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滅炎の復讐者  作者: 古口 宗
第二章 アルの物語
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13話 アル誘拐事件

 あれ?なんでこうなったんだっけ?

 そう疑問に思うのは目の前の光景が原因だ。何せ何にも見えないのだから。


「よし、これでいいだろう。後は、あの婆さん呼び出してしまいだ。」

「でも、そう簡単にいくかな?あそこにゃあ、セメリアス侯爵家の一人娘や、あのナイアース伯爵家の息子だって出入りしてるらしいんだろ?」

「けっ!こんなガキ一人に御貴族様が動くかよ!」


 うーん、貴族ではないのかね?よし、一回整理しよう。

 事の起こりは数分前にさかのぼる。






「やぁ、坊や。今日も元気いいねぇ。」

「あ、どうも。こんにちは。」


 王都の防壁から離れて数時間の森から帰る俺は、何度かアーツを織り混ぜた動きに成功し上機嫌だった。だから、このおっさんが知らんやつなのに強く警戒しなかったんだな。いや、これは言い訳だわ。どっちかっていうとおっさんの顔に気を取られていたんだな。だってハイエナだし。見るからに、某夢の国で獅子の王様の映画に出てきた三に...三匹組の一匹じゃん。ほら、バカでも姉貴でもないの。

 それはともかくまぁ、俗にいう獣人って奴なんだろう。なんせ初めて見たから驚いたんだ。んで王都の外にあるソフィアばあちゃんの屋敷からも見えず、遭難もしない、治安も悪くなりすぎない場所って事で、森の出口は格好の場所。そんなとこに16の少年が夕刻に一人でキノコ担いで歩いてる。うん、まぁ、こうなるわ。後ろから殴られて、気づいたらこうだ。今までみたいに木の天井は出迎えてくれずに布だと思われる感触というわけだ。

 んで、冒頭になるわけよ。


「まぁ、とりあえずあの屋敷にこの手紙出そうぜ。」

「でも本当に一人で来るのか?」

「あの婆さんはこのガキを4年近く育ててんだよ。今さら死ぬのを黙って見てるたぁ思えん。なに、此処に誘き出せりゃ勝ちだ勝ち。」


 うん、目的は知らんがとりあえず貴族でなくてソフィアばあちゃんの敵だろう。つまり殴ってもいいよな?でも、手足も縛られてんだよな。縄抜けなんざ数回しか、やったことないってのに。出来るかな?






「ふう、やっと取れたよ。ったく、キツすぎだろあの縄。跡ついてんぞ。」


 ぼやきながら立ち上がると外はもうくらい。


「...腹減ったな。帰り道どっちだ?」


 とりあえず建物から出ようとすると外から得意げな叫び声が聞こえた。


「此処には魔方陣が働かなくなるようにマナを大量に取り上げる魔術を使ってんだ!魔術の使えない人間の婆さんと、獣人の男二人!どっちが勝つよ?」


 どうやらソフィアばあちゃん来てるみたいだ。多分あの獣人とも話をしてるんだろう。だけどソフィアばあちゃんもいい歳だ。急いだ方がいいだろう。俺ならマナを取られても少し残ってれば問題ないからな。

 外に出るとソフィアばあちゃんの前にさっきの獣人とフードを深く被った男が立っている。どうやら誘拐犯はこの二人組で間違いないな。


「おや、アル君。思ったより元気そうねぇ。」

「ただいま、ばあちゃん。」

「おい、ガキ!なんで此処にいる!」

「いや、連れてきたのそっちじゃん。」

「縛ってた事だよ。抜けたの?」

「あんなん、サバゲー仲間の変態クラスメイトの縛りかたに比べりゃ寒気がしない分数倍ましだわ。」

「なに言ってんだ?こいつ。」

「たまに私も分からないの。寂しいわぁ。」

「「いや、なんで和やかな話し方?」」


 おっと、誘拐犯な獣人と揃った。おい、こっち見んな。揃えるな動きまで!


「まぁ、いい。ガキ一人で変わらん。さぁ婆さん。「悪魔の心臓」を渡して貰えるか。」

「私の物じゃないんでねぇ。誰から言われたんだい?ありゃあ獣人が欲しがるもんでは無いだろう。」

「けっ!どこぞの公爵様だよ。あの野郎、うちの村の者を奴隷として引っ立てていきやがった。税収にしちゃぼったくりもいいとこだ!」

「買い戻し代金が「悪魔の心臓」とは悪趣味な公爵だねぇ。」


 なんかよく分からない会話が長引いてるうちに俺は魔力を巡らせる。魔術は魔力を大量に魔方陣に流し込んでマナを引きずり、起こしている現象だ。しかし、俺の場合は魔力を直接操れる。マナを水とすると、上から息を吹いて動かすのが一般的なのだが俺のような魔法使いは手ですくったりして動かせる。つまりはるかに効率がいいのだ。魔方陣を使わないと調整が少々難しいがそれは()()()使()()場合。

 深く息を吸い込み集中していく。右手に集めた魔力を魔方陣の様に動かして得た感覚をトレースして魔力を()()()形にする。すっかり少なくなった周囲のマナを探しだし引き寄せる。最後に引き寄せたマナを魔方陣の形に走らせることで魔力を繋げる性質を持たせて、形を作った魔力に運ぶ。


「アーツ、「チーター」」


 そう、魔力を固めるアーツを魔力を操れる魔法使いが使うと、魔術にすらならないのだ。得意な属性の片鱗すらない分、俺の魔力は純粋なマナに干渉しやすい。アーツは制御しやすい少量かつ、属性のマナは使わないためほとんどマナを操っているような物だ。確かにこれは、俺には向いている。


「ガキ!?なんで魔術なんて使えてんだよ!?」

「魔術じゃないからだよ。」


 光の屈折で浮かび上がった半透明なベレッタM84(チーター)は、もはや光の銃とでもいえる輝きで俺の手の中に現れた。

次回、「獣人と魔人」

お楽しみに!

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