ヤバイ会議中
その日の夜、消灯時刻を過ぎて使用人たちが全員寝室に入ったのを見計らって、
「プチドラ、起きなさい。行くわよ」
「……むにゅ? 『行く』って、どこへ?」
「地下よ。ガイウスとクラウディアのところ。二人がいるかどうかは分からないけど、行ってみましょう。ひょっとすると、何か役に立ちそうな情報をつかんでいるかもしれないわ」
「さあ、それは、どうかなぁ……」
わたしはプチドラを抱き上げ、誰にも見つからないよう、慎重に「開かずの間」に向かった。そして、プチドラの魔法の呪文で「開かずの間」のドアを開け、さらに、部屋の床に設けられた扉から隠し通路を通って、賃貸しているダーク・エルフの隠し部屋に。
隠し部屋の前まで来ると、(一応、コンコンとノックしてから)わたしは入り口のドアを開け、
「こんばんわ。久しぶり」
すると、机を囲んでいた10名ほどのダーク・エルフが、一斉に視線をわたしに注いだ。みんな鋭い目つき。立ち上がり、腰に差したレイピアに手をかけた者もいる。他人に聞かれたらヤバイ話をしていたのかもしれない。ガイウスとクラウディア以外のダーク・エルフとは、話をしたことはないので、わたしは不法侵入者のように見られたのだろう。
しかし、すぐに、(わたしから見て)一番奥にいたダーク・エルフが立ち上がり、
「みんな、そう興奮するな。この人は敵ではない」
そのダーク・エルフは、リーダーのガイウスだった。
「重要な会議中だったのかしら。とりあえず、出直したほうがよさそうね」
と、プチドラを抱いて引き返そうとすると、
「いや、そうでもないよ。久しぶりの再会だし、ゆっくりしていってくれればいい」
ガイウスが、そう言い終った時には、ガイウスとクラウディアを除くダーク・エルフは部屋からいなくなっていた。反対側のドアから、疾風のように姿を消していた。
クラウディアは、もうひとつ、カップに紅茶を注ぐと、
「お帰りなさい、カトリーナさん。まあまあ、どうぞ、お掛けになってください」
「ありがとう」
わたしが椅子に腰掛けて紅茶をひと口すすると、
「しかし突然の来訪だな。一瞬、がさ入れと思った。心臓に悪いよ」
ガイウスが苦笑して言った。
「事前に知らせておけばよかったわね。ごめんなさい。ところで、さっきはみんな集まって、またまた危ない話をしていたのかしら? 秘密なら、そういうことでいいけど……」
「そんな危ない話じゃないんだけどね。まあ、いわゆる定例会議みたいなものかな」
ガイウスは「ハハハ」と乾いた声で笑った。




