は大丈夫だ。
「出発するよ!カーネ!」
「シア、せめて裏口からね。」
「大丈夫、これがあるから。」
私は扇に二つ羽を作り魔術を発動する。効果は「消音」と「不可視」だ。
音がこちらから出ていかないようにするのと、光が私たちから反射せずに後ろの光を持ってくる魔術で一様中級魔術。
下級魔術に音を塞ぐ「防音」と反射しなくなる「影作り」があるけど、音が聞こえないのも少しでも明るいと目立つのも却下だ。
「じゃあ行こうか、カーネお姉ちゃん。」
「今回も姉妹なのね...。あぁ、知り合いに会いませんように。」
コートを羽織った二人は深くフードをかぶり顔と目立つ髪を隠して夕暮れの町に歩きだした。




