12話 アーツという魔術
「うん、きっとアル君は不器用なんだね。悪魔の補助働いてるの?」
「いや、なんで出来るんだよ...。」
エレシアが新しい治療魔術の習得を終えて、アーツを習いだし習得した。いや、はやいよ。
「アル君もアーツ使えるじゃん。しかも、魔方陣無しで。」
「俺の魔力量で魔方陣に流し込んでたら枯渇するのはすぐだし、俺は一年かけてやっと効果付与の段階にたどり着いたんだけど。俺の一年間の努力に半日で追い付いてんじゃんかよ。」
俺は魔力を自分の手の甲に魔方陣の形に魔力を動かしてアーツを使っている。そのためマナを引きずるのに少量とられていくが、自分の体の中に流しているため魔方陣に注ぐよりはるかに消費が少ない。魔法使いだからこそ出来る芸当だ。
「で、今は何をそんなに練習してるの?」
「もつと早く展開したいんだよ。魔方陣の形に魔力を持っていくのも少し遅いし、魔方陣の補助無しとはいえエレシアに負けてるようじゃ実用化できないしね。」
「さっき同じくらいだったよ?」
「すげぇ複雑な形にしたいの。」
アーツは魔方陣には結晶化と付与効果しか書かれない。つまり、結晶化の数と形には慣れていくしか無いのだ。もっとも魔方陣は作るアーツの数いる。俺は流しては回収できる訳だから、一つでいい。八枚も用意しなくていい分楽だ。
だが、エレシアは今俺と同じ早さで魔力の花を作った。つまり俺の速度は一年頑張っても1日で追い付ける練度ということだ。ちなみに花はエレシアの指定で葵である。なんか思い入れがあるらしい。ばあちゃんが見たことないらしいから前世かな?
「まぁ、エレシアちゃんはかなり器用な部類にはいるからねぇ。そんなに落ち込まないでね、アル君。」
「一瞬で違う魔方陣がある羽を扇いっぱいに作るばあちゃんが言う?それ。」
「私はエレシアちゃんの師匠だからねぇ。それに私は動作付きの複雑な物は時間かかるよ?」
「アル君、ギミック付きの物を作ろうとしてたの?それ、大きさとか合わせながら二つ以上同時に作らなきゃいけないよね?」
「まぁ、アーツは結晶化してるから魔力みたいに動かせないしな。できてバネ位だったしほぼ摩擦無いし金属に近いかもな。見た目完全に水晶みたいだけど。」
「私のは薄い水色だけどね。」
「ばあちゃんは緑に近いよね?」
「きっと属性に関係してるんだろうと思うよ。エレシアちゃんは少し水を使う魔術が他より使いやすいだろうし、私は風を使うのが得意な魔術師だからね。」
「んじゃあ、無色透明な俺は?」
「何か得意な魔術はあったかい?随分と本を読んでいたろう?」
「...一つもない。むしろアーツ以外ろくに使えない。」
「そう言うことさ。なに、「飛来する結晶」は透明な魔力だったと聞くし、アーツは合っていると思うよ。」
「つまり、得意な分野なのにこの様かよ...。」
文学少年に理数系学問は難しいようだ。もっと単純な魔術増やさないかな?感覚的に操作出来るやつ。あ、それが魔法か。
「そういえば魔力って魂の一部なんだよね?固めて大丈夫なの?」
「今さらだけどそう考えると怖いんだけど?なんで練習中にそれ言ったの?」
練習中にエレシアが質問してきた。いや、ばあちゃんに言ってよ。知らないよ。あと、練習中に言うなよ。怖くて一瞬で解除したわ。
「解除したら戻ってるだろう?第一自分に触れている魔力なんだから、自分の肉体と同じ扱いとして処理されているはずだよ。」
「あれ?じゃあもしかしてマナ使って無いの?これ。」
「いや、魔力同士を繋ぐのはマナの役割だよ。魔力はただの指向性だからね。」
よかった。魂カチコチ人間にはなんないようだ。カチコチになって問題なのかも知らないけど。
「ソフィア様。お嬢様をお迎えに上がりました。」
「あら、カプラーネちゃんだねぇ。久しぶり。今日はナイアース家の方じゃないのかい?」
「少々込み入った事情がありまして...。」
「しばらくケアニス様に顔は会わせられませんわよね?何せカチューっ。」
「では失礼します。」
綺麗な青髪の人の込み入った事情とやらが気になり、エレシアに視線を向けるとニヤニヤしつつ、暴露してくれた。なるほどあの最高傑作を使ったのか。この髪色に合う猫耳カチューシャを作ってくれと誰かの髪の毛を持ってきた時は何事かと思ったがこのためだったらしい。
その行動はいいが、俺がそれを見れていない。なので途中で捕獲され、馬車に連れていかれる彼女の救援を求める視線はスルーした。あの人なら、きっとそれをつけたまま冷静に業務をこなしてくれたはずだ。自由奔放代表の猫耳を着けて、だ。ギャップ萌えいけたな。多分。
「さて、今日は裏の森で動いてくる。ばあちゃんは何か採ってくるものとかある?ついでに採ってくるよ。」
「あぁ、そう?じゃあ、八百屋さんの傷につける薬の材料が心もとないからお願いするわ。いつものキノコよ。」
「了解。いってきまーす。」
後ろから行ってらっしゃいに混じって、話の通り訓練馬鹿ですね。と聞こえた気もしたが、無視して王都と逆、馬車と同じ方向に向けて走り森に入る。ばあちゃんの屋敷に来てから欠かさず行っている運動のおかげで随分と筋肉もついた。廃村や森などサバゲー、もとい模擬戦用の環境はバッチリだ。「火狂い」を殺るには体力と機動力でいかに火に当たらないかが問われるからな。それにアーツで作るアレも慣れておく必要がある。きっと鍛冶屋の親父には今日も世話になるだろう。後ろから響く馬車の音を耳に入れつつ、俺は東に駆けていった。
次回、「アル誘拐事件」
お楽しみに!




